急ぎのご用事?
「……ところで、さっきから思ってたんだけど……背ぇ高いよね、伊織さん。うん、梅壺さんと同じくらいじゃない?」
「あっ、その、えっと……すみません」
「ふふっ、なんで謝るの? さっきから面白いね、伊織さん」
すると、ほどなく僕をじっと見つめそう口にする梨壺さま。……うん、確かに謝ることじゃない。ないんだけども……うん、つい。
……バレては、ないよね? ……うん、大丈夫……だよね? 背が高いといっても、きっと女性としてはという話――実際、同世代の男性に比べれば低い方だし……それに、後宮にも僕と同じくらいの女性もいらっしゃるみたいだし。
「……ところで、そろそろお暇しても宜しいでしょうか梨壺さま。実は急ぎの用がありますので、私達」
「へっ? あの、そんなのありまし――」
「おや、伊織。先ほど申したばかりというのに、もうお忘れになってしまったのですか? これは主として調教が必要なようですね」
「調教!?」
その後、ほどなくニコッと微笑みそう口にする月夜さま。いや仰ってなかったですよね!? 庭園でのんびりするご予定だったはずでは!?
ともあれ、梨壺さまへと優雅に一礼し通り過ぎていく月夜さま。些か困惑しつつも、僕も頭を下げ彼女の横を通り過ぎ――
(……それじゃ、またね伊織さん)
「……へっ?」
通り過ぎようとした刹那、そっと鼓膜を揺らす微かな声。そして、ニコッと微笑みゆっくり去っていく梨壺さま。……さっきの言葉……それは、ごく自然な別れの挨拶。……なのに、どうしてか不意に背筋が――
「――ところで、伊織。先ほども随分と見蕩れていたように見えたのは、果たして私の気のせいでしょうか?」
すると、ふとすぐそばから届く声。振り向くと、そこには何とも可憐な笑顔を見せる清麗な少女。だけど、どうしてかちょっと怖……いや、見蕩れてはいませんよ? ただ、すっごく可愛いなと思ってたくらいで。




