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スキルレベルしか上がらない一般身体能力学生が迷宮に挑んだら  作者: 石田フビト


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四話 流石に迷宮に入る(嘘)

 決意が固まった。

 東条さんと話したからだろうか。今の僕には不思議な高揚感と、強い使命感が満ち溢れている。

 今ならお化け屋敷だって往復できそうだ。


 視線をポータルから左にずらす。

 そこには眉目秀麗な受付嬢さん達がカウンターを挟んで並んでいた。

 あそこで登録をすればいいんだっけか。


「よし」


 僕を止められるものはいない。

 最初の弱気はどこへやら、足取り軽く進んでいく。

 一歩、二歩。

 そして三歩目あたりで、疑念が湧いた。


 これって、受付嬢さんなら誰でも対応してくれるのだろうか。

 

「……あれ」


 目線の先には多くの受付嬢さんと……それに並ぶ冒険者の姿がある。

 何をしているのだろうと疑問に思えばびっくり。

 これ換金だ。取れた魔石を換金してるのだ。


 ……うん、間違いない。冒険者さんが袋から取り出してるもん。

 あのキラキラ光ってる、青紫の宝石がたぶん魔石だよね。

 え、なにあの人凄い。めっちゃ取り出すじゃん。

 ええっ、嘘! あんな小さい袋なのに、なんでそんなに沢山出てくるの!?

 いやおかしい!

 今のはおかしい! 絶対口の大きさ以上にでかい魔石出したって今!


「……ほえー」


 ……っていかん。

 圧倒されてる場合じゃないぞ。登録だ登録。

 登録……できるのかな?


 東条さんは受付嬢にお願いすればいいって言ってたけど、もしかして登録専門の人がいるんじゃないか。

 だってほら、並んでる人みんな換金してるし。

 ここじゃないのでは。

 あれ、でもあの人は袋持ってないな。代わりに……何だろう。何してんだあの人。

 ちょっと話して受付のお姉さんが機械ポチポチして。

 どっか行っちゃった。


「……」

 

 やばい。

 これは間違いなくやばい。

 具体的に何がやばいかと言うと、あの冒険者さん達の列に並んで、順番待ちしたあげくにここじゃないですよって言われるのがやばい。

 考えただけできつい。

 受付嬢さんの申し訳なさそうな顔と、周りの「うわ、こいつやってんな」という顔が目に見えるようだ。


 くそう、これが東条さんなら。


『あの、登録いいっすか?』

『あ、申し訳ありません。ここでは登録を行っておらず、あちらの方にてお願いできますか?』

『いやー、すんません。ありがとうございます』


 という三会話で終了だろう。

 何という爽やかさ。きっと周りの人も「あ、この人、間違えたのか。どんまい」って感じになるはずだ。

 

 憎い……! 己の陰キャ具合が憎い……!

 あと無駄に再現性の高い妄想もキモい……!


「ぬぐぐ、誰か空いてる人いないの?」


 幸い背はそれなりに高い。

 背伸びをして右斜め左斜め。どうにかして空いている受付嬢さんを探す。


 あのポニーテールの女性……駄目だ並んでる。

 じゃあ、あそこの色っぽい金髪のお姉さん……やっぱ並んでる。

 地味だけど俺だけがあの子の良さを知っているみたいな小柄の女性……も並んでる。

 ここであえての正統派茶髪の王道美人受付嬢さん……駄目ですよねそりゃ。てか凄いなあそこ。並びすぎでしょ。


「駄目かぁ……ん?」


 と、諦めかけたとき。


 見つけた。

 一つだけ誰も並んでいないとこがある。端っこだから分からなかった。

 えー、誰だろう。

 並んでないのは好都合だけど。

 それはそれで、やばそうな、気、が……。


「な、に……?」


 衝撃。

 頭のてっぺんから爪先まで雷が落ちたような。

 人生で生まれて初めてエロ本を読んだような。

 今までの人生観が破壊される驚き、衝撃。


 何なんだあの人は……。


 漆黒の、何も映さぬ気だるげな目つき。疲れているのか、目の下には深い隈があった。

 また退廃的な幻想を感じさせる薄い灰髪。

 触ればそのまま壊れてしまいそうな細い体。それを包む、着崩した真っ黒なスーツ。


 肘をついてぼうっとしているだけなのに、関わった瞬間、何もかもが破滅する危うさがあの人にはあった。

 美人だ。間違いなく美人だ。

 だがその美しさはあまりに毒々しい。


 美しい花には棘がある、とは言うが。

 これはもう棘というより核弾頭だろう。会えば最後、塵も残さず喰らわれる。

 なるほど道理で誰も並ぼうとしないわけだ。


 僕以外を除いて、ね。


「坊主」

「はい?」


 既に歩き出していた僕は、突如として肩を掴まれる。

 半端ではない力だ。見れば、その腕には多くの傷が刻まれている。

 次いで顔に目をやった。

 そこには腕同様、顔に幾つもの傷を持つスキンヘッドの冒険者がいた。

 輝くブローチは……どこか見覚えのある、暗い青。

 

 スキンヘッドさんは荘厳に口を開く。


「その先は破滅しかないぞ」

「でしょうね」


 破滅。その言葉の意味を問う必要はないだろう。

 分かっている。

 分かっているさ。

 だが敢えてこう言おう。


「望むところです」

「……ふ、愚問だったか」


 強面の彼は薄く笑い、手を離した。もう引き留める気はないそうだ。

 ありがとう優しいおじさん。

 でも僕、行くよ。

 たとえこの身が爛れ、焼け落ち、塵になろうとも構わない。


 だって目の前に、ダウナー灰髪隈ありスレンダーお姉さん受付嬢がいるのだから。


 止まった歩みを再開する。

 一歩、二歩。少しずつ彼女との距離が縮まっていく。

 緊張はなかった。

 ただ為すべきことを為すという、使命感ともいうべき炎が僕を突き動かした。


 そして、ついに。


「あのぉ、すみませぇん。冒険者登録、お願いできますかね?」

「……」


『……ッ!?』


 周りの空気が、変わった。

 視線をあちらこちらから感じる。まるで卒業式で大声を出したみたいな重圧感だ。

 僕はどうやら、虎の尾を踏んでしまったらしい。


 へっ、今更そんなものでビビるかよ。

 見ていてくれ、スキンヘッドのおじさん。

 これが僕の生き様だ……!


「あの、すみません。冒険者登録がしたいんですけど、大丈夫ですか」

「……」

「すみません、僕、冒険者登録、お願いします」

「……」

「謝罪僕冒険者登録求懇願」

 

 僕の言葉は全て無視。

 相変わらず肘をついてぼーっとしていらっしゃる。


 もしかして、もうプレイは始まっているのか……?

 いやそうに違いない。よくよく考えれば、無償でこんな性癖の擬人化みたいな女性とお話ししようだなんて。

 何とも甘ったれた考えだった。


 僕は無言で財布を取り出す。

 中身を静かに確認した。帰りの電車のことを考えなければジュース六本は買える。

 いくしかねぇ。

 

 そう、小銭を握りしめようとしたときだった。


「あ、あのぉ。こちら空きましたので、よろしければご登録致しましょうか?」


 声がかかる。聞く人を穏やかな気持ちにさせるような、綺麗な声だった。

 思わずそちらを向くと、そこには先程の茶髪正統派受付嬢さんがいた。

 いつの間に冒険者を片付けたのだろうか。

 何という早業。

 あの行列を数秒で……って違う。横に押し付けただけだ。

 地味だけどあの子の良さは俺だけが知ってそうな受付嬢さんが涙目になってる。可哀想に。


 ……ふむ。

 そっちが空きましたとな。はいはい、成程ね。そっちでも登録できんのね。

 うんうん。


 僕はとびっきりの笑顔で言った。


「あ、お構いなく」

「はい! それではこちらへ……え?」


 ぴしり、と茶髪正統……めんどいな、茶髪受付嬢さんでいいか。

 茶髪受付嬢さんが石のように固まる。

 一体どうしたんだろう。


 ……あ、聞こえなかったのかな。もしくは上手く伝わらなかったのかも。

 ならちょっと言葉を変えて、もう一度。


「僕はこの人に登録してほしいので、お構いなく」

「……」


 あれ、おかしいな。更に固まっちゃった。

 状態異常にでもなったのだろうか。

 不思議に思いつつ、視線をダウナー灰髪隈ありスレンダーお姉さん受付嬢さんに視線を戻す。


 すると、ぱちり。


「……」

「……」


 目が、合った。

 勘違いではなく確実に。彼女は僕のことを視認している。

 僕は何だか、ライブで推しと目が合ったキモオタみたいな気持ちになって、舞い上がって言った。


「冒険者登録、お願いできますか?」


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