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お后さまの召使い  作者: 暦海


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19/36

経緯

「――ところで、伊織いおり。貴方の時代では、いったいどのような経緯で恋仲になるのでしょう?」

「……へっ」

「ほら、いつしか仰っていたではありませんか。令和そちらにおける恋仲までの経緯は、平安こちらとは大いに異なると。それで、具体的にどのような経緯ものなのかなと」

「……ああ、そう言えば」



 それから、数日経た昼下がり。

 彩り豊かな種々の花々が咲き誇る雅な庭園にて、ポーンと鞠を蹴り上げつつそう問い掛ける月夜つくよさま。……ああ、そう言えばそんなことも言ったかな。


 ところで、今僕らがしているのは蹴鞠――平安この時代の貴族の間で流行っている、鹿革製の鞠を落とさないように蹴り上げ続ける遊びです。



 さて、ここで大まかな説明を。ここ宮中においては事情が異なるとして――平安この時代の高貴な階級における恋愛は、まず和歌から始まる。最初に、男性が意中の女性へと和歌をしたためた文を送る。ちなみに、この時点ではまだ顔を合わせていない。そして、受け取った女性はその文を読みその男性に会いたいと思えば返歌をしたためた文を送る。そして、その文を読んだ男性が改めて会いたいと思えば返歌をしたためた文を送り、外がすっかり暗くなった頃にその女性へ会いにいく――ざっくり説明すると、これが平安この時代の貴族階級における恋仲成立の主たる経緯で。


 そういうわけで、男女共に自身の想いをきちんと伝えるためにも和歌を作る能力は頗る大事で……うん、平安この時代に生まれなくて良かった。そうなると、僕じゃきっと一生かかっても伝えられな……いや、それは令和むこうでも同じか。



 ……ただ、それはともあれ……さて、何とご説明すべきか。そもそも、令和むこうの恋愛もよく分かっていない僕だけど……うん、とりあえず――


「……そう、ですね。その、恥ずかしながら僕自身ほぼ分かっていないのですが……例えば、会ってからしばらく会話を交わしている内に仲良くなって、それで連絡先などを交換して、そこから何度か一緒に遊びに行ったりして……それで、どちらかが告白して恋仲成立、といったところでしょうか」

「……えっと、それは一般的にどのくらいの期間を要するのでしょう?」

「……そう、ですね……これまた、僕自身ほぼ分かっていないのですが……恐らくは早くて数ヶ月、長ければ数年といったところかと」

っが!! 何をそんなモタモタすることがあるんですか!?」


 すると、僕の説明に茫然――そして、驚愕の声を上げる月夜さま。まあ、所詮僕の情報なんて当てにはならないけど……でも、きっと時代間による大きなギャップがあるのは間違いないかなと。……ただ、それにしてもモタモタって。



「……あの、伊織。確認ですが、令和そちらでは顔を合わせてから恋仲になるまで、概して数ヶ月から数年を要するのですよね? 然らば……その、明け透けに口にするのは少々躊躇われますが……と言うことは、会ってからそういう関係に至るまで数ヶ月から数年を要する、ということでしょうか?」


 その後、再びポーンと鞠を蹴り上げつつ、お言葉の通り少し躊躇う様子でお尋ねになる月夜さま。そして、経験皆無な僕とて流石にその意味するところが分からないはずもなく……まあ、そうなりますよね。平安こちらでは男女が会う=その日にそういう関係になる、と言っても過言ではないだろうし。ともあれ、僕なりに説明すべく口を開いて――


「……そう、ですね。更に言えば、恋仲になってから更に期間を要する方々もいるかなと――」

「更に!? ……さっさと交わればいいのに」

「明け透けにもほどがある!!」


 すると、パッと目を丸くした後どこか白けたようにそんなことを言う月夜さま。いや明け透けにもほどがあるよ!! さっき躊躇ったのは何だったの!? ……うん、今更ながら本当に不思議な御方で――


 ――ポトン


「…………あ」


 すると、驚愕の最中なかポツリと声が。……うん、すっかり忘れてたね、蹴鞠これのこと。






 

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