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第十一話

いつ見ても不吉な、赤々とした巨大な月が…


ぼんやりと霞み、

煌めく星達も薄れ、

……要するに、空が白み始めた頃。


おっさんは寝床にしている宿に帰り着いた。


寝静まる家族達を起こさぬ様にと、


音を立てずに戸を開け部屋に入るが…



娘達も妻も、プンプンであった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


「おとーさんなんかくさーい!」

「お楽しみに……なられたのですか?」

「ゔ〜……パーパ?まじありえないんですけど?」


……不覚である。


ヴァヴィーちゃんの、

金木犀(フィリピンパブで)蜂蜜に漬けた(バニラのお香を焚いた)ような——

汗と混ざった甘ったるい香水臭が、

どうやらおっさんの体にも“うつって”いたらしい。


それはまるで…

夜の蝶に振り撒かれた鱗粉りんぷん


……などとうたってる場合ではない。


愛する家族たちから、

まるで汲み取り車(バキュームカー)でも見るような目で睨まれ、

おっさんは肩を落とした。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


異世界の宿屋には、

シャワーや浴槽などあるわけもなく。


ブーイングを背に浴びて退場したおっさんは、

路地裏でユニットバスを召喚し、


加齢臭までサッパリ落とし、

だいぶ酔ってはいたが、

自分への戒めも込めて半身浴で汗を流し…


改めて家族に謝罪ゴメンねした。


どうやら、怒ったフリをしていただけの

淑女達レディースは、


おっさんの今日の出来事(やらかし具合)を、

隅々までつっついてくる。


おっさんも、娘達の動向(退屈してなかったか)が気になり、


どんな店で何が売っていたとか、


ホビットの服屋はサイズが全く合わないとか、


リリは出張扱いなので、業務が忙しいとか、


テティスはDE(ダークエルフ)とバレると大変なことになるから、化粧(白粉)がめんどくさいとか、


トゥエラは、舞踊革命(DDR)が楽しすぎたせいか、道を歩いても全然前に進めないだとか…


めんけくて(愛おしくて)しゃーない(堪らない)


おっさんは、今の大工仕事(石材加工)が楽しすぎるので、

あと数ヶ月はこの街に留まりたい。

と告げると、

何の問題もない、というか…

大体ちょうど良い。

などとリリが言っていた。


娘達も大工のお手伝いをしたいなどと言うので、


似合いそうな作業服と、腰袋をくれてやった。


二人は嬉しそうに、エアー大工を披露してくれる。


挿絵(By みてみん)


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


今日の現場は休みである。

親方がそう言っていた気がする。


家族の許しを得たおっさんは、

取り敢えず布団に倒れ込む。


朝まで呑んだのなど、いつ以来だろう?


五十路が(もう過ぎている)近くなり(可能性もあるが)

休肝日など設けたことはないが、

日を跨いで酒を呑むなんて機会は、

十年以上無かったかもしれない。


牛蛙ウシガエルのように

ゔぉ〜ゔぉ〜とイビキを放つおっさん。


それを他所よそに、

宿屋の朝食を済ませ家族達の今日は始まった。


リリは早くから何処か(おしごと)へ出かけ、


トゥエラは新品の作業着で、

ハンマーとバールを振り回しながら、

イメトレDDRに勤しむ。


テティスは寝入るおっさんの顔に、

油性マーカーで髭や眼球を描き込み、

一人でウケ(大爆笑し)ている。


ネットもテレビもない退屈な異世界だが、

時間など潰さなくても、

楽しい1日はあっという間に過ぎてしまうものらしい。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


太陽が中天を過ぎ、

ホビットの親方も、

ようやく酔い潰れ眠りにつく頃…


おっさんはモソモソと布団を這い出た。

「朝け…」


午後である。


腰袋から出した樹海産の冷えた水で喉を潤す。


おっさんの腰袋は便利でチートだが、

この異世界で目を覚ましてから、

腰から外れた事がない。

どちらかと言うと、呪われた装備である。


ようやく覚醒したおっさんは、

せっかくの休日を、

半分寝て過ごしてしまったことに後悔し、

娘達を誘って散歩にでも行くかと、身支度を整える。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


「おとーさんトゥエラねーおとーさんのごはんたべたいのー」


「あ〜あーしもーパーパのハイカロパーごはん食べたいしー」


娘達と街中を歩き、

異世界的な串の刺さった肉などを

買い与えていたおっさんだが、

嬉しいおねだりをされてしまった。


とはいえ、

宿の部屋でキッチン出すわけにもいかんしな…


少し考え、

「んだらば、家でも借りっけ?」

と、賑わう商店街からコースを変え、

不動産屋らしき店を探すことにした。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


さっきの肉串を売っていたご婦人(唇が赤かった)に、

ヴィヴェバヴィィ(家借り)ファフィヴァバ(たいんだが)」と尋ねると、


ヴヴォーヴァフ(不動産)ヴェッヴォベ(あっちだ)

みたいな感じで教えてくれた。


この街のホビット達は、初対面(余所者)(おっさん達)にも、

いきなり友達のように接してくる。


おっさんはお礼に、黄金入れ(フレコン)から、どこぞの王女様が被るような、

ティアラを引っこ抜き、ご婦人の頭に乗せてやった。


ご婦人は一瞬ポカンとしたが、

次の瞬間、どこからともなく「ブヴォ〜(ブラボー)!!」という歓声が上がり、

その場にいたホビットたちから拍手が起こった。


おっさんは照れくさくなって、

串肉をもう一本買ってしまった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


程なく、家の絵の看板を見つけたおっさん達は、

店内に入り、

両目にモノクルを付けたインチキ臭い店主に、

しばらく住める家はあるか?と尋ねる。


ヴィービーヴェイ(2DK)ヴォンヴェヴ(4L)ヴィィベィ(DK)?」


などと聞いてくるので、適当な金塊をカウンターにドシンと置き、」


ヴォヴァバヴェ(お任せ)

と言っておく。


置かれた代金を見て、両目が飛び出し、

二つのモノクルが宙を舞うが、


すぐに立派な鍵と地図を寄越されたので、

無事に契約できたのであろう。


おっさんは鍵を受け取りつつ、

「……ヴォヴァバヴェっちゃ、万能語だっぺか」

と呟いた。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


一旦宿屋に戻り、チェックアウトの手続きを済ませ、

外出中のリリへの言伝を頼み、

新居へと赴く。


地図をクルクル回しながら、ようやく辿り着いた賃貸物件は……


立派なお屋敷。



が描かれた更地だった。


おっさんの現場と同じ、

謎石板、を積み上げ、豪邸のイラストが壁画として描かれており、

裏側に回ると、沢山のつっかえ棒が斜めに壁画を支えていた。


こうゆう(貧ぼっちゃま)パターンけ》」


受け取った鍵の差す穴も見当たらない。


挿絵(By みてみん)


まぁ見るからに胡散臭い店主だったし、こんな物か。

と納得するおっさん。


せっかくの最高級資材(謎石材)をこんな壁画に使うとは、勿体無い。


少々腹はたったが、

まぁ賃貸物件だし壊すわけにもいくまいと、

無駄に広い土地にいつものプレハブを建てる。


場所さえあれば、キッチンも風呂もトイレも設置できる。

さすけねぇ(差し支えない)な」と、おっさんは飯の支度を始めるのであった。

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