第六話
無人の16台のフォークリフトが、
異様な威圧感と共に街中を進み、
まるで儀式のような静けさで──
おっさんの家を、
冒険者ギルドの裏庭に着地させた。
「……」
ライオンのギルドマスターは、
妙な格好のまま泡を吹いて、気絶していた。
愛想のいい受付嬢に許可をもらい、
おっさんは自宅……の跡地へ帰る。
建物がなくなった我が領土。
やけに広く感じる。
正直、基礎を水平に直して補強するだけなら、
家を浮かせたまま、少し動かす程度の作業で済んだ。
それなのに、なぜわざわざ、
通行人をビビらせるような方法で家を運んだのか?
おっさんには、ちゃんとした思惑があった。
「石垣とかロマンだっぺ」
おっさんは鉄筋を組み始める。
レーザー水準器、トランシット、距離計──
便利な道具を余すところなく使いこなし、
四方どこから見ても均整の取れた、完璧な“台形”の骨組みを編み上げていく。
アース溶接機で連結し、保持し、
骨のように、魂のように、鉄をひとつに固めてゆく。
鉄筋とは、人間で言えば“骨”だ。
それが短かったり、ずれていたり、曲がっていたりしたら……どうなるか、想像してみるがいい。
作業が終われば、通常なら型枠を組み立てる段だ。
……だが、おっさんは違う。
コンパネではなく、樹海産の極上板材を地面に並べ、
そこに、模様を刻み始めた。
イメージは、熊本城。
あれほどの震災にも崩れることなく、
城を支え、堪え抜いた石垣だ。
おっさんの目に焼きついている、あの石目。
継ぎ目の深さ、角の表情、苔すら刻まれた風格を──
彫刻刀ひとつで、丁寧に刻んでいく。
所詮、模造。イミテーションである。
だが──。
型枠が組み上がり、
異世界の謎パワーが混入された特殊配合のコンクリートを打設。
数日の養生期間を経て、ついに型枠は取り外された。
その石垣は……
本物の石を積んだかのような重厚さ。
角は鋭く、表面はしっとりと風雨にさらされたような陰影を帯び、
継ぎ目には、自然と苔が這い始めていた。
触れた者は、誰もが一様にこう言う。
「……石じゃない、だと?」
だが、おっさんは言う。
「違ぇねぇよ。魂込めた“ガイアベース”だっぺ」
後日、儀仗行進により、
我が領土へと帰還した建物。
今度は、四隅に据えたクレーン車がそれを請け負う。
豆腐のように、クシャっとならぬよう、
細かく張り巡らされたフックとワイヤーで慎重に吊り上げられ──
石場の上に、ビッタリと鎮座した。
もちろん、いくら石垣が立派でも、家に入れなければ意味がない。
玄関のある面には、ちゃんと階段も据えておいた。
ついでに、余ったコンクリートで強度試験をしてみたのだが……
日本の先端技術機器をもってしても、
表示されたのは、たった一言。
{測定不能}
基礎の天面には、無数のボルトが突き出し、
それが大地と建物を、強固に結びつけてくれた。
内装の改造は、まだこれからだが──
少なくとも、根本的な問題は解決した。
地上およそ十メートル。
そこから望む王都の街並みを眺めながら……
おっさんは、ひと息ついてジョッキを傾けた。