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『少し昔の話を聞いてほしい。

 中一の時に、俺のクラスに男子が転校してきた。

 その転校生を仮にAとする。


 転校してきてばかりのAは大人しい性格の優しげな奴だった。

 ただ、友人や彼女が出来て周囲に溶け込むうちに緊張が解けて元々の性格が出てきたのか、Aは嫌な奴になってきたんだ。


 例えば俺らが下校中に寄り道すると、次の日にAがそれを咎めてくる。

 どこから見ていたのかは知らない。

 ゲーセンに行こうが、それとは反対側のカラオケに行こうが、電車に乗ってボウリングに行こうが、必ず注意してきた。

 寄り道以外にも、足首にミサンガをこっそり巻いているとか、部活の大会後に打ち上げをしたとか、そんな誰だってやっているような小さな校則違反をどこからか嗅ぎつけて小姑みたく責めてくる。

 それがとにかく気持ち悪かった。



 とどのつまり、Aは偽善者だったんだ。

 よくクラスメイトの失くしものを見つけては持ち主に返しているのを見たことがあったけど、妙に頻度が高かった。

 きっと感謝されくて、わざと持ち物を隠しては見つけてあげたふりをしていたんだろう。

 何か失くし物をしたらA探偵に頼め、なんて言われて彼女以外の女子にもちやほやされて、Aはさぞ満足だっただろう。


 

 それは二学期、体育祭が終わり、その余韻も収まってきた頃。

 Aを嫌っていたB、Cと結託して、Aの彼女にAの悪口を吹き込んだ。

 程なくしてAは彼女に振られた。


 さらに公衆トイレにAの顔写真と簡単なプロフィール、行動範囲を載せた紙を貼り付け、卑猥な文言を添えておいた。



 俺達がやったのはそれだけだ。



 彼女に振られ、クラスで居心地悪そうにしているAを見て溜飲が下がった俺達は、いつも通りの日々を過ごしていた。


 夜に自宅で当時大人気だった学園ドラマを見ていると、CMの間に変な映像が流れた。

 誰かが明るい部屋で首を吊る様子を、そいつの視点で映すだけの映像。


 趣味の悪いホラー映画の宣伝かと思ったけど、あることに気付いてから俺はテレビに釘付けになった。

 首吊りをしようとしている部屋の壁に、俺の通う中学校と同じ制服が掛かっているのだから。


 何だよこれ、と混乱しているうちに、また別の物が目に入った。

 某猫のキャラクターのキーホルダーが付いたエナメルバッグ。

 それはAが彼女とお揃いで付けているキーホルダーと、Aが持っている種類のエナメルバッグだった。



 親を呼んで戻って来た時には、映像は終わってしまっており、ドラマのスポンサーとしてよく見るようなCMが流れていた。

 


 次の日、登校するとすぐに全校集会が開かれ、そこでAの自殺が知らされた。

 首吊りだった。


 集会が終わってすぐ、BとCに例の映像のことを話した。

 BとCも同じ時間帯に同じ映像を見ており、制服や鞄、キーホルダーがAの物であると気付いて背筋の凍る思いをしていたらしい。


 Aが最期に見た景色。

 Aの怨念が俺達にそれを見せたのだ。』





 以上が、CM捜索スレに突如としてコピペされた、怪談を語るスレッドに二〇十三年に書き込まれた話を、私が記憶に基づいて再構成したものです。


 ご丁寧にコピペ元のリンクまで貼られ、二二一氏がCM捜索を依頼する九年前にこの怪談が書き込まれたのは揺るがない事実だと一斉に周知されました。


 

 首吊りFPSによく似た映像が登場する怪談の存在。



「こんな怪談見付けたんだけど、二二一氏どういうこと?」


「創作怪談を元にした嘘だとしたらタチが悪い」

「元ネタにするとしても、こんな知名度が低くて怖くもない話を下敷きにするなんて変だろ」

「逆に、知名度が低いからバレないと思ってパクったんじゃないの」


「九年かけた釣りか?」

「だとしたら新たな釣神様すぎる」



「まさか二二一氏が、Aをいじめていたうちの一人?」

「二二一氏=BかC?」



 しかし怪談と二二一氏の証言は微妙に異なる点があります。


 そもそも怪談の語り手は、首吊りFPSをCMとは認識していませんでした。

 しかし二二一氏とその友人は首吊りFPSを単なるCMとして捉え、学友に訊ねて回っていました。

 Aに嫌がらせをして自殺に追い込んだことへの後ろめたさがあれば、ただでさえ不謹慎な内容のCMを探し回ろうという気になれるものでしょうか。

 


 怪談と二二一氏の証言を繋ぐ因果関係の可能性は、幾通りも考えられます。




 しかしスレ民の一人が、「これはあくまでも二二一氏の証言と九年前の怪談が全て実話であり、人智を超えた現象は存在すると肯定した上で、全てが矛盾することなく成立し得るように考察した結果だ。気を悪くせずに読んでくれよ」と前置きした上でレスを投稿しました。



 まず中学校に進学した当初、二二一氏とAは同じ学校に通っていた。

 中一の春に二二一氏とその友人がAをいじめる。

 Aは転校する。

 その転校先は怪談語り手の居る学校であった。

 怪談の内容通りに転校先でもいじめられたAは、それを苦に秋頃に自殺してしまう。

 

 Aの自殺決行時、彼の怨念がいじめの加害者達のテレビに死に様を「念写」した。

 加害者には怪談語り手は勿論、転校前の学校でいじめを行っていた二二一氏とその友人も含まれている。


 怪談語り手は制服や鞄、キーホルダーなどから、首を吊っているのがAだと気付いた。

 しかし二二一氏とその友人がAの転校先の制服や直近の所持品など知るはずがない。

 なので二二一氏達はそれがAの部屋だとは気付かず、単に変わったCMだなとしか思わなかった。


 例の学園ドラマはかなり視聴率が高かったため、加害者全員が同じ番組を見ていても不自然ではなかった。 

 仮に別の局を見ていれば、番組の最中に首吊りFPSが流れ出すという事態になっていたかもしれない。

 しかしAの死亡時刻に、学園ドラマはCMに入っていた。

 それも二二一氏と友人が首吊りFPSをCMと思って疑わなかったことの要因となっていたのだろう。




 この推理が書き込まれた頃には、二二一氏はすっかりスレに姿を現さなくなっていた。

 九年をかけた釣りが完成したので満足して消えた?

 パクリがバレたから逃げた?

 それとも、いじめを責められるのが怖くなった?



 同時に私は、新たな疑問に苛まれていた。

 怪談の中でのAの描写に見られる、少し不自然な点。

 他人が校外で犯した校則違反をそこまで把握出来るものか?

 精度の高い失せ物探しは本当に自演だったのか?



 もし「念写」を出来たのが死に際だけではないとしたら……それも説明が付く。

 正義感の強いAは、生前から念写でクラスメイトの悪事を見ていたのかもしれない。

 探し物だって、念写を使って見つけていたのかもしれない。

 それこそ、人智を超えた現象の存在を肯定した上でなくては成り立たない仮説だが。



 

「二二一氏、A君の供養しなきゃ駄目だよ。

とりあえずこのお経唱えてみて」

「そのお経って唱えたら呪われるやつじゃねえかぁ!」


「オカルト板に相談してくる」


「捜索開始からまだ四時間しか経ってないんだぞ。

 まだ首吊りFPSを真っ当なCMとして探す価値はあるんじゃないか?」


「まとめさん、僕は虹色でお願いします」


 若干スレ違いな内容で皆が盛り上がる中、ぽつんとSNSへのリンクが貼られた。


 首吊りFPSの映像でも見つかったのかと思い、私はすぐさまリンク先を見に行った。


 しかしリンク先に映像はなく、ある男性の日常を綴ったアカウントのプロフィール画面が表示された。

 別段インフルエンサーという訳でもない、ありふれたアカウントだ。

 


 外食でラーメンを食べたという何気ない投稿が最新のものであった。

 ただ、そこに初期アイコンのアカウントからリプが一件だけ来ていた。


「息子のことを思い出してくれてありがとう」







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