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変わらない日常

 売場で片付けの紐解きという無駄作業を強いられていると、常連が現れた。


「店長さん、お店続けられそうでよかったわ」

「おはようございます。閉店してくれたら、全部スッキリできました」

「それは困っちゃう。私が昔の主人そっくりな子と密会できなくなるでしょ」

「奥さぁ~ん、マズいですよ!」


 昼下がりの浮気プレイも継続らしい。ところで、蜜月って何味? ドロドロな触感だけど、ハニーな口当たりかしら?


「大人になると、馴染みの場所がどんどん減って寂しいのよ。店長さん、まだ若いから」

「外見で言えば、保科さんの方がめっちゃ若いです」

「あら、やだ。そんなお世辞、気を遣わなくていいのに。ふふ」


 保科さんは今日も美人だった。

 大学生っぽいグループが通り過ぎるも、人妻が交ざっても判別できそうにない。


「ママぁ~。ちいかわの新しいやつ出てる! 早く来てっ」

「はいはい、急かさないの。ママ、お話の途中だから」


 可愛い子が走り寄って来たが、すぐさま引き返してしまう。


「花蓮ったら、落ち着きがないのよね。きららちゃんを見習ってほしいわ」

「いや、アレは精神年齢が成熟すぎて参考にならないっす」

「せっかく会えると思って連れて来たんだけど、タイミングが悪くて残念ね」

「今度来たら、伝えておきます」


 またお茶しましょと言い残し、保科さんは愛娘の元へ向かうのだった。

 閑話休題。


「間に合ったぁ~、結奈ちゃんセーフッ」

「出勤時間に休憩室飛び込んでも、アウトや。お給金引いとくで~」

「そんなぁ~、横暴反対! これ、先輩ハラスメントですって」

「遅刻する奴に人権なし。これがバイトだ。社会経験できて、タメになったやろ?」


 涙目の結崎を売場へ放り出すや、俺はようやく昼休憩に入れた。

 早朝出勤で、夕方ランチタイム。素晴らしい職場環境に涙ちょちょ切れるぜ。

 今日は何を食べよう。とんかつ? ステーキ? 牛タン?


 財布に398円しか入ってないけれど、それでも選びたい放題や。

 フ、懸賞で当たった買物券2000円分持っている! 俺は無敵の人なのだ!

 ルンルン気分でホップステップらんらんるー。


「我が怨敵」


 ご機嫌ゆえ不愉快な低音ボイスだって小鳥の囀りに聞こえちゃうチュン。


「どこへゆこうというのだ、三分間待ってやろう!」

「初手バルス。はい、ムスカ処しました」


 腕を十字にクロスさんが店頭で待ち受けていた。休憩中は相手しないよ。


「クックック、我が威光にすがりし者よ。よもや、運命を預ける同志になろうとは! なかなかどうして面白い」


 俺はお腹が空いていたので、そだねーと頷き反対の方へ足を向けた。

 しかし、回り込まれた。意外と俊敏性が高い奴である。


「次なる饗宴を渇望するがいいぞ。拙者の機嫌を損なわねば、再び戯れに興じてやろう」


 コラボ第二弾は本社に問い合わせてください。その後、打合せします。それじゃ。


「それがしのチャンネル、かの小娘にて話題沸騰。登録者数急増なりて。フン、貴様の手腕褒めてやろう」

「礼ならクソガキに言っとけ。全部、生意気ロリのタレント性じゃん」

「畢竟、女子小学生は至高なりや」


 デュフフフとニチャアが止まらなかった、キモオタ。ロリは二次元に限れ。


「我が好敵手、この錆びれた物置と命拾いしたか。悪運尽きぬとはこのことよ」

「さっさと尽きてほしかったけどな。本当の悪、滅びたまえ」


 ブラックバイトまかり通る店舗、総じて潰れてほしい。

 世の中、奴隷もとい人手不足アピール好きでしょ。これで解決じゃん。


「景弘音無! やはり、小生の目に狂いはなかった! 我が覇道に食らいついて来いッ」

「視野ブレてんぞ。ドーナツの穴の方がちゃんと人間観察できそうだ」


 哲学界隈では別世界に繋がっているらしい。異世界転生したい。禁断魔法が日本語で読めるから最強。呼吸でマナを取り込めるから最強とか、そんなスキルでおなしゃす。


「十文字。嫌々だけど、まだ付き合いが続く。カプセルトイの可能性を信じてくれ」

「然り。あらゆる美少女フィギュアを攻略せんがために!」


 心を真っ赤に燃やした常連に、俺は心穏やかに落ち着いて。


「大きなお友達向けガチャ、お前以外反応良くないからさ。すまん、縮小予定です」

「何、だと……!? これが時代の流れというのかぁ~っ!?」


 十文字は、疼きやがる左手を押さえながら通路に倒れ込んだ。ここが世界の中心と言わんばかりに、萌えぇぇえええーーっっ! と叫んでいらっしゃった。


 普通に迷惑だなあ。

 もちろん、店舗責任者の音無景弘は警備室に繋がる内線を繋ぐのであった。


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