策士な少女?
ともあれ、眼前の少女へと向き合う僕。愛嬌に溢れるつぶらな瞳に、雪のように白い肌を備える楚々とした魅力の女の子。歳は、恐らく10代半ば――月夜さまと同じくらいかと思うけど……ただ、それはともあれ――
「……黒髪では、ないのですね……あっ、すみません余計なことを!」
自分で言って、慌てて謝る馬鹿な僕。……うん、何をしてるんだろうね、僕は。我ながら、ほんと余計なことでしかない。
ともあれ、なぜこんな愚かなことを口にしたのかというと――平安時代の高貴な女性は基本、皆さん黒髪だと思っていたから。そして、実際ここまで目にした方々は皆さん黒髪で。なので、彼女の鮮やかな黄色の髪には相当に衝撃で――
「……ふふっ」
「……へっ?」
「……あっ、ごめんね? でも、何も言ってないのに謝るから可笑しくてつい。ううん、気にしないで。女房さんの疑問は尤もだし」
「……あ、その、ありがとうございます……」
すると、お言葉の通り可笑しそうに微笑み告げる可憐な少女。その様子から、どうやら不快に感じてはいないみたいで……ふぅ、良かった。
「さて、ちょっと遅くなっちゃったけど自己紹介を。私は梨壺。これでも一応、后の一人だよ。貴方は?」
「あっ、はい! ぼ……いえ、私は伊織と申します。宜しくお願い致します、梨壺さま」
「伊織さん、だね。うん、宜しくね伊織さん」
その後、ほどなく朗らかな笑顔で告げる美少女。……梨壺さま、か。まあ、さっき月夜さまが呼んでいたので知ってはいたけど……それでも、こうして自己紹介をしていただけるのはやっぱり嬉しい。
「――それで、さっきの疑問だけど……まあ、ちょっとした戦略ってところかな?」
「……戦略、ですか?」
「うん。ほら、帝さまにはそれはもう沢山のお后さんがいて、その中でも呼ばれるのはだいたい決まってる。例えば、藤壺さん。……まあ、あの人は皇后だし。好む好まないに関わらず、ある程度は優先しなきゃ駄目なんだろうね。あとは、時々だけど梅壺さん。そして――帝さま一番のお気に入りが、そこにいる月夜さん。それはもう、断トツのね」
「……なるほど」
「そういうわけで、他のお后さん達が呼ばれることなんてほぼないの。もちろん、あたしも含めて。そんな不遇な中で、少しでも帝さまに見てもらうためにはどうするか――それは、他の人達と何かしら違いをつけるしかない。……まあ、帝さまは黒髪が好みだし、その点ではどう考えても不利なんだろうけど……でも、そもそもほぼ見てもらえてないのに、みんなと同じなんてそれこそ何の有利にも働かないし」
「……なるほど」
そう、愛らしく微笑み告げる梨壺さま。そんな彼女の戦略は、驚愕ながらも納得――そして、思わず感心させられるもので。……うん、すごいなぁ梨壺さん。僕が彼女の立場なら……うん、出来ないかな。




