第二十話
暫しの余暇を過ごしたおっさんは、
「そろそろ、仕事でも行ってみっか」
と、護衛を引き連れて、家を出た。
最近は朝から日差しが強く、夏が近いのかもしれない。
王都の市場で見つけた“日除け鏡”──
どう見てもサングラスなそれを鼻にかけ、眩しそうに空を見上げる。
不似合いなその姿に、トゥエラがクスクスと笑った。
おっさんの家からギルドへ向かう最短ルートは、ほとんどが民家と住宅街。
だが、ちょっと道を逸れれば、
王都の顔とも言える大市場や、工房や倉庫が立ち並ぶ工業区画へも行けるらしい。
学校に病院、役所に教会、治安を預かる騎士団本部──
武器屋、鍛冶屋、薬草屋に魔道具屋。
当たり前すぎる店から、ちょっと胡散臭いファンタジー商売まで……
この王都、なんでもござれだ。
職場に到着したおっさんは、
訓練場や処理倉庫のある裏手まで、いつものダンプで回り込む。
そこでは、大きな獣や、大蛇、大トカゲといった魔物が並び、
血まみれのエプロンをつけた屈強なおっさん達が、
黙々と解体作業にあたっていた。
おっさんはぼんやりとその様子を眺める。
──だが、見てるだけで腰が痛くなるような、
人力頼りの原始的な重労働だった。
扱っている“商品”が車ではなく化け物だというだけで、
やっていることは、町の自動車整備工場と大差ない気がする。
ならば──
ガレージジャッキや移動式ウインチなんかを導入してやれば、
もっと楽に、もっと効率よくなるんじゃないか?
そんな妄想を巡らせていると、
ふと影が差した。
最近ようやく名前を覚えた──
白ライオンのレオが、無言で近づいてきていた。
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どうやら、あの雨漏り修理とドブ攫いの賃金が決まったらしい。
ギルマス・レオに呼ばれ、執務室らしき部屋へと案内される。
ライオンは、重たげに腰を下ろし、説明を始めた。
「まず言っておくが……
途方もない金額になった。
……それでもまだ、試算段階なのだ……」
「どんぶり勘定だと、どんくらいよ?」
と訊ねると──
「……王城が、二棟建つ。」
おっさんは、一瞬黙り込んだ。
そして、しばらくしてから呟いた。
「……俺、そんなに頑張ったっけか……?」
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ともかく──
そんな山ほどの金貨を渡されたところで、保管する場所なんて、あるわけがない。
異世界といえど、「謎技術でギルドカードに入金」なんて都合のいいシステムは存在しなかった。
「で、その金貨……今どこにあるん?」
おっさんの問いに、レオは天を仰ぎつつ答える。
「……王城だ。
財務局が、一応“管理している”ことになっている。」
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ギルマスとの面談を終え、
いつもの依頼掲示板見物に勤しむおっさん。
使い道のない金を受け取っても困るので、放置することに決めた様だ。
ざっと見渡すと、仕事は幾らでもある。
だが…やった所で発生するのは金だけだ。
なんだかめんどくさくなったおっさんは、家に帰る事にした。
途中、教会によりポーラに言伝を頼み、
自宅の戸締りを確認して…
家族を乗せ王都を出る事にした。
なかなか自堕落に生きるのも難しいもんだ。
とトラックを唸らせ、旅に出るのであった。
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後日談、
莫大な財産は王家に寄贈する。
というある冒険者からの委任状とギルドカードが、王の元に届く。
王城はパニックになるが、
その張本人はー
もう何処にもいないのであった。
第六章 完
ここまで読んで頂きありがとうございました。
七章に進む前に、
第一章 第一話から手直しをしたいと思いました。
矛盾点を直したり
もっと面白くできればと思ってます。
完成次第載せますのでよろしくお願いします。