天賦の才能?
「……あ、あの、月夜さま。本当に、違和感などありませんか? 僕」
「ええ、もちろん。昨日も申しましたが、とても似合っていますよ。それこそ、綺麗すぎて思わず見蕩れてしまうほどに」
翌日、小昼の頃。
優雅に前を歩く月夜さまに、何ともたどたどしい口調で問い掛ける僕。すると、彼女はそっと振り返り笑顔で答え……うん、確かに昨日も仰ってくださってたんだけども。それも、何度も。なので、流石にそろそろ辟易なさっているかも……うん、ごめんなさい。ただ、このような経験は初めてゆえどうしても不安でして……。
ともあれ、今いるのは『渡殿』と呼ばれる二つの建物を繋ぐ屋根付きの渡り廊下――そこを、ご主人さまたる月夜さまの後ろをついて歩いているわけで。
『――わぁ、めっちゃ可愛い! これはもう才能ですよ伊織! 全くもう、どうしてもっと早く平安に来てくださらなかったのですか!』
昨日、薄明の頃。
そう、歓喜の声を上げる月夜さま。何に対してかと言うと、僕――本来の身分ではほど遠い、見るも優雅な衣装を纏う庶民の僕に対してで。数ならぬ身の僕には過分にして勿体なきお言葉に、大変恐縮の思いです。……ただ、どうしても何も僕も来れるなんて思ってなかったですし。気が付いたらなぜか平安にいたんです。
さて、何が起こっているのかと言うと――女房として仕えることになった僕に、なんと月夜さまが直々に衣装を見繕ってくださっているわけでして。……まあ、途中から着せ替え人形のようになってた気もするけど。
ともあれ、これにて僕は正式に女房として彼女にお仕えすることに……あっ、女房というのは平安時代では高貴な方々に仕える女性のことを指します。