第十九話
「呆けて立ち尽くすおっさんの背後から──
**トロォ…**っと黄身を口元に垂らしながら、リリがネックレスを差し出してきた。
「これ……あのお方の物です……」
そう言って、王城の方向を指差す。
ようやく話が見えてきたおっさんは、
受け取ったペンダントを、姫に向かってひらひらと掲げてみせた。
すると──
王城のバルコニーで、
姫が号泣しながら飛び跳ねていた。
執事らしき人物に肩を抱かれていたが、
どう見ても感情がキャパオーバーしている。
「……めんどくせ」
とおっさんは呟き、
腰袋から現場空撮用のドローンを取り出す。
ネックレスを紐でくくりつけ、
パソコンを開いて遠隔操作──
しゅるるる……と音を立てて飛び立ったドローンは、
澄んだ朝の空をスーッと滑っていき、
王城のバルコニーへと向かっていった。
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姫にぶつけないよう、
慎重にバルコニーへ着陸させたドローンは、
キュルキュルとプロペラ音を弱め、そっと静止する。
姫がそっと近づき、
ネックレスを胸に抱きしめるのを画面越しに見届け──
「……任務完了っと」
おっさんは安堵のため息をついて、部屋へ戻った。
その後、姫の姿はしばらく現れなかった。
だからおっさんは……
朝酒と、
コーヒーと二度寝と、
昼酒と、
気まぐれなDIYにまみれた日々へと、
晩酌で、
ゆるやかに沈んでいくことになる。
──しばし、自堕落モードである。