第二話 腰袋から色々出てきた
仙人じゃあるまいし。
こんな木の上で生涯を過ごすわけにもいかない。
だが、絶対いるんだろうな…
と思う。
だって聞こえるもの。
昨今聞かなくなった、野良犬の遠吠え。
あれを悪質にした、
「ギャゴオォォォォォォォォォォォォオン!」
みたいの。
降りたら間も無く、食われるだろう。
だがおっさんも食わなければ死ぬ。
とりあえずズボンのポケットに、
焼酎が入っていたので、
体温で生温いが、グビっと呑む。
もし何かが襲ってきたら…
と思い、真っ先に思いつく道具
釘打ち機を出してみる。
普通に出てきた。
大きさ的におかしいが、
出ないよりは良いので文句は言わない。
だが、釘打ち機だけあっても仕方がない。
動力となる、エアーコンプレッサー、それを繋ぐエアーホースも無ければ…
出てきた。
もう、何も言うまい。
そういうチートスキル、なのだろう。
そうこうしていると、腹が鳴る。
酒を呑むと腹が減る。
この世の理だ。
もう躊躇わないおっさんは、
充電式冷蔵庫を腰袋から取り出し、
中に保管しておいた冷凍鍋焼きうどんを……
➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖
おっさんは立派な社会人である。
もう三十年以上働いている。
常識もある、建前と本音も上手に使える。
社会的信用もしっかり得ている。
何故なら、住宅ローンも組めたから。
そんなおっさんが、
地上50メートルはある巨木の枝の上に…
システムキッチンを取り出した。
…驚くのは辞めた。
そうゆうものなのだろう。
操作してみると、
蛇口から水が出た。
ダイヤルを捻ると…
火がつき、鍋焼きうどんを温め始めた。
シンクからは水がジャバジャバ流れるが…
下扉を開けても、足元にも、排水は出てこない。
くつくつと煮たつうどんを見ながら、
おっさんは…
「俺、なんかしちゃいました?」
と、お気に入りのセリフを呟くのだった。