絵合わせ
「……うん、素晴らしい。今日も甚く心に沁み入る素敵な歌だったね、月夜。最近は和歌の腕もめきめき上達しているようだけど、何かきっかけでもあったのかな?」
「――過分なお言葉、心より痛み入ります帝さま。……そう、ですね。和歌は、我らが日本の心――ならば、日本の統治者たる帝さまの后であるからして習得しないわけにはいかないと、不束な身ながら日々精進を重ねている次第です」
「……そうか、それは甚く素晴らしい」
それから、数時間経て。
そう、涙を浮かべつつ仰る帝さま。そのお涙は和歌に対してでもあるだろうけど、きっと今仰った月夜さまのご姿勢に対するところが大きいと思う。
……うん、よくもまあぬけぬけと。今回も、例により時代を越えたカンニングで知り得た後世の和歌を詠んだだけだというのに、どうしてそんな誇らしげな表情できるのだろう。……まあ、その優雅な所作や澄んだお声は思わず惹かれてしまうのだけども。
ともあれ、その後も次々に和歌を詠んでは暖かなご感想を述べ合う皆さん。そんな素敵な時間にほのぼのと心が和んでいると、しばらくして――
「――さて、そろそろ頃合いだと思うけれど……準備は良いかな、藤壺、月夜」
「はい、もちろんです帝さま」
「ええ、私も差し支えありません」
ふと、柔らかに響く帝さまのお言葉。そして、声音に違わぬ柔らかな微笑の彼に藤壺さま、続けて月夜さまがお応えに。さて、何のお話かというと――
「――それでは、お手柔らかにお願いしますね? 桐壺さん」
「ええ、藤壺さま。こちらこそ」
そう、何処か不敵な笑みで告げる藤壺さま。一方、そんな彼女に柔和な微笑で答える月夜さま。さて、何のお話かというと今から行われる遊戯――二組に分かれ、それぞれの組が手持ちの絵を出し合い勝敗を競う、平安時代の高貴な方々の間で流行した絵合わせという遊戯に関するお話で。




