偶然?
「――ところで、伊織。心做しか、帝さまからのお呼びがない夜のみ体調を崩されているようですけど――果たして、これは偶然でしょうか?」
「……あ、えっと、その……」
それから、一週間ほど経た朝のこと。
柔らかな陽が優しく差し込む麗らかなお部屋にて、可憐に微笑み尋ねる麗しき少女。……だけど、どうしてか全く笑っている気がしない。お部屋の雰囲気とは対照的に、何とも穏やかならぬご心中のようでして。
さて、月夜さまの仰っていることとは……まあ、説明するまでもないかな? 今しがたのお言葉通り、帝さまからのお呼びがない――言い換えれば、彼女が淑景舎でお眠りになる夜のみ僕の体調が悪くなることにたいそう疑念を抱いていらっしゃるようで。……まあ、そりゃそうだよね。毎回、そんなピンポイントで悪くなるわけないだろうし。
「……ひょっとして、ですが……伊織は、嫌なのでしょうか? 私と、そういう行為をするのが」
「いっ、いえ滅相もございません月夜さま!」
「……でしたら、どうして毎回……それとも、他の方々の方が良いとか。例えば、藤壺さまとか梨壺さまとか」
「いえ、そういうわけでもなく……」
その後、僕をじっと見つめ尋ねる月夜さま。そんな彼女に、僕は慌ててお答えを……いえ、決して嫌というわけではなく……ただ、令和に生きる僕としてはやはり問題だと感じてしまうのと……あと、情けなくも単純にビビってまして。と言うのも……その、恥ずかしながらそういう経験が皆無なわけでして。
……まあ、それはともあれ……さて、何とお答えすべきか。もしも正解があるとすれば、それは彼女の要望に応えるということになるのだろうけど……うん、やはり今の僕には難しい。なので――
「……ご要望に添えず、大変申し訳ありません。……ですが、僕は誰より月夜さまを深くお慕いしております」
そう、目を見つめ告げる。吸い込まれそうなほどに深く澄んだ、その清麗な瞳を。……うん、答えになってないね。でも、今の僕に言えるのはきっとこれだ――
「……そ、そう、ですか。……まあ、今回のところは看過して差し上げます。ひょっとすると、本当に体調が優れないのかもしれませんし」
「……っ!! 寛大なお言葉、ありがとうございます月夜さま」
すると、ややあってそう口になさる月夜さま。心做しか、少し逸らしたそのお顔はほんのり朱に染まっているように見……いや、気のせいかな? まあ、それはともあれ、ひとまずはお許しいただけたようで……ふぅ、良かった。




