第十五話
大型路線バスが、
プシュー…と折れ戸を開く。
駅名は、冒険者ギルド スイングドア前。
おっさんが事情を説明しようと、
受付嬢の元へ。
理解の早い彼女は、
乗客を一通り見て、ライオンの元へ。
未だ混沌としている奥の会議室から…
野球チームのマスコットのようになったギルマスが現れ、
彼の方が死にそうなので、他を当たってくれ。
という目で訴えられたので、
他の知人…と浅慮し、教会へ向かった。
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ガタポコと石畳を揺らしながら、
バスはゆっくりと減速する。
「次は〜、光る女神像前〜、お降りの方は……って誰も起きとらんか」
乗客たちは疲労と安心からか、まだ目を覚まさない。
おっさんはトゥエラとテティスを連れ、そっと車外へ降りた。
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教会の門を開けた瞬間──
中から、燃えるような髪と剛腕を振り乱しながら
「あぁあ〜〜あぁ〜〜ん! ウルトラ・ハレルヤ〜〜ッ!!」
と、讃美歌ともオペラともメタルともつかないシャウトが響く。
聖母ポーネである。
礼拝堂の天井が震えていた。
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その傍らには、すっかり“シスター”らしい姿になったエミリー。
かつての貧民くずれのようなボロ服は、
地味ながらも丁寧に整えられた白い法衣へと変わり、
髪もきちんとまとめられ、清楚な空気をまとっていた。
……おっさんは一瞬だけ、「誰だっけコレ」って顔をした。
ライブが終わると、前に置かれた棺桶にライスシャワーのようなお布施が舞い、
信者達が捌けるのを待って、
ポーネに事情を説明する。
してるのは、一緒に乗り込んできた受付嬢だ。
おっさんは、今夜のラーメンの具材と味付けをどうするかで憂慮しており、
真剣に焼酎を啜っている。
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ポーネはさすがに神職で、
直ぐに休ませてあげましょう、と協力してくれ…
乗客を大聖堂の長椅子へ運んでくれた。
この長椅子だが…
実は個々に分かれており、
見た目ではただのベンチなのだが、
それはまるで、健康センターのリクライニングシートのように…
ゆったりと寝かされた被害者達に、
気前のいい奥の女神像が発光し、
神聖な霧を展開し、
なんならお香っぽい煙まで吹き出し…
おっさんの焼酎が乏しくなった頃には、
全員が目覚め、全てを、取り戻していた。
バスの乗客達は、皆々で手を取り合い、抱擁し、
慰め合い、この場に居ない人を悲しみ、
それでも笑った。
そうこうしていると、前に見たような鎧男たちが大勢現れ、
サ〜ソ までいそうなセバスチャン的な執事服達が乗客達を保護、誘導し消えていった。
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奇跡を見慣れているポーネ達でさえ、
女神像がスパ効果を出すのには驚いたらしく、改めて祈りを捧げていた。
おっさんも…
ポーネとエミリーの間に跪き、祈った。
「今日は担々麺がよかったんだっぺよぉ」
刹那…
女神像は優しく微笑み…
おっさんの前に、山盛りのスーパーのカゴを顕現した。
大喜びしたおっさんは、腰袋から、以前作業服屋で売っていた、工務店の忘年会で利用した
薄桃色のナース服を取り出し、
お礼に着せてあげた。
コンクリート強度検査にもつかう聴診器も首に掛けてあげ、
電動工具使用時に必要な保護メガネも、
縁が赤く少し斜めで、おっさんには似合わないのでかけてあげる。
ホクホク顔でカゴを抱え帰路に着くおっさん家族。
その後方には…
どう見ても如何わしいナースの女神像が、
頬を染めてカルテのような石板を持っていた。




