第八話
それからしばらくの間、
七柱の女神像たちと、要点をまとめて質疑応答。
その中でわかったのは──
この世界のあちこちには、
地脈の要となる魔物や妖精、精霊とかが、
彼方の地に眠っているということだった。
例えば──
「世界一高い雪山には、
永遠に雷を生み出すミミズがおるのじゃ。」とか。
他にも、星の裂け目、深海、
巨大樹の根元、砂漠の地底などなど……
世界中に、地脈と連動した存在が潜んでおり、
そのバランスこそが、
この星を巡らせているのだという。
そして女神像たちの要望は──
「その“地脈の鍵”たちを、直接調整してほしい」
というものだった。
しかも──
「決して、討伐してはならぬ」と、
強く念を押された。
おっさんはぽかんとした顔で問い返す。
「……なんで、そんな重大任務を、
俺みたいな異世界から来た大工に?」
すると女神たちは少し寂しげに、こう語った。
かつてこの地には、
ドワーフという職人気質の種族がおり──
ダークエルフ族との仲は良好ではなかったが、
彼らは奇天烈な魔道具を操って、
地脈の均衡を絶妙に調整していたという。
だが、数百年前にある“大事件”が起き、
種族ごと滅んでしまった。
その後、誰もその役目を継げぬまま、
今日に至るという話だ。
なんだか──
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
その語り口に、
おっさんはただ「んだか…」と頷くしかなかった。
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「とりま今んとこのバランスは〜、
あーしの激ヤバ魔法でワンチャンなんとかしとくし〜〜☆」
と、テティスはギャルテンションのまま、
両手を挙げて、全身から魔力を解き放った。
眩い光が──パァァッ!
彼女の身体を中心に広がり、
七柱の女神像たちを包み込んでいく。
とはいえ、本人は顔を真っ赤にしながら、
下半身をモジモジ。
(……あいかわらず、限界近いんだな)
と、おっさんはそっと目を逸らす。
次の瞬間──
「おぉぉ……何という……!!」
「冥界の澱みが……浄化されてゆくうぅぅぅ!?」
「時空の歪みから……負荷が抜けてゆく………ッ!!」
女神像たちは、まるで魂の救済を受けたかのように震え、
ときに涙すら流し──
「これは……奇跡……」
「いえ、改革よ……!!」
「混沌が来たのではなく……“掲示”が来たのね……」
──と、勝手に納得して膝をついた。
全体的に感動の方向がズレている気もするが──
結果オーライだ。
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これで当面は──
あの腐った臭いの川や、異常だった気候も、
正常に戻るらしい。
根本的な問題までは解決しないとのことだが……
「……あ奴らも、労ってやらねばならぬな」
と、大地の女神像が、やや憂いを帯びた声で言った。
あ奴らとは、この神階の真上に暮らしているという、ホビット族のこと。
遥か昔──
彼らは「この地を守れ」との神託を受け、
巨大な穴を掘り、ここに隠れ住んだのだという。
だが──
永劫ともいえる時の流れのなかで、
文明は朽ち、言語は消え、思考さえ薄れ──
今や…
ただこの地を彷徨うだけの傀儡となってしまった。
「小さき隣人達に──祝福を……」
創造の女神像が、そっと手を合わせる。
その瞬間。
ズドドドドドドドドドドドドドッ!!
頭上で、まるで大地震が起こったかのような轟音。
建築の加護が、
ホビット達へと届いたのかもしれない──
そして、別の女神像が静かに口を開く。
「さて、お主たちも、還してやろう」
──混濁の女神像である。
パアァァァァァァ……!
まばゆい光が弾け、
おっさんの家族たちは──
ふわりと光の粒となり、天へと昇っていった。
そして、静まり返った白い空間に、
残されたおっさん。
その前で、七体の女神像が──
ぴたりとハモりながら、声を重ねて言い放った。
【さて………そこなおっさんよ──】
【愛しき我らがダークエルフ族は──】
【幼きテティスを除いて、滅びてしまった。】
【我らはもはや生物ですらなく、何もできぬ…】
【されど願わくば……】
【そなたの力にて──】
【ダークエルフ族を!再び!繁殖させるのじゃ!!】
──沈黙。
おっさんは、一瞬ぽかんとした後──
全力で、地面を指さし叫んだ。
「めんごい娘っこと子作りなんかするわけあんめ!
この……へでなすぃ!!」
──全力拒否。
響き渡る声を残して──
おっさんは、すたすたと階段を引き返していった。
背後には…しょんぼりと肩を落とす女神像があったとか、なかったとか……