第十八話 結局…普通のメシが一番うめぇ
樹海の旅は、
いつの間にか日付も数えるのをやめていた。
けれど──メシだけは、
マンネリにならないよう、気を抜かないおっさんであった。
何しろこの森、食材と調味料には事欠かない。
魚介だけは……まぁ、まだ見かけてないが、
ムカデ肉があれば、なんとなく代用できる自信もあった。
元々、世界中を飛び回った出張大工である。
郷土料理だろうが、屋台メシだろうが、
腹さえ壊さなきゃ…
全て美味しく食う精神を持ち合わせている。
だが、やはり落ち着くのは、
普通の日本のメシだった。
ラーメン、チャーハン、寿司に天ぷら。
蕎麦、うどん、カレーライス。
そして酒のアテになるちょっとしたツマミ。
この歳になると──美味いか不味いかよりも、
焼酎に合うかどうか。
それが重要だった。
だが、彼女は違う。
甘いものも、脂っこいものも、目を輝かせて
頬張ってくれるあの笑顔を見てしまうと……
「肉野菜炒めでいーべ」
なんて気分には、どうしてもなれないのだった。
どうしたら喜ぶだろうか。
こうしたら驚くかもな。
年甲斐もなく──
サブライム?
とかいうやつを、つい狙ってしまうのであった。
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オムライスも作った。
エビフライも揚げてみた。
親子丼もふわトロで再現済み。
ラーメン、チャーハン、蕎麦にうどん、
おにぎり、焼き魚、卵焼き、ピザ、ハンバーグ、
カレー、シチュー、パスタにグラタン。
思いつく限りのメシは、
この森でほぼ全部やってやった。
元はと言えばムカデだの、ジャガー芋だの、
わけのわからない素材だが…
仕上がりはびっくりするほど
「いつもの味」になるのだから笑うしかない。
やろうと思えば、
もっと奇天烈なメニューだって作れそうだが……
「結局…普通のメシが一番うめぇ」
おっさんは、そんなオチに落ち着いていた。
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ジャガーの名前は…
みーちゃん。となった。
トゥエラがそう呼ぶからだ。
奇しくも、おっさんが助け………死んだ。
スリムな白猫みー君。
彼に近い名付けとなった。
大阪のおばちゃんみたいな模様なんだがな…
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そんなこんなで日々を重ね、
やけにデカい真っ赤な月も、
満月から、
上弦、下弦、二日月まで、
一通り見た頃。
ようやく、森の終わりが見えた来た。
数日前から気配はあったのだ。
化け物みたいな巨木は居なくなり、
密度も薄く、日差しが肌を焼き始め…
──怪物もあまり見なくなり…
おっさんの中で言うファンタジー的な…
小さきゴブリンやら、
棍棒を持った二足歩行の豚やら、
あっても八尺程度の一つ目の鬼やら…
トゥエラ牽制や、
みーちゃんの甘噛みなどで
簡単に…素材も残さず消し飛んでしまう。
拠点のあった深淵とは比べるべきも無かった。