第十八話
夜明けの肌寒さで目を覚ましたおっさんは、
当直していた騎士に依頼終了の報告を済ませ、確認と使用方法の説明を終えると、そのまま帰路についた。
眠い。が、喉が渇いた。
──神の雫が俺を待っている。
玄関を蹴破る勢いで家に飛び込み、浴びるように呑んだ。
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さほど…達成感のある仕事でも無かった為、
なんかモヤモヤするおっさん。
そういえば、とポケットを弄るとチャラリと出てくるネックレス。
しかし、何度見ても風呂の栓に見える。
だいたい、ペンダントトップがデカ過ぎるのだ。
ちょっとしたお猪口…くらいだろうか?
石材に知識のあるおっさんだが、
全く認識できない謎の黒い石であった。
ピンセットとルーペで千切れたチェーンを直し、
眠そうに起きたきたリリの首に着けてやった。
昨日は子守ありがとうと添え朝食の支度に向かう。
取り残されたリリは…
鏡に写る自分の首元をみて、
白目をむいて二度寝に入った。
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ベーコンエッグトーストとコーヒー。
簡単な朝食を終えたおっさん家族。
トゥエラとテティスは昨日の楽しかった出来事を色々話してくれる。
二度寝から起きたリリは、トーストを咥えたまま、アガモガと何か重大そうな事を伝えていたようだ。
何も伝わらなかったが。
「ロイヤルエンブレム?」
…なんだそれ、缶コーヒーか?
おっさんが聞き返すと、リリは
「マズいです……ヤバいです……キちゃいます……」
と、ただただ焦ってアガモガしている。
まったく要領を得ない。
「……はぁ。煙草でも吸っか」
仕方なくバルコニーに出たおっさんの目に、
チカッ…チカッ…と眩しい何かが入る。
思わず目を細めると──
遠く、数キロは離れた王城のバルコニーで、
姫が、手鏡のようなものを使って信号を送っていた。
「は?」
慌てて双眼鏡を召喚し覗き込むと──
そこには満面の笑みで、手をぶんぶん振る姫の姿。
その横では、執事風の誰かが止めに入ろうとしていたが、
姫は気にも留めず、ピカピカと光を跳ね返していた。
おっさんは煙草を取り落とし、ただ一言。
「……なにが始まんだ、これ」