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第六話

翌朝──

いつも通り(AM5:00)に目を覚ましたおっさんは、

軽く顔を洗い、庭に出た。


身体をゆっくりほぐしながら、手に取ったのは、

──長尺バール。

それを素振り(スイング)するのが、最近の朝の習慣だ。


ゴルフクラブを腰袋から取り出すこともできるのだ。

だが……この異世界にゴルフ場はない。


打つべきティーグラウンドも、

狙うべきカップも、もう…どこにもないのだ。


それでも──

「まぁ、肩こりほぐしにはちょうどいいんだっけ」

と、今日もバールを軽やかに振るうのだった。


今日の予定は──

地下室の土間(床部分)のコンクリート打ち。

あわよくば、そのまま壁面──つまり一階の基礎部分まで、打ち上げてしまいたい。


建設業界の常識で考えれば、絶対に不可能な強行工程だ。

だが……ここは異世界。


テティスに魔法で応援してもらい、

腰袋から湧き出る非常識な道具たちを使えば──

「できない」とは、言い切れない。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


そんなわけで──

今日は女性陣の冒険者活動は、お休みである。


トゥエラは、

みーちゃん(白猫)と追いかけっこするの〜♪」

と庭を駆け回り、


リリは、

「冒険者ギルドで雑務をこなしてきます」

と、そっと眼鏡を押し上げて出かけていった。


そして──王女様はというと、


「わたくしは勇者様(オジサマ)のご活躍、しかと見守らせていただきますわ」


と、胸元に手をあて、朝からどこかしら高貴な雰囲気を醸し出しながら、おっさんに寄り添って来た。


どうやら今日は、建築現場が観覧席らしい。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


朝の静けさの中、

おっさんは昨夜の晩餐から──別皿に避けて(隠して)おいた、

ハニーマスタードチキンを取り出す。


千切ったサニーレタスに、

切ったばかりの瑞々しいトマト。

そして、コッペパンには、

こっそりマヨネーズを忍ばせて──

温め直したチキンを豪快にサンド!


カリッとした皮、ジューシーな甘辛ソース、

しゃきしゃき野菜とトロけるマヨ。


ひと口で「うんめぇっ!!」と叫びたくなる、

最強サンドの完成である。


……が。


それだけでは、ちょっと物足りない。


ということで──

ジャガイモをくし形にカットし、鍋でカリッと素揚げに。

アウトドアスパイス(ほりにし)を振れば完璧だ。


じゅわっと音を立てながら揚がる芋の香ばしさに、

空腹の胃がぐぅと鳴った。


こうして、

朝からハイカロリーでハイテンションな

“ジャンクフードモーニング”が出来上がったのであった。


「うっわ最高〜!これ毎朝食べたいやつぅ!」


テティスは、頬を膨らませながら、勢いよくかぶりつく。


「これは……王宮の料理長にも食べさせてあげたいですわ。きっと…驚き過ぎて倒れてしまわれるかも…」


パステルは、優雅に口元を拭きつつ、しみじみと語る。


「おとーさん!トゥエラ、もっとポテトほしいー!」


元気いっぱいの声が飛び、皿の上のフライドポテトがあっという間に消えていく──


リリには、ホイルで包んだランチボックスを持たせて送り出したが……

ギルドでまた爆衣していないことを祈るばかりだ。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


朝メシが済めば、おっさんは現場に入場だ。


地上から約4メートル落ちた穴の底で、

黙々と鉄筋を並べていく。


スルスルと腰袋から引き出された鉄筋を──

並べたそばから、セーブルがアーク溶接機を構えて、

バチバチッ!と、点付けしていく。


普通なら、配筋中の現場ってのは足元がガタガタで、

めちゃくちゃ歩きにくい。

だが、この現場は違う。


穴底からちょうど10センチ──

鉄筋のすぐ下に、テティスの結界魔法(落っこちんな)が張られている。


鉄筋を踏みながらでも、地面の上を歩くのと変わらない。

おっさんもセーブルも、鼻歌混じりに動き回り、

作業スピードも尋常では無いスピードで進んでゆく。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


配筋が終われば、コンクリートの打設だ。

地上に配置したミキサー車とポンプ車から送り込まれる、生コンクリート+魔素(テティスの尿意)の合成材。

コンクリート強度10000N/mmを叩き出す

ダイヤモンドにすら匹敵しうる人工物…


ガイアベースをホースで流し込んでゆく。

この作業に関しても、娘の魔法が大活躍した。


蓋結界魔法(溢れんな)で土間はぴったり水平に。

鉄筋振動魔法(全範囲バイブレーター)で見るみるうちにコンクリートは全方位に広がり、

時空加速魔法(もういいんじゃね?)で、

三週間程度硬化させたような強度の…

地下室の床が完成した。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


出来そうな気はしていたのだが──


果てしないほど便利な魔法を目の当たりにし、

おっさんはふと、自分の「職人としての価値」に問いを投げかけた。


が──


そんなモヤモヤは、一瞬で霧散した。


「テティスは偉いなぁ〜喉渇いたけ?待ってろなぁ」


ニカッと笑って、頭を撫でてやる。

それが、おっさんなりの答えだった。


ご褒美に作ってやったのは、

カエル魔物の卵巣(タピオカ)ミルクティー。


コトコト煮て、黒蜜とミルクで仕上げたそれを渡すと、


「うわっ、なにコレ!? 甘いのにキモチ落ち着く感じして……

やっば、なんか涙出そう……これ、エモ……!? ってやつ!?」


と目を潤ませながら極太ストローを咥えていた。

➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


トゥエラは陽当たりの良い地上で、

サマーベッドを展開し──

白猫みーちゃんと一緒に、気持ちよさそうにお昼寝していた。


おっさんはというと、

体感的にはまだ昼にもなっていないこの時間──

現場の片隅で、ふとセーブルの姿に目を留めた。


昨夜も“掬飲(手で酒を呑む)”スタイルで、毒焼酎をちびちびやっている彼を見て、

「さすがに可哀想だな……」と、おっさんは首をかしげる。


試しに、腰袋からウッドストーンを取り出し──

ドリルとノミでキュイィィンと削って、小ぶりなさかずきを作ってみた。


その中に、例のカエルの毒を少しだけ注がせてみたが──

……おぉ、溶けない。


これなら大丈夫そうだ、と判断したおっさんは、

一服がてら毒焼酎の水割りを一杯作ってやる。


もちろん──

おっさんの方は、ノン毒のただの焼酎である。


陽だまりの横、地下の片隅にて。

中年の大工と、近衛騎士が、

昼前(作業中)だというのに、さけを交わしていた。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


ほどよい休憩(酒パワー)でエンジンがかかったおっさん達は、

地下室に仮設足場をぐるりと組み立て、

そのまま地下室の壁面──そして地上の基礎部分にあたる鉄筋まで、一気に組み上げた。


本来なら、型枠も組まずにコンクリートなど打てるはずがない。


──だが、またしても娘の魔法が火を吹く。


壁面結界魔法(マジがんばれ)


名前こそ適当だが、その性能はガチだった。


結界の“型枠”にガイアベースを流し込めば、

隙間なく広がり、ズレることなく、

時間すら超越して固まってゆく。


気づけば──


昼食の時間を少し過ぎてしまった頃には、


朝方はただの四角い穴だった場所に…

地下室兼・建物基礎のコンクリート打設が、

完全に竣工していた。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


今日はあまりにもはかどり過ぎてしまったので、工事は終了と(酒を呑むことに)した。

仮設住宅の中で焼肉をするのは、

匂いも籠るしアレ(なんとなく嫌)なので、

天気もいいし、外でバーベキューでもするか。

という話をしている所に、リリが帰宅して来た。


やはり堪えきれなかったのか、朝と服装が変わっていた。


一度だけテティスに相談した事があるのだが……

「服の爆破を抑える魔法なんてねーし。

つーか、服が爆破するとかマジ意味わかんねーし」

と言われてしまった。


──

肉や魚介類を豪快に焼いて、

網の端っこには申し訳程度に野菜やキノコを並べる。

……が、どこの世界でも同じらしい。

玉ねぎや人参というのは、網の上で炭になる運命なのだ。


鉄板も用意して、焼きそばをジュウジュウ炒める。

多少、野菜が混じっていたとしても──

焼きそばにすれば、みんな文句は言わない。

バーベキュー界の救世主である。


火照った喉には、冷えた焼酎がよく染みる。


だが、間違っても──セーブルのグラスとは取り違えないようにしなければならない。

おっさんは、まだ死にたくないのだ。


彼は彼で、どうやら自前の毒コレクションを所持しているらしく──

バーベキューの合間に、そっと披露してくれた。


「これは、大型の牛が一滴で即死するものですね」


ありがたいのか、恐ろしいのか──

お世辞にも「興味が湧く」とは言いがたい、自慢話を淡々と聴かされてしまった。


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