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スキルレベルしか上がらない一般身体能力学生が迷宮に挑んだら  作者: 石田フビト


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二十七話 新たなる作戦

 青色の奔流。

 ポータルをくぐる際に視界を埋め尽くすこの光景は、何度見ても慣れない。ちょっと酔いそうになるし。


 荒れた階段の感触が滑らかへと変わる。

 澄んだ空気が生還の喜びを伝えてくれた。

 スライム相手如きにこんな戦争帰りの兵士みたいな気分味わうの、まじで僕ぐらいだと思う。

 おら、帰っただよ……帰ってきただよ……!


「おかえりなさいませ、雨夜様」

「はい。ただいま帰還したであります、大尉」

「……? 記憶の齟齬を確認。脳が損傷されたのですか? 速やかに治療を勧めます、ポーションはお持ちでしょうか」

「あ、いえ。大丈夫です。すみません、ほんと」


 ふざけて敬礼したら真顔で対応されてしまった。

 こんなに恥ずかしいことがあるだろうか。今すぐにでも切腹したい所存でありまする。いやこれどっちかというと武士だな。

 うん、ふざけすぎた。


「発言内容について異議を申し立てます。曖昧な判断で治療が遅れては最悪の事態を招きます。今救急隊の要請を……」

「わー、待ってください! ちょ、ストップ! メリアさんストップ!」


 救急隊という言葉を聞いて本気で焦る。

 僕の冗談でとんでもないことが起きようとしていた。もし仮に救急隊員が来てしまったら、いくら僕の土下座でも通用するかどうか……。

 と、とにかく止めさせないと。


「あまり動かないでください、雨夜様。脳に損傷が……」

「いやこれ、冗談ですから! 冗談! ほんとに大丈夫ですから信じてくださいっ」

「……疑問を発言します。冗談、とは?」

「あぁ~、だからその、さっきのやつは、その、ね? 冗談だったというかぁ、なんというかぁ」

「さっきのやつ、とは?」

「……」


 嘘だろ。


「……大尉とか言ってたやつです」

「すみません、もう少し大きな声でお願いします」

「大尉とか! 言っちゃったやつです!」

「ただいま帰還したであります、が抜けていますよ雨夜様」

「ふんぎぃ……!」


 こ、この毒舌無表情クールビューティ受付嬢がぁ……!

 顔が可愛いからって調子乗り寄ってからに。


 いや、勿論僕は女性に馬鹿にされたくらいじゃ全然怒らないけども?

 でもそれはそれとして人間的にどうかと思うよね。うん、怒っていないよ。僕は余裕のある男の子だからね。


「それで、雨夜様は本日何階層まで踏破なされたのですか?」

「話の変わり方エグくない? てか今それ言う? 絶対追い打ち狙ってるよねこれ」

「すみません、よく分かりません」


 それ言っておけば許されるわけじゃないからね……?


「……」

「う……い、言いますよ。へへ、冗談ですやん。へへへ……ぐすん」


 しかし従ってしまう。

 だってメリアさん都合が悪くなると拳出してくるんだもの。

 今まで殴られたことはないけど、言うこと聞かないと絶対しばかれるよ。

 その時はこの世ともおさらばだな。

 地上の方が危険で笑うしかない。ははは、はは。


「……まぁ、といってもあれです。今日もいつも通りですよ。一階層の階段までは辿り着けませんでした。途中で塩を切らしましてね」

「了解しました。つまり今回で合計七度目の未踏破と……」

「記録しなくていいですから。そんな役に立たない情報、ゴミと一緒に捨てておいてください。まじで」


 誰が悲しくて未踏破の記録を伸ばさねばならぬのだ。

 世界記録保持者と言えば聞こえはいいが、こんなにも聞こえだけなのも珍しいだろう。

 己の誇りのため、何としてでも踏破しなければならない。

 しかしどうやって……。


「……んー、今考えても仕方ないか」

「……?」

「あぁいや、何でもないです。取りあえず換金してきますね。それでは、ええと、土曜日にまた」

「……はい。お疲れ様でした」


 メリアさんに手を振って、受付へと向かう。

 ずらりと並んだ冒険者の列。相も変わらずの盛況ぶりである。今日の一番人気は……やっぱり正統派さんか。

 毎日大変だなぁ、とどこか他人事のように思いながら。

 列を大きく迂回して歩みを進める。


「……」


 ひそひそ、ざわざわ。


 その際に聞こえてくる小声と感じる視線。

 僕は自意識過剰でもないが鈍感でもなかった。間違いなくこの場にいる冒険者の注目が僕に集まっている。

 もっとも、注目というよりは警戒に近いのだろうけどね。


 試しに彼らをチラリと見れば。


『……!』

「……」

 

 これですよ皆さん、見ましたか? この見事な顔の背け様。

 全身に入れ墨している人を銭湯で見かけてもこんな背け方しないよ。

 関わっちゃ駄目なヤバい奴って思われてるんだろうなぁ。実際はただのひ弱な高校生なのに。

 この前なんか目が合っただけで女性冒険者に悲鳴上げられたからね?

 危うくまた通報されるとこだったよ。


 釈然としない気持ちを抱きつつ、僕は冒険者の列を通り抜けた。

 そしてその先に彼女はいる。

 あぁ……荒んでいた心が浄化されるようだ。

 

 そう、彼女こそが絶対の唯一神にしてこの世のオアシス。


「ただいま戻りました、朽葉さん」

「うん……おかえり、雨夜君」

 

 朽葉さんがふわりと笑う。

 灰色の長髪がはらりと揺れ、一切の光を通さぬ深淵の瞳が妖しく細まった。


 あ……好き……。


「今日もスライムを狩ってきたのかい……?」

「あ、はい。今日はその、二体だけ。換金をお願いできますか?」

「ん……少し待っていてね……」


 朽葉さんが空中に浮かぶ青白いウィンドウを操作する。近くで見ているが、何をやっているか全然分からない。

 けれど、僕はこの時間が大好きだ。合法的に朽葉さんを見つめられるからね。ふへへへ。

 いつかキモ過ぎ罪とかで捕まるかもな。


「よし……それじゃあ、戦利品を確認しようか。出してごらん」

「はい。えーと、これとこれと……あ、一個砕けちゃったんですけど大丈夫ですかね?」

「ふむ……なるほど、少し苦戦したみたいだ」

「うぐ、すみません」

「謝ることじゃないさ。こんな核よりも、君の安全の方が遥かに大切だ。綺麗に倒す必要なんかないよ」

「朽葉さん……!」

「まぁ、それはそれとして価値は下がるがね」

「朽葉さん……」


 がっくりと肩を落とした僕を見て、彼女がくすくす笑う。

 これがジャパニーズ上げてから落とす、か。中々悪くない。次回も是非やってもらう。具体的には意地悪な美人女教師みたいな感じで……。


 そんな頭の悪い妄想をしていると、目の前に青白いホログラムが現れた。

 薄い板の形をしたそれには文字と数字が並んでいる。

 さてさて、今回の収入はどんなものなのか……。


――――――――――――――

 雨夜和幸:初層級冒険者

【本日の収益】

10000円

7500円

【合計金額】

16625円

――――――――――――――


「お~、思ったより高いですね。てっきり千円くらいだとばかり」

「くくく……そんな阿漕な商売はしないさ。それとも、千円の方がお望みだったかな……?」

「いえ全く」


 ぶんぶんと首を横に振る。 

 僕のような貧乏人にはたとえ六千円でも望外な価値があるのだ。有難く受け取っておこう。


 しかしこれで確か……七体目だっけか。今回ので合計いくら貯まったんだろう。

 僕は空中に浮かぶホログラムに指を置き、横にスライドさせる。

 以前朽葉さんに教えてもらった操作方法だ。これで合計収入が見れるはず……。


「お」


――――――――――――――

 雨夜和幸:初層級冒険者

【合計収入】

64125円

――――――――――――――


「……むふふ」


 その数字を見て、思わず気持ちの悪い笑みが零れる。

 実質二週間で六万円以上。

 中学の頃バイトしてた時とは比べようもない収益だ。このままいけば、学費免除も併せて生活を支えられるだろう。

 よかった……本当によかった。

 強く強く、そう思う。


「とりあえず半分はローンに充てて、もう残りで食費……切り詰めたら光熱費もいけるか? うん……もっともっと稼がなきゃな……」

「……」


 母さんの薬代のこともあるんだ。僕がもっと頑張らないと。

 差し当たり今後の課題は、効率的なスライムを狩る方法の模索だな。さっきは二週間で六万と言ったけど、増える方法があるなら積極的に試さねば。


 最悪僕の危険は度外視していい。

 ハイリスクハイリターンでも、やる価値は十分にある。

 

 うーん、こうしちゃいられない。

 早く帰って作戦を見直そう。屑魔石の入った袋に紐を付けたのと同じように、何か改良できる部分があるかもしれない。


 「よし……ありがとうございました。また、えー、土曜日くらいに来ます。それではどうかお元気で、朽葉さん」

「……あぁ、君もね。気をつけて帰るんだよ……」

「はいっ」


 大きく手を振って受付を離れる。

 

 明日は休みだし、考える時間は沢山あるはずだ。何なら図書館に行って情報を集めてもいい。

 さぁ、やることは山積みだ。


 頑張れ、僕!











 スライムを効率的に倒す方法を探してみせる。

 そう息巻いたのが二日前のことで。何一つ有益なアイデアが浮かばなかったのが今の現状である。

 僕は致命的な事実を忘れていたのだ。

 いや、正確には忘れようとしていた。認めたくない現実。


 僕は普通に……馬鹿であった。


「はい、えーこのようにですね、深海には多種多様な生物が生息しています。たとえば有名なのは、チョウチンアンコウとかですね。皆さん知っていますか? チョウチンアンコウ。私これ好きでね、大変興味深いんですよ」


 教壇に立って話す先生の言葉がとても遠い。

 比較的簡単な生物の授業を選んでこれだ。もし物理とかだったら、今頃僕は消し飛んでいるに違いない。

 あぁ、早く終わってくれー。


 そんな僕の願いも空しく、生物担当の田畑先生は好きな分野なのか、いつもより饒舌に話を続ける。


「いや深海の生物は全て興味深いのですがね。その中でもチョウチンアンコウはとても合理的でね。ほら皆さんも知ってるでしょ、あの有名じゃない。頭に突起があってね、それが光って獲物をおびき寄せるわけ。いやぁ、素晴らしいね! 誰に言われたわけでもなく、彼らは進化した! しかも仲間とのコミュニケーションまで……」


 長いよー、田畑先生。そのチョウチンアンコウの話、たぶん誰も聞いてないから。

 唯一聞いてるの、優等生の水無瀬さんくらいだよ。今日も今日とて美少女オーラが出てますなぁ。

 あんな可愛らしい子と青春したいだけの人生でした……。

 

「そんなわけでね、チョウチンアンコウは別に自分から光を出しているわけじゃなくてね。なんと発光するバクテリアが共生していて……」


「……はぁ」

 

 このテンションの感じ、恐らくチャイムが鳴っても延長するだろうな。田畑先生スイッチ入ると止まらないし。

 まぁ悪い先生ではないんだけど……もうチョウチンアンコウの話はいいかなって思うんですよ。

 そんなチョウチンアンコウについて情熱持ってないしさ。

 確かに面白いっちゃ面白いんだけど……。


「……ん?」


 待てよ?

 光で獲物をおびき寄せる……。

 獲物を、おびき寄せる……。


 閃いた。


「……!」


 僕は急いでノートを取り出し、真っ白なページにペンを走らせていく。

 ナイスだ田畑先生。その発想はなかった!

 なぜ僕はこんな単純な方法に気付かなかったんだろう。


 僕がスライムに塩をかけるのはその俊敏な動きを封じるためだ。

 以前、調子に乗って刀だけで挑んだ時、僕は授業料で肋骨を取られたことがある。

 あれマジで痛いからね。よく漫画で「肋骨いったか……」とかあるけど、そんなレベルの痛みじゃないからね。

 本当に死ぬほど痛いから。


 あれは馬鹿だったなぁ……。

 剣術レベルが3になったし、いけると思ったのが間違いだった。

 断言できる。素のスライムにはまだ勝てない。


 まず、さっきも言ったがスライムは俊敏すぎるのだ。現在の技量では残念ながら、あの高速の物体の核だけを両断することは不可能だった。


 しかし……着地した後なら?

 二日前と同じく、スライムが着地した瞬間ならばどうだろう。

 あの無防備な状態なら……斬れるんじゃないか?


「……くく、くくくく……」


 喉から押し殺した笑い声が溢れ、零れる。ついでに周りとの距離が三十センチは遠のいた。

 ここでもこんな扱いなのね。泣きそう。友達ほちい。


 ……いや、挫けるな!

 僕は天啓を得たのだ。そうだ、僕にはスライム君がいる。彼さえいれば友達なんざいらねぇ。


 待っていろよマイベストフレンド。

 絶対にお前を、根絶やしにしてやるからなっ。

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