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お后さまの召使い

「……なるほど、そういうことですか。……うん、どゆこと?」

「……まあ、そうなりますよね」



 それから、しばらくして。

 たどたどしい僕の説明に、きょとんと首を傾げ尋ねる月夜つくよさま。……まあ、そうなりますよね。正直、僕自身何を言ってるのかほぼ分かっちゃいないし。


「……ですが、どういう原理か貴方が平安いまより後の時代――いえ、正確には今より後の時間からやって来たということは分かりました。まだ完結していない源氏物語を最後まで存じていた以上、信じる他ありません」

「……ですが、月夜さま。ひょっとすると、僕が嘘をついている可能性も」

「いえそれはないでしょう。だとしたら、貴方の話してくださった緻密で壮大な内容を紫式部かのじょ以外の誰が作り上げたというのですか」

「……なるほど、それはご尤も」


 すると、ややあってそう口にする月夜さま。話の流れで源氏物語は既に完結しているというお話をしたら、本当ですかこの先はどうなるのですかと頻りに聞こうとする月夜さま。ネタバレになっちゃうのもどうかとは思ったけど、ご本人が熱望なさっているのに僕の方で駄目だと決めつけるのもどうかと思い話すことに。幸い、それが決め手となり僕が未来から来た人間であることは信じていただけたようで……ふぅ、良かった。



「……さて、細かなご事情は依然把握できていないものの……ともあれ、貴方が目下行く宛もなく途方に暮れていることは理解しました」

「……はい、恥ずかしながら」

「……いや、恥ずかしくはないと思いますが……ともあれ、このまま見捨ててしまうのは流石にお気の毒というもの……なので、然るべき職務を与え内裏こちらに居ていただくことにしましょう」

「……っ!? 本当ですか!?」

「ええ、もちろん。きっと、これも何かのご縁でしょうし」

「ありがとうございます、月夜さま!」


 すると、ほどなくそう仰ってくださる月夜さま。そんな彼女に、僕は深々と頭を下げ感謝を告げる。……なんと、なんと寛容な御方なのだろう。生まれ変わってもまたお会いしたい。


「……さて、そうと決まればどうしましょう。やはり、こちらでも古典についての教鞭を……あっ」


 その後、そっとおとがいに手を添え思案の表情を浮かべる月夜さま。そして、ややあって何か閃いてくださったようで――

 

「――先ほども申しましたが、頗る端麗な容姿をなさっていらっしゃいますよね、伊織いおりは。それも、男性というよりは中性的――なので、上手く装えば女性ということで何ら問題なさそうです」

「…………ん?」


 そんな期待の最中なか、にこっと微笑みそう口にする月夜さま。何とも可憐な笑顔で、思わず見蕩れそうになってしまうけど……ただ、それはそうと……どうしてか、そこはかとなく嫌な予感が……


 すると、そんな心中を知ってか知らずか何とも楽しそうに僕を見つめる月夜さま。そして、パッと花の咲くような笑顔で告げた。



「――はい、決まりました。貴方には、女房として私に仕えていただきます」



 


 

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