表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/279

第二十八話

やはり連休だと、心太も作りやすいですね。

次の満月までは、まだあと一週間ある。


それまでに自宅の地下に蒸留施設を完成させて、

樹海の深部に現れるという……

キビ魍魎もうりょうとやらを採集しに行きたい。


──大いに盛り上がった上棟式……

ただの呑み会ではあるのだが、その翌日。


おっさんは痛む頭と胃の不快感に苦しみながら、

布団の中で段取りを組んでいた。


だが……まぁ、今日はいいだろう……


酒など二度と飲まぬ。と思える程の後悔が体を蝕む。


おっさんの個室は、最も屋根に近い高所に浮かぶ、

外からの見た目は球体の部屋だ。


昨夜の宴会中に夜空に怪しく光っていた紅い月がコレだ。


中はいたってシンプルな八畳間。

おっさん布団派閥の議員なので、畳も誂えた。


というか、腰袋に入っていたモダンで洗練された琉球畳を、一枚のサイズが半畳なので、

それらを十六枚敷き詰め、シンデレラフィットするように作られた部屋なのだ。


反省も十分出来たので、身体を起こし水を一杯飲む。


おっさんは全く理解していないが、

この惑星の動力の源、『魔素の奔流』が豊富に含まれたこの水は、一瞬で体内を駆け巡り…


これだけで、体調は全快する。


今となってはいつでも気軽に行けるが、

樹海の水は何かが違うらしい。

知らんけど。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


せっかく…床にダンボールを敷き詰めた部屋を作ってやったというのに、わざわざおっさんの部屋に来て、

美麗な畳でバリバリと爪を研ぐ、悪い猫と共にリビングへと降りる。


家族は全員揃っていた。


リリも、各地で起こる災害の…傾向と対策を王宮の識者を交え検討し、取り敢えずひと段落したそうだ。


根本的な解決などはまだ未知の領域なのだろうが、

彼女が普段と違う、薄ら色の入ったおしゃれなメガネをかけ、リラックスしている様子を見れば、安心感と共に微笑みも浮かぶ。


「リリのお陰でよ、凄え蒸留所見つかったんだっけ〜、ありがとうな。」


普段はカッチリと決まったスーツしか纏わない彼女が、

フニャっとした笑顔で牛柄のモコモコした部屋着で寛ぐ。


その横には、キリン柄の王女、ゼブラな近衛騎士、

豹柄のギャルと……

なぜかワニの口から顔を出したトゥエラ達が、

アニマルパーティーを開いていた。


おっさんは普通の作務衣なので、逆に違和感を感じる。


淹れてもらった熱いコーヒーを啜りつつ、

「そんな服どこにあったんで?」と聞くと、


ビートル君達にお願いしたら、糸や布を消費してあっという間に縫い上げてくれたそうだ。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


なにを話していたのかと思えば、昨日のご馳走の話題らしい。

似た様なものは日々食わせているのだが、

おっさんも多少摘んでみて分かったが、

完成度が全く違うのだ。


迅速に手打ちで作られた麺……打っていたのは鍋なのだが、

そこに透き通った貝出汁のスープが絡み、

包丁ではとても再現のできない、糸よりも細く刻まれた唐辛子が非常に良いアクセントとなり、

粉末状になるまで刻まれた柚子が全てを纏めた、

美味すぎるラーメンだった。


挿絵(By みてみん)


おっさんは料理のレシピ本を指差し、こうゆう感じのヤツ、としか指示していない。


おでんも秀逸だった。

最終的には一つのデカい土鍋に全種類が浮いていたのだが……

箸の苦手な異世界人を気遣ってか、

殆どの具には串が刺さり食べやすく盛られていて、

味にも驚いた。


鍋の中のスープが、混じり合わないのだ。

ビートル君も、ドワーフに創られたロボ(ゴーレム)故、魔法は使えない。

魔石を触媒とした謎の技術により、鍋の中の対流をコントロールしたようだった。

ソーセージを食っても、はんぺんを食っても、味が喧嘩していない、だが敢えて喧嘩させた煮卵などは、さらに絶品であった。


挿絵(By みてみん)


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


中華風うま煮もサラダも素晴らしい出来だったそうなのだが、

何より家族達を唸らせたのは、ケーキであった。


想像出来るか?

焼きたてのスポンジケーキを、ホールの大きさで……

厚み5ミリほどづつにスライスするのだ。

間に生クリームと新鮮な果物を挟むのだが、

それも極薄にカットされ、ケーキの断面は…


多色色鉛筆のケースのようであった。


挿絵(By みてみん)


見た目は良いが、果物が多すぎて水分でベチャッとなりそうに思えたのだが、


まぁおっさんは食わないので知らんが……


ビートル君達の謎技術により、フルーツの水気も極薄の膜で封じ込められ、薄切りのスポンジもしっかりとした食感があり、

口の中が南国だったそうだ。


…異世界にも南国はあるのか?


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


あれほどの人が集まり宴会をしたというのに、

床には髪の毛一本落ちていなかった。


おっさんが酔い潰れた後、誰かが掃除でもしたのかと思ったが、食器の片付け以外は何もしていないと言う家族達。


目線の端っこにチラリと写る、カサカサと動く物体。


地球上に蔓延るアイツであったならば、消毒をせねばならないところだが、

光の加減で玉虫色に煌めく美しいビートル君には、誰も嫌悪感を示さなかった。


明日からは真面目に、地下施設の工事に入ろうと思うが──

今日は、誰も特に予定はないそうなので……

皆の顔を眺めながら、久々にゆっくりとくつろぐことにした。


外にまだ残る仮設住宅は、皆の私物がなくなり次第、腰袋に仕舞う予定だ。


そんなことを考えていると──

まだ朝だというのに、みーくんが「にゃおー(寝よ〜)」と催促してきたので、

生クリームを皿に盛って出してやると、

鼻の穴にまで詰める勢いで、ペロペロと食っていた。


先程は、酒など一生飲まんと思っていたが、


万全な体調と、優しい家族達に囲まれてしまっては……


「酒を呑まずにいられない」などと、昔の名曲のようなタイトルを語り、

神の雫(ストゼロ)を煽り始めるおっさんであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ