文化的行事
「……ふむ。琴だけに、というわけではないけれど……いつもながら、深く琴線に触れる繊細優美な音色だね、月夜」
「過分にして勿体なきお言葉、痛み入ります帝さま」
それから、二週間ほど経た昼下がり。
お言葉の通り、沁み沁みと表情でそうお告げになる帝さま。そして、そんな彼のご称賛を受け恭しい所作でお答えする月夜さま。その後、ややあって皆さんから拍手の音がちらほらと……まあ、お后さま方々は渋々といったご様子だけども。
さて、今いるのは豊かな自然が優しく織り成す風雅な庭園――そして、帝さまのご主催により定期的に行われているらしい、音楽や和歌などを嗜む文化的行事の最中で。
『――さて、伊織。明日は、帝さまご主催の行事に同行していただきます』
昨日、夕さり頃。
黄昏の陽が優しく差し込むお部屋にて、神妙なお表情でそう口にする月夜さま。お話によると――翌日、庭園にて帝さまご主催による文化的な行事があるようで……うん、さっきも言ったよね、これ。……ただ、それはともあれ――
『……あの、月夜さま。何か、気掛かりなことがおありで?』
そう、控え目に尋ねてみる。と言うのも、心做しかそのご様子に何処か不安のようなものが――
『……ええ、そのことなのですが――』
『…………へっ?』
――さて、そういうわけで本日こうして年齢、性別、身分問わず数多の方々が庭園に集まり、皆さん和気藹々とこの時間を楽しんでいるわけで。……さて、それはそれとして――
「……帝さまも仰っていましたが、とても素敵な音色で深く心に沁み入りました、月夜さま」
「ふふっ、ありがとうございます伊織」
そう、隣に腰掛ける少女へと告げる。すると、パッと花の綻ぶような笑顔で答えてくださる月夜さま。そんな彼女に、不意に鼓動がドクンと跳ねて……うん、ほんと心臓に悪いね。
ともあれ、その後しばらくして和歌へと移行。恋愛や友愛、各々に尊き想いを宿した歌を代わる代わる詠んでいく皆さん。そして、聞いている皆さんそれぞれに暖かな感想を送る。そんな素敵な時間に、すっかり心地好く浸っていると――
「――それでは、君の番だよ月夜」
そう、暖かな眼差しで述べる帝さま。すると、柔和に微笑み頷く月夜さま。そして、鈴を転がすような声で優雅に歌を――




