第三十話
かつては巨大な穴の底にあり、
亡霊のように、
生気のない住人が徘徊していたホビット族の都市は、
今や人族だけに収まらず、獣人、巨人、羽や鱗のある多種多様の種族達が活発に街を闊歩し、
活気もあり、それなりに騒動や諍いもあるのだろうが…
「は行」以外の雑踏が街に溢れていた。
おっさんたちは、
街中を走るトラックを徐行しつつ、
人をはねぬよう細心の注意を払って、冒険者ギルドの裏手にある大きな倉庫兼処理場へと乗りつけた。
すると、上階の窓から見ていたかのように…
いつ見ても軍服が似合いそうなギルマスが、螺旋階段をドカドカと駆け降りてくる。
おっさんより、頭一つ半くらい大きく、
服の上からでも解る、ムキムキの、強そうな外人が、
両手を揉み合わせて擦り寄ってくる…
嘘ばかりつく営業職のような、
薄気味悪さを覚えたおっさんは、
「普通にしてくんちぇ」と一括すると…
掘りの深い顔を赤て、
「ご…ご苦労だった。」と、態度を改めてくれた。
「そ…それで成果の程は?」
と、空のトラックの荷台と手ぶらのおっさんを見回し、
不安そうなギルドマスター。
おっさんはフレコンバックを腰袋から引っ張り出して、中身を披露する。
殆どの魔物は綺麗に解体されており、
おっさん家族にとって有益な魔石は抜かれ、
食肉や、装備の素材となる皮や牙、ツノ、骨など…
A型のおっさんらしく、細かく分類された袋を
倉庫の隅から几帳面に並べ始めた。
どよめく群衆…と、
喝采を挙げる職人達。
はっきり言おう。
この十日程度の旅路で、おっさん達が狩り、集め…
ギルドに搬入した食材、素材類は……
新築されたばかりのこの冒険者ギルドの備蓄用倉庫に、
半分も入り切らない量だったのだから…
冒険者ギルドの地階は、
熱を持たない、通さないストーンウッドの密室により、
壮大な氷室となっている。
そこへ、ギルマスや受付嬢たちの号令により、
見習い〜中級冒険者達が一同に列をなし、種類別に素材を運び始めた。
だが、一部……このお祭り騒ぎを面白く思わない、
腕っぷしの立つ冒険者チームの面々は…
併設された酒場の椅子にふんぞり返り、
おっさん家族を、射殺すような目つきで見ていた。
無邪気なトゥエラと、ノリノリのテティスはさておき、
関係者であるリリは、機敏に事態を察知し、
つまらない諍いが起こらぬようにと、
ギルマスに進言する。
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おっさん達の帰還と、その桁違いの成果は——
瞬く間に街中へと広まり、
まるで建国祭でも始まったのかと錯覚するほどの、
大騒ぎとなった。
だが、何よりも脚光を浴びたのは……
思いも寄らぬ一品——グリーンカレーであった。
あの、芋虫うごめく田んぼで収穫した米の中には、
煮込まれたルゥに浸されたサフランライスもあったのだ。
それを一口食べた町長の、涙ながらの食レポを聞いた民衆は……
全ホビが泣いた。
「ヴァベヴァヴェヴォ……ヴィヴォビバボフバブ!!」
ブロッコリーのような深緑ホビットも、
アロエみたいな若緑ホビットも——
もう我慢できなかった。
街が揺れるほどの喝采が、空へと弾け飛んだ!