第二十四話
夜営の支度が整ったならば、
晩飯の時間だ。
まずはお楽しみの保温鍋。
東北風の真っ黒いツユで、
8時間ほど煮込まれた、里芋。
小皿に盛り皆に振る舞う。
この鍋は、朝の出勤前の短時間で、
おでんでも、ロールキャベツでも、
もちろんカレーやシチューも仕込める。
特に実力を発揮するのが、
手羽先の煮込み。箸で持ち上げただけで、骨がヌルンと取れるくらい煮込まれる。
一人暮らしになったおっさんの必須アイテムであった。
煮っ転がしは前菜だ、ここからが料理タイム。
冷えた焼酎をグイッとやりつつ、
メニューを考える。
まずはゴブリン。
一般的な緑のゴブリンは、
魔女みたいな尖った鼻が上質なニンニクだった。
スッと切り落とし、水でよく洗い…味見。
「トリュフ…け?」
特に美味い訳ではないが、香りが強い。
超高級食材ではあるが、
どうしたもんだべか…と頭を捻る。
取り敢えず冷蔵庫に突っ込み、
骨、内臓、血、牙、爪と解体を済ませる。
猟奇殺人の様な酷い見た目だが……
全て食材である。
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まな板を洗い、次は大物だ。
トゥエラが森で仕留めた、馬…
頭は鳥だったやつだ。
大まかな解体は済んでいて、
内臓も綺麗に洗ってあるため、
おっさんは立派な刺身包丁を取り出す。
例の頑固オヤジにねだって、貰ったお下がりだ。
当てるだけで刃が入る。
ゆっくりと引くと、素人のおっさんでも、
レバ刺しが切れた。
ニンニク醤油で一切れ摘むと…
「うめな〜」
おっさんだけであれば、
この一品だけで十分だが、向こうから視線を感じる。
試しに、刻んだトリュフを乗せ、チーズもパラパラ。
少しだけバーナーで炙ってやると…
なんとも言えない芳醇な香りが立った。
「とろけるチーズ&トリュフの馬刺しだっぺ」
家族のテーブルに配膳する。
味変用の薬味も各種並べ、
次は…
ワニ肉だ。
構造はよくわからないが、肋骨辺りの骨を丁寧に取り除き、肉だけを取り出す。
牛だったら、カルビになる筈のエリアだ。
それをよく洗い、適当に切って漬けダレにぶち込む。
時間がないので、
針でチクチク穴だらけにして味を入れ込む。
片栗粉を塗し、カラッと揚げれば……
「ワニの竜田揚げだっぺ」
これも大好評だった。
「やっば……うまっ……
なにコレ!? 恐竜!? 恐竜!?」
テティスが口の端に粉つけながら叫ぶ。
「えへへ…ぴくぴくしてるお肉だったから、ちょっとこわかっただったけど…おいち〜〜♡」
トゥエラもほおばって笑う。
「これは……“獣”の味ですね……♡」
リリは艶っぽく言いながら、冷酒をすする。
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ゴブリンの部位を一通り確かめたおっさん。
まず、魔石は固く、ソース系では無かったので、削り下ろしてみたら…
味の素だった。
鋭く尖った爪は、ハンマーで割ると、粉が出てきた。
各指で色が違うので、混ざらないように…
ダシダ、かつお粉、味覇…だった。
「なんかマニアックだな」
──
次はバケツに抜いておいた血。
嫌にさらっとしていて、色も一般ではなく濃い紫。
冷やした訳でもないのにギンギンだ。
匙で掬いひと舐め……
「サイゼリヤのやつけ」
安っぽい赤ワインだった。
グラスに淹れ、リリとテティスに出してやる。
骨は、甘い…ココアのような?
「ミロけ」
砕いて牛乳で溶かして、トゥエラに飲ませる。
「わんぱくでもいい、大きくなれよぉ…」
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調味料探訪は楽しいが、
ハラヘラシ達のメシを出さねば…
すぐ食える米料理ならいくらでもあるのだが…
せっかくの娘達の成果だ。
ワニと馬肉を細かく切って、
ミンサーで挽肉におろす。
玉葱魔物を刻んで加え、適当に下味し焼く。
皿に盛り、脇にピクルスを添え持っていく。
「ウマいワニ〜ハンバーグだっぺ」
チキンライスやら炒飯やらあるのだが、
家族達は白米が好きらしい。
帰る時にはまた田んぼを探さなきゃだな。
そいで、ゴブリンはもう出そうもない訳だが、
明日には下山するけ?
と聞くと、
テティスがベタベタの口で…
「あーしのセンサー⭐︎ビンビン反応してんだけど〜?
アソコにマジヤバゲロうまいやついるっしょ〜⭐︎」
と山頂を見上げる。
おっさんも釣られて見上げるが、
魔力とか不思議パワーはさっぱりなので、
うっすらと雪が積もり寒そうだなぁとしか思えない。
トゥエラは五枚目のハンバーグを、
フォークに掲げたまま寝ている。
リリを見ると……
「ピーガガー…ピーヒョロロ〜」
とやけに昭和的な機械音を発し、
手元に出た紙を見る。
「この山は…なんということでしょう……」
顔色の悪くなったリリに、大丈夫け?と聞くが、
「始祖…が…いるようです」
とよくわからないことを言う
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紫蘇…?
葉っぱの魔物け…
おっさんはピンと来ずに耳をほじる。
ダークエルフの神殿で、
七柱の女神像から仕事の依頼を受けたのだが、
何処の国に何が居るという詳細までは聞けなかった。
この世界の理のバランスを担う、
なんらかの生物。
それの一体がこの山頂に根を張っている。
──
そんなことは露知らず、
おっさん家族の晩酌は続く。
里芋の煮っ転がしは丁度いい味で、だが
森で採集した柘榴みたいな芋もあったことを思い出した。
取り出してみるとこちらは長芋だった。
細切りにし、わさび醤油で摘む。
ホテルで買ってきた、島の酒を啜りながら摘む。
まぁ美味い食材があるなら、獲りに登ってもいいが…
「パ〜パ〜いこーってば〜⭐︎ あーしの魔法あるし〜 らくしょーっしょ⭐︎」
とテティスが絡んでくる。
あの体格にワインはちょっと早かったかもしれん
リリは、「危険すぎます…アソコには近づかない方が…」と恐れている感じだ。
トゥエラは寝ているし。
まぁお開きにして、風呂いって寝んべー
ということになり、
おっさんは軽いシャワーで汗を流し、布団へ潜る。
二人の賑やかな声が響く中眠りに落ちるのだった。
トゥエラは寝たまま洗われたのだろうか?