表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/138

第十四話

娯楽のない異世界。

飯を食ったら寝るしかやることはない。


それでは寂しいので、おっさんはオモチャを作った。


冒険者ギルドの建築中に出た、

建材になり得ない木端ゴミ


これを、ぴっちりとサイズを合わせ加工し、

敢えてカンナをかけコンマ数ミリ程度、歪ませ。


積み木(ジェンガ)を作った。


しかもフレコン数袋と大量に。


それを、おっさんは…

まず仮設足場をグルリと設置し、

3階建ての雑居ビル程度のタワーを積み上げた。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


そしてゲームは始まるのだが、

恐ろしい事にこの積み木、

継ぎ目が見えないのである。

簡単に言えば、絹ごし豆腐で出来ているビル。

である。


そよ風にもプルプルと震え、非常に不安定。


トゥエラは珍しく真剣な顔で指をツンツンしている。


テティスには魔法禁止令を出しているので、

かなり苦戦している。


そんな中、リリはヒョイヒョイと小さな石材(QBチーズ)を抜いていく。


身体能力ではおっさんにも劣る、受付嬢であるが、

偽装や虚偽看破などは得意らしく、

みるみるとタワーを穴だらけにしてゆく。


おっさんは満足げに足を組み、

足場の天辺てっぺんから携帯で動画撮影し、

酒を呑み、家族を眺めていた。


トゥエラとテティスは、共通の敵を見つけたようで、

協力しながらブロックを抜いている。

外せた石材は、頂上に再設置する。

というルールに従い、頭部分が重くなり、さらに不安定さを増し…


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


そろそろ倒壊するのか?と思いきや——


こいつら……いや、この石材たち。


呼吸し、肌を合わせ、

わずかな歪みすらも許容し、互いに支え合っている。


——共存してやがる。


おっさんは建築中、この資材に『ストーンウッド』と名を付けた。


安直な命名ではある。だがそれ以外に、

この素材を表す言葉など存在しなかった。


そして、ただの玩具として積まれたこの石材たちは……


まるで、切り口に接木つぎきされた植物のように——

静かに、そして確かに……根を張り始めたのだった。


「……これじゃ、ゲームになんねっぺな〜」


そう言って、おっさんは足場を解体しながら苦笑い。


足元では、外したブロックたちが、まだ微かに身を寄せ合っていた。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


以前、おっさんはホビット達と建てた冒険者ギルドについて、

一級建築士としての知識と技能を用いて、

構造上の強度計算をこころみた。


あれほど広い建物なのに、

屋根や梁を支える為の柱が——明らかに少なすぎたからだ。


まぁ異世界だし、

地震や台風なんて想定しとらんのだっぺか?

そんなふうに最初は思っていた。


……だが、どうやら違ったようだ。


一個一個は、手で運べるブロック程度の大きさ。

それを緻密に加工し、継ぎ目すら消えるように積み重ね、

そしてさらに——素材同士が「根を張る」ともなれば。


もし、この石材だけで“島と島”を繋ぐ吊り橋を作ったとしても、

その強度は——おっさんが保証してもいいような気がしてきた。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


こりゃ、うちに帰ってからの自宅の設計も、

見直さねばならんなぁ。と、嬉しい悩みを抱えながら、

車を走らせていた。


視界には幾分か前から、何度も小川を見ている。


多方向に流れていた綺麗な支流は、追っていけば、

恐らくどこかで大河になるのであろうが、

まだそれは見つかっていない。


それよりも…


不思議なものが見える。

車で入ればスタック(埋まって故障)するであろう、

一段窪んだ沼地の様なエリアに、

稲が植っている。


ホビット族の街からも大分離れたこんな地で、

一体誰が田んぼを管理しているのだろう?

ワクワクしながら車を寄せて、観察して見ると。


……どうやら人が植えたものでは無い。

というか、稲ですら無かった。


沼地から生えたヒョロっとした茎のような雑草に、芋虫(稲虫)たかっているのだ。


見た目は米そっくりな、フランクフルト程の芋虫。

おっさんは、毒を警戒しゴム手袋を装着した上で、

うごめく生物を獲ってみる。

噛んだり刺したりしてくるわけでもない、

その虫はなぜか…アツアツだった。


果物ナイフでスッと斬ってみると……

中からチャーハンが出てきた。

炊き立てでだ。


異世界の理不尽さにも大概慣れたおっさんは、

躊躇うこともなく、箸で虫の中身を摘み食ってみる。


「焦がしネギとマー油香る焼飯け」


何匹か採取し、家族達も呼び寄せ昼食にした。

スプーンで刮いで皿に盛ってしまえば、

それが虫だったとは誰にも判らない。


さらに、オマケで極細ノズルのボトルに保管した、

ゴブリンの脳髄(マヨネーズ)をトッピングし、出してやると。


最近は下の肥えてきた娘達も大絶賛。


お替わりを所望された。


おっさんは|胴長靴を着込み、ズブズブと田んぼを歩く。


大方の予想はついていたが、見た目の違う芋虫を数匹獲って戻ると、


人肌の酢飯、焼き目の入った卵リゾット、おかゆ。なんでもありだった。


適当な鮮魚の切り身で寿司を握ってやったり、

リゾットにチーズとマカロニを乗せ焼き直しドリアにしてやったりと、

大忙しであった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


こりゃ補充しとねばならんな…と、

おっさんは使い慣れたフレ(フレキシブル)コン(コンポジット)バッグに、油性マジックで

『保温、腐敗禁止』

と…無茶な管理指示を書き込み、

芋虫を満タンに詰め込んでゆく。


種類別に何袋も、白米、釜飯、ビビンバ、カルビクッパ、キンパ飯、ちまきご飯、ちらし寿司、雑炊、などなど…


大量の米料理をゲットしたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ