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プロローグ

「あーっ! チクショー、またダブりやがった!」


 カプセルトイ専門店で一人、俺は暇を弄んでいた。

 ――ガラガラポン、と。

 筐体のハンドルを回して現れるは、青色のカプセル。

 中身を開けば、海底をイメージしたスノードーム。真珠やサンゴ、ヒトデにクマノミが散りばめられている。


 最近のカプセルトイはお高めだが、案外バカにできない精巧な作りなのだ。

 でもこれ、すでに持っている。だだ被り。レア度で言うと、星1のコモン。


「パンダとナマケモノの異種怠惰バトルのやつが欲しかっただけなのに……返して、五百円返して……」


 俺は、ガックシとうなだれてしまう。今日のお小遣いこれにてチャリン。

 分かっていたんだ、どうせ出ないって。一点賭けのガチャポンほど当たらない。加えて、目当てがシークレットレアとなれば目も当てられない。いや、どっち?


 人はなぜ過ちを繰り返すのか? 歴史はなぜ繰り返されるのか?

 テーマ性が一緒と言っても過言にあらず。それほどに、ガチャの探求は深奥である。


「おじさん、ほんとガチャポンへたくそね! ほんとに大人? 恥ずかしくないわけ?」


 俯き加減にしゃがんでいた俺を、見下ろす幼嬢の姿あり。


「ガチャに大人も子供もないだろ。俺は今、猛烈に傷心中。そっとしておいてくれ」

「ふーん、そんな態度取るんだ? あんたはあたしの家来じゃなかったかしら。わざわざご足労かけられたの。もてなしなさいよ」


 天羽きららが腕を組むや、生意気を飛び越えてクソガキ感マシマシで胸を張った。背中と区別がつかないくらいぺったんこだった。


「女子小学生なんぞにこき使われてたまるか! ククク……大人を舐めてくれるな? 今すぐ、分からせてやるっ」


 俺が下卑た哄笑と共に立ち上がったちょうどその時。

 ――ガラガラポン、と。

 筐体のハンドルを回して、現れるは金色のカプセル。


「バカなっ!? 一発で! シークレットレア、だと!?」

「なによ、簡単に出るじゃない。退屈な遊びだわ」


 驚愕する俺をよそに、天羽はつまらなそうに鼻を鳴らした。


「これ、全然可愛くないしハズレじゃない。あたしは興味ないから処分しておいて」

「え? でも、なかなか当たらない俺が欲しかったやつ……」

「ふーん、そんなに欲しいんだ? 女子小学生が引いたカプセルトイが、そんなに欲しいんだあ~?」


 シニカルにほくそ笑んだ、天羽。くだんのスノードームを見せびらかしながら。


「あたしは今日、ドーナツの気分よ」

「直ちにミスドへ直行します! ポンデリングとエンゼルフレンチ、プリーズッ!」

「あと、リンゴジュースね。100%じゃなきゃ認めないから」

「委細、承知!」


 俺は、全力でテイクアウトを求めた。

 忍び難きを忍び、耐えがたきを耐え、恥も醜聞も捨て去り、フードコートへ疾駆した。

 く、悔しいっ! でも、感じちゃうっ!

 シークレットが手に入って嬉しいビクンビクンッ!


 全ては、シークレットレアコンプのために。

 俺、音無景弘の趣味はガチャポン集め。否、カプセルトイのミニチュア作り。

 生意気なロリ、天羽きららの特技はシークレットレアばかり狙い撃つ神引き。

 俺は彼女の家来となる代償に、とあるガチャポンの神引きを依頼したのだが……


 はたして、割に合わないと思い始めた取引がどんな結末を引き当てるのか。

 それもまた、伝説のガチャポン荒らしと呼ばれる女子小学生の手中に委ねられていた。


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