第十三話
少し呑みすぎた…おっさんが目を開けると…
リリが横で寝ていた。
ドキッ!と心臓が慄き、
おっさんは自分の体を確認するが、
シャツokパンツok布団…乱れなし。
オールグリーン。ok
ホッとして、煙草を弄る。
受付嬢を起こさぬよう、そっと行動し…
朝食のあっさりうどんに取り掛かる。
昨日、半年ぶりにこの家へ戻ってきた──らしい。
だが、よく考えたら、内装工事には一切手をつけていなかった。
風呂とトイレは、とりあえず置いた。
キッチンも、まだ仮設。場所すら本来の位置ではない。
問題はない。だが──
不細工な家である。
普通でいいんだよなー
普通で。
だが普通とは…
日本の住宅をコピーしたのでは、この異世界の雰囲気にそぐわない。
というかそれをするならば、土地だけ買って、腰袋に入ってる新築をドーンとだせばよかったんだ。
おっさんは悩む。
ここはボロい、床も壁も天井も…
そんなことは見ればわかる。
経験が 長すぎる故か、
ある程度壊して、ある程度直す。
その映像がだいたい頭に浮かぶ。
だが…
異世界じゃん?ここ。
普通の大工仕事で、普通に補強して漆喰とか直して、
そこそこ見栄えよくして……終わり?
「ないわー」
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自宅リフォームは保留とした。
バルコニーに出て、トゥエラの斧を勝手に拝借し、
寸胴に湯を沸かす。
冷蔵庫の鶏ガラを適当に切って、鍋に入れる。
大量に作っても保管できそうな気がするので、全部の翼をぶった斬る。
「あら?」
途中、鎖に異物がついたようなものを見つけ…
「風呂の栓け?」とあっちに投げる。
臭み取りの青葱や玉葱など野菜も入れて、
トゥエラの斧をまた拝借し
円盤のような刃の部分は蓋に、
取っ手の部分は鍋底に置き、
今日一日中放置する予定だ。
テティスが適度浄化魔法を掛けてくれたので、
魔石を蓋上に置きセット完了。
吹きこぼれることもなくグラグラと煮込んでいる。
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起きてきた皆んなとうどんを啜る。
娘達は慣れたもので、ズルズルいくのだが、
リリは苦戦している。
啜るという文化も無いのだろうか?
フォークでも巻取り辛いし…
と見ていると、なんと丼に手を入れ麺を指で摘み始めた。
それを頭上まで上げ、上を向き口に垂らしこむ…
アウトだ。
「お…おいふぃれすぅ…」
と奇妙な色気(?)を醸し出す受付嬢。
珍獣を見るような顔の娘達。
楽しい朝食であった。
支度を整えて四人で冒険者ギルドに向かう。
何気に同伴出勤である。
戸の調整も済んで、ギィギィ鳴らないスイングドアを押し開け、留守にしているリリの代わりに受付に座るライオンに挨拶を済ます。
すると、我々を待っていたかのように、
作業着風の男と、役人風の女、牧師服のヒゲもじゃ
それから魔法使いみたいな老人が駆け寄ってくる。
ライオンも承知していたのか、
全員揃って奥の部屋に連行される。
「なんかやっちゃいましたか?」である。
皆で喚き立て、要点を得ない会話を纏めると…
下水道に異変が起こってるとか。
汚水自体は問題なく流れているのだが、
殺菌までしたせいか、澱んだ魔力が消えたとか?
トンネル状の壁も天井も、ボンヤリと光を発し、
空気がなにやら神聖だとか?
魔力が濃く流れてるとか?
流れる汚水が徐々に浄化され聖水になってゆく?
とか…
どうやら、徹底的に掃除した下水道は、
下聖道になってしまったらしい。