第十六話
いつものダンプに乗り換え家路を急ぐ。
子供二人と大人二人、
道交法ならキップを切られそうな乗り方だが、異世界に白バイはいない。
玄関下まで乗り付けたら、階段を駆け上がり…
女神様から頂いたマイバスケットをテーブルに置く。
普通なら肉や生鮮食品を冷蔵庫に仕舞うとこだが、このカゴは底の方から神聖な冷気がモヤモヤ出てるようなので安心。
はやる気持ちを落ち着け、バルコニーへ。
見た目は朝と全く変わらない。
プシプシと蓋がわりに置いた斧刃の隙間から漏れ出る蒸気。
流石に熱そうだし刃物なので、
溶接用の革手袋をはめ、そ〜っと蓋を外す。
隣で光悦し鼻をスンスンさせるリリのメガネを真っ白に曇らせた寸胴鍋の中身は……
底まで透き通った、琥珀色。
出汁の出切ったガラや野菜クズは浄化されて消え、
ただただ澄んだ輝くスープのみ。
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お玉で少量掬い小皿に分け、四人で啜ると…
まだ塩も胡椒も入れてない出汁のみのスープは……
臭みゼロ…ただ旨いだけの湯。
リリは腰を抜かしへたり込み、
子供達は「おいちー」と皿を掲げる。
「もっとうめえの出来っから、あっちさ行ってろ」
と追い払い、重量のある寸胴をキッチンに運ぶ。
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娘達にリリを運ばせ、皆で風呂に入って来いと送り出す。
ワクワクしカゴの中を確認すると、
整然と並ぶ、まるでベテランのレジさんの仕事のように、
おっさんが今日欲した物だけが、
しかし、全て入っていた。
先ずは端っこで光を放つ銀色の缶。
神の雫だ。
プシュッと開け半分ほど一気に流し込む。
足の先から髪の毛の一本一本にまで届くような、
喉ごしと酩酊感。
胡麻油、料理酒、醤油 甜麺醤 豆板醤などと、
いちいち神々しいニンニクや長ネギ白髪ネギなど…
使うものを全部取り出すとカゴは空になった。
とりあえず傍に片付け料理を進める。
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熱したフライパンに胡麻油を敷き、挽肉と刻んだ生姜を炒め、酒と醤油を垂らし、甜麺醤ニュルニュルと加え、肉味噌を作る。
別鍋に、みじん切りにした長ネギとごま油を多めに入れ、にんにく、花椒と豆板醤をじっくり炒める。
水と琥珀色の湯、醤油に酢を加えてグツグツさせる。
練りゴマをたっぷり落とし、混ぜたらスープの完成だ。横で茹でておいた麺を上げてしっかり湯切りしたら…
ドンブリに麺、スープ肉味噌を盛り、
麺と一緒に茹でた青梗菜を傍に添え、
青ネギと白髪ねぎで飾りつけたら完成!
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3人分をテーブルに運び、
もう一杯のドンブリには、ラップでしっかり塞ぎマイバスケットの中へ。
目を瞑り、
「くってきなんしょ」
と祈れば、カゴはスーっと消えてゆく。
おっさんは取り皿程度の量を盛りテーブルに着き、神の雫を煽る。
不思議なことにさっき半分くらい呑んだのに、今は満タン。しかもギンギンに冷えている。
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熱さと辛さに苦戦するが、それ以上に美味いようで、必死で箸を進める子供達。
リリは、しばらく見惚れてから、レンゲでスープを一口啜り…
全身からレーザービームの様な光を放ち、
服が爆発崩壊した…
舞い上がる布切れが危険な箇所は隠し続けたため、おっさんは安堵し、バスタオルを投げつける。
…その後、風呂上がりのような姿でフォークを巻取り、
ハァハァと艶かしく食べていた。
麺の無くなった娘達には、追いライスをぶち込んでやると、
大喜びして汁まで空っぽにしていた。
おっさんは自分の器にだけ、酢を軽く回し、
ツマミを楽しみ夜空を見上げ、
「女神さん、ごっそさん」
と呟くのであった。