帰省
「……本当に、申し訳ありません。私の事情に、伊織まで巻き込んでしまって」
「……どうか、謝罪などなさらないでください、月夜さま。巻き込まれたなどとは微塵も思っていません。微力ではありますが、僕は自身の意思で月夜さまを傍でお支えしたいと思っているのです」
「……ありがとうございます、伊織」
それから、数日経たある日の昼下がり。
そう、お言葉の通り甚く申し訳なさそうに謝意を口にする月夜さま。だけど、どうか謝罪などなさらないでいただきたい。言わずもがな、彼女は何も悪くない――どころか、最もご心痛なのは間違いなく彼女のはずで。僕自身、あれほどにお世話になった寛厚な帝さまのご崩御――もちろん、僕とて辛くないはずがないけれど……誰よりも深い愛情を受けていた月夜さまご心痛は、きっと僕の比などではなくて。
そして、今のお話はまさにそこに関するもの――帝さまの崩御による月夜さまのご心身を考慮し、一定の期間ご実家へと帰省するというもので。
「……こちらが、月夜さまの……」
「ええ、みすぼらしいところでしょう? 恥ずかしながら、私の実家です」
「……いえ、全く以てそんなことはないのですが。こちらをみすぼらしいなどと言ったら、僕の家なんて庵ですよ? 伊織だけに」
「うん、急にどうしました?」
それから、一時間ほど経て。
僕の小ボケに、ポカンと呆気に取られた様子で尋ねる月夜さま。……うん、我ながらほんとくだらない。
ともあれ、彼女の言ったように今いるのは月夜さまのご実家――どれほど低く見積もってもみすぼらしいなどとはとても言えない、素朴な雰囲気が心地の好いの立派な邸宅で。……うん、くだらないことは言ったけど、実際のところこちらに比べれば僕の家なんてほんとに庵みたいなもので……いや、決して庵を貶してるわけではないんだけども。
「――どうぞ、伊織。お見苦しいところですが、お好きなところへどうぞ」
「あ、ありがとうございます月夜さま」
それから、ほどなくして。
そう、穏やかに微笑む月夜さま。お部屋の中も、やはり素朴な雰囲気の素敵な場所で。まあ、お見苦しいというのは謙遜だろうけど……それでも、ご自身のお宅が多少なり劣ったものだとお考えなのは彼女のご様子から本当だと察せられて。きっと、無意識であれ宮中と比較してしまっているのかもしれない。
その後、ほどなくご両親の対面。お二人とも頗る端麗で、柔和な雰囲気――そして、月夜さまと良く似ていらして。そんな御二方は本当に優しく、見ず知らずの僕を暖かく迎えてくださり、更には僕の分のお食事まで用意してくださり……その、本当にありがとうございます。




