表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/279

第十二話

皆様、ラッキー君って覚えていますでしょうか…?

車を乗り回すようになったリリと娘達には、

さすがに街の見える範囲から出るな。

というのも無理があるし、過保護すぎるかもしれない。と思い直し、

「夕飯までには帰ってこーよ。」

と言っておいた。


外壁はもう、セーブルに全て任せることにし、

おっさんは、窓や玄関のアルミサッシを取り付けたり、片流れ屋根の正面側に雨樋あまどいをとりつけたりして回った。


そして、建物の外周部に関わる作業は全て終了した為、仮設足場も解体してしまう。


足場が無くなると、ぐっと家らしさが引き立ち、

もういつでも住めるんじゃないか?

という雰囲気になる。


ところが、内装はまだ手付かずである。

作業用足場の為に、雑に並べたコンパネが敷いてあるだけであり、

ルーフバルコニー(展望露天風呂)へと上がる階段も無ければ、

キッチンもトイレもない。


だが、ここからはゆっくりでいいのだ。

大雨が降ろうとも、この新居の中に吹き込むことは、

もうない。

仮設住宅がとても狭くて居心地が悪い。

といったわけでもない。



おっさんが本気をだして取り組めば…

あと一週間もあれば完璧に仕上がってしまうかもしれない、が…


ここから先の内装工事に関しては、セーブルや娘達に任せようかと考えている。


何十年と大工を納めてきたおっさんだが、

今まで関わったどんな仕事であっても…

「糸一本の隙間も…」

と妥協せずに馬鹿頑固バガンコに創り上げてきた訳だが…

この家に関しては、しっちゃかめっちゃかでも良いような気がしてきたのだった。

むしろ、その方が面白いかもしれない。


流石に、階段がへし折れて誰かが怪我をしたり…

なんて事態は回避せなばならない。が、

ちょこちょこっと、重要な部分だけ手や口をだせば十分だっぺ。

と、個性的な家族のみんなが、

どんなオモシロハウスにしてくれるのかを妄想しつつ、

ニヤけつつ家族の帰りを、冷えた焼酎と共に待つのだった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


──数日前に、毒杯を煽り…

生死の境を彷徨ったおっさんであったが、

その影響なのかどうかは、全く定かにならないが、


どうやら……

おっさんがこの異世界に来てから、手がけた建築物や、自宅に…


瞬間(フワッと)移動出来るようになったようだった。


おっさんは、以前テティスから魔法の指導を享受し、

てのひらから火の玉や水を出してみようと…

数日程度努力してみた事があった。


──だが、どれほど力もうとも──

出たのは屁くらいであった。


なので、おっさんには魔力だか魔素だかといった不思議パワーは一切宿らないらしい。


「魔法でねーんだったら…なんなんだっぺ?」


しばらく考え…思い当たる節が見つかった。


以前…家族で、日本の離島に昔建てた、

立派なリゾートホテルを召喚し、泊まった時のこと…


食事も風呂も、スイートルームも満喫して、

翌朝を迎え…さぁ帰ろうと、フロントにキーを返したその瞬間……

フワリ、と手元に現れたメッセージカードに、


「See you again, my father.」


と書かれていたのだ。


その時は、さして気にも留めなかったのだが…

あのホテル(建築物)は…おっさんのことを父だとでも思っているのだろうか?


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


まぁ確かに、あのホテルに限らず。

ハイテク古民家、マンション、普通の建売住宅から、橋やトンネル。富士山山頂もか…?


言ってみれば、全ての関わった建物に魂を込めて、

誠心誠意工事に取り組んだおっさんの現場ではあるが…


それらには全て、クライアント(施工主)が居て、

竣工(完成)と同時におっさんの手を離れた建物達だ。

富士山が建物かどうかは別として…


──しかし、あのとき…


毒酒を飲み干しぶっ倒れ、真っ暗い空間で

家族達を思い出した。


もっと、側であいつらの成長を見ていたかったな。と…


そのアイツら(家族達)の中に、おっさんが異世界で建てた建築物も含まれているとしたら…?


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


まぁ、考えた所で…

建物と会話ができるわけじゃあるまいし、

不思議現象については、あとで帰ってきたテティスやリリ達にでも聞けば良かろうと。


せっかく使える能力なら使わない手はない。


「たまには…極上の海鮮丼だっぺよね〜」と、


この異世界に転生?して、初めて訪れた人里。

懐かしき、港町を思い起こし、一歩前へ踏み出すと……


グニャリと視界が歪み、次の瞬間には、

目の前に真っ白くどデカい海竜(ラッキー君)の顔があった。


「うお〜〜、こりゃ久方ぶりなんでねぇのっ!?

おめぇ…生きてたんかい〜!よがった〜〜!」


鼻にまとわりつく潮の匂い。

湿度のせいか、

あっという間にベタつくシャツと素肌。


ムアっと暑い。今さっきまでいたホビット族の街とは、明らかに違う季風に、

とんでもない距離を一瞬で移動したんだなぁ。

という実感が湧く。


「キョロルルルルルル〜!」

と、嬉しそうな咆哮をあげ、海竜が頬擦りを試みるが…


世界チャンピオンが本気で殴ったサンドバッグを、

支えていた素人。のような構図で吹き飛ぶおっさん。


強かに後頭部を打ち、グルグルと回る景色を見上げれば、

漆喰の映える美しい神殿と、全方位から聞こえる悲鳴や歓喜、

プール、温泉、スライダー。

それから、火のついた棒を振り回しながらパレードを練り歩く蛮族。


なんとも異様で、なんとも賑やかしい。

おっさんの創り上げたテーマパークが…

「お帰り」と囁いているような…

涼やかなスプリンクラーのミストが、

おっさんに降り注ぐのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ