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スキルレベルしか上がらない一般身体能力学生が迷宮に挑んだら  作者: 石田フビト


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二十四話 ただいまを貴女に

――――――――――――――

 雨夜和幸

 スキル 『剣術 Lv 3』

――――――――――――――



「はてさて、これをどう見たものかね」


 冒険者プレートから浮かび上がる青白いホログラムを見つめる。

 そこには相変わらずの情報スカスカステータスが書かれていた。魔物を倒すことで変化するかなぁという淡い期待が、粉々に砕け散る。

 まぁ、それは別にいいんだけど。いやよくないけども。


 やっぱ気になるよね、これ。


「『剣術 Lv 3』……って、どんなもんなの?」


 スライムを一体倒して二レベル上がったんだから、いい方なのかな。

 残念ながらスキルレベルについてはあまり知らない。 

 これが普通のレベルなら話は早かったのに。


「確か、自分のレベルが適正階層の指標だっけ」


 つまり、レベルが30なら30階層、50レベルなら50階層が適正ということだ。

 因みに平凡な冒険者は大体30レベルで成長限界を迎える。魔物を倒せば倒すだけ強くなるわけではないってのが世知辛い話だ。

 全体としての平均もそれぐらいだった気がする。

 冒険者の殆どは中層で活躍、または引退するのだ。僕の父さんもそうだった。

 

 下層や深層に潜れる冒険者は少ない。

 およそレベル50まで上がるなら、今後生活には困らない戦果を持ち帰られるとされている。


 だから東条さんが下層級冒険者だと聞いたとき、僕はあんなに興奮したのだ。

 やっぱり次はサインを貰おう。嫌がりそうだけども。


「んー……でも、スキルレベルはなぁ」


 改めて頭を悩ませる。

 正直、『剣術 Lv 3』がどれくらいの位置にあるのか分からない。

 駆け出しにしては上澄みなのか。それとも、実は平均レベル100ぐらいでカスなのか。

 スキルレベル=適正階層ではないってことは分かるけどそれぐらいだよなぁ。

 

「こんなことならもっと調べときゃよかった……」


 一応、スキル『剣術』については調べてみたのだ。

 もしかしたら世界で一人のユニークスキルの可能性が微粒子レベルで存在するかもしれなかったからね。

 あぁ分かってる。お決まりのやつさ。


 即落ち二コマだよ馬鹿野郎。


 ユニークスキル? んなわけないだろ世界で一番ポピュラーなスキルだったよちくしょう。

 最も発現しやすいスキルとか舐めてんのか?

 しかも普通は色んなスキルと複合して使うらしいし。

 

「くっ」


 いいなぁ、僕も剣に炎纏わせながら戦ったり、技名叫んだりしたかったなぁ。

 何で『剣術』オンリーなんだよ。魔法よこせ。

 魔法……あ。


「ていうか、僕って魔力あるのか……?」


 あ、やばい。

 恐ろしい事実に気が付いてしまったかもしれない。


 いや、あのね? 『剣術』スキルとかってさ、ちゃんと派生する技があるんだよ。

 例えば有名なのは……『パワースラッシュ』とか、『アサシンスラッシュ』とかかな。何かそういう、必殺技的なものがあってね?

 それで、あの……えへへ。


 そういうスキル技、全部MP消費して出すんだって……。


 MP、消費して……はは、ひひひ……。


「『パワースラッシュ』! 『パワースラッシュ』! 『パワースラッシュ』!」


 虚空に向かって刀を振りまくる。レベルが上がったおかげで無駄にいい音するのが虚しさを増長させた。

 認めたくなかった。この世の全てが憎くて仕方がなかった。


 『パワースラッシュ』は剣術レベルが2になると、誰でも自動的に覚えるスキル技だ。そこまでは調べていた。

 発動方法はお婆ちゃんでも分かる簡単仕様。

 ただスキル技名を叫ぶだけ!

 慣れたら無言で出来ちゃうんだって! 凄いね! 僕は叫んでも出ないけどね! 

 

「『パワースラッ……ふざけんなよぉおお!」


 ダァンッ、と両腕を地面に突き立てる。

 悔しかった。

 頬を伝う涙の温かさが、僕を一層惨めにさせた。


「スキル技も打てない、ステータスもない、ついでに人脈名声容姿富その他諸々もない……惨めだ……」


 しくしく涙を流し……僕今日泣きすぎじゃない? 

 あれかな、スライムのせいで涙腺壊れちゃったのかな。鼻水も止まんないし、もう最悪だよほんと。

 

「うぅ、もうぼくおうち帰る。帰るもん……あ、これ忘れちゃ駄目だ」


 目を擦りながら踵を返そうとして、慌てて向き直る。

 何のためにスライムを小さくカットしたんだ。これじゃあスライムを切ったかと思えばステータス開いて号泣して帰宅するヤバイ奴じゃないか。

 よかった、ヤバイ奴じゃなくて。


 スライムだったものをポーチの中に仕舞い込む。

 これで一安心である。

 僕は胸を撫で下ろしながら、ポータルへと道を引き返すのであった。




  

「よっせ、ほいせっ……おぉ~、戻ってきたぁ~」


 それから歩いて数分。

 何事もなく無事に帰還することができた僕は、新鮮な空気を味わうように深く呼吸した。

 ふふ、鼻水が詰まってよく分からないや。後で顔洗っておこう。

 

「おかえりなさいませ、雨夜様」

「あ……はい、ただいまですメリアさん」


 左を向くと、メリアさんが礼儀正しい姿勢のまま此方を見つめていた。

 何だか迷宮に入る前と全く変わっていないような……いや、流石にずっとこの姿勢のままじゃないよね。

 そんなロボットじゃないんだから。あっはっはっは。


「……あ、そういえば聞いてくださいよメリアさん! ついに僕やりましたよ!」

「文章を確認……やった、とは何を指してのことでしょうか」

「ほら、迷宮に入る前に言ったじゃないですか。僕、スライムに勝ったんですよ! どうだ見ましたか! へへ、こんにゃろうめぃ!」

「そうでしたか」


 極めて平淡に彼女は相槌を打つ。

 その空色の瞳には何の興味も映していなかった。


 僕は何をしているんだろう。たかがスライム一体を倒して有頂天になって。

 恥ずかしい……。


「それで、本日は何階層まで踏破なされたのでしょうか?」

「え?」

「……繰り返します。本日は何階層まで踏破なされたのでしょうか?」

「それはちょっと違いますやん」


 スライム倒したんだからさ、もうそれでいいじゃん。何階層まで踏破したとか、そんなの無粋じゃんね。

 侘び寂びが分かってないよほんと。

 見たとこ外人さんみたいだしさ、仕方がないのかもしれないけど、ねぇ?

 そういう、マナーっていうんですか?

 もっとちゃんとした方がいいよ、うん。


「ということで僕には黙秘権があります。言う必要性を感じませんな」

「……」


 すっ、とメリアさんが右手を上げる。

 そのちっちゃな拳で何をしようというのか。僕にはさっぱり分からないが、取りあえず逆らわないことにした。

 

「ごめんなさい。まだ一階層も突破できてないです……」

「回答を確認。では、スライムを討伐したのは虚偽の報告であると?」

「あ、いえ。それはちゃんと倒しました。倒しましたけど、その……」

「次の扉へは向かわずに帰ってきた、ということですか」

「まぁ、戦略的撤退を言い換えればそうかもしれません」


 あくまで強気な姿勢は崩さずに。

 実際、四捨五入すれば一階層踏破したようなもんだからね。それを敢えて奥ゆかしい気遣いで包んで、踏破してないって言ってるんだからね。

 そこんところ、よろしく。


「情報を整理……完了。おめでとうございます、雨夜様」

「聞きたくないです」

「貴方は世界で初めて、初層級の迷宮……それも一階層にて、二度も挑戦したにも関わらず踏破できなかった唯一の冒険者でございます」

「どうしよう、本当にキレそう」


 これが死ぬ気でスライムを倒して帰ってきた英雄に対する仕打ちか?

 いかに女性を敬う僕だとしても、そろそろ手が出るかもしれない。

 ひれ伏す準備しておいたほうが身のためですよ、メリアさん……?

 

「……」

「あっ……」


 すっ、と右拳を上げられる。

 僕はその固く握られたおててを見て、切なげに声を漏らした。

 暴力には勝てない……。

 そんな自分が、酷く情けなかった。


「……てかそうだ、聞きましたよメリアさん! この報告、実は義務じゃないんですすってねぇ? どういうことですかっ」

「発言内容を確認……その虚偽の情報を与えたのは、一体誰でしょうか?」

「きょ、虚偽……? 朽葉さんがそんなことするわけないでしょう。ほら、今ならまだ許してあげます。ごめんなさいしましょ、ね?」

「くちは……データベースを閲覧。該当する人物……不明?」


 相変わらず僕の話は全スルーですか。

 というか、今まで関わってきた人達は大抵僕の話聞かないよね。常識人なのはほんと、東条さんとか朽葉さんぐらいだよ。

 そんな彼女を疑うなんて……メリアさんといえど、もうデコピンじゃ許しません!


「検索にエラー発生。原因を捜査、内部に問題はなし。『くちは』という存在に原因があると仮定。……雨夜様、その者について追加の情報を求めます」

「え、追加の情報? すっごい美人です」

「……家畜の餌にもならない情報は必要ありません。他に有益な情報を提示してください」

「あ、はい」


 無表情ながらも、どこか睨むように見つめられる。何か不快にさせることを言っただろうか。

 それに有益な情報と言っても、僕も朽葉さんのことをよく知ってるわけじゃないし……。


「というか、あそこに座ってますよ朽葉さん」

「あそこ、では説明が不足しています。もう少し厳密にお願いします」

「いやだから、ほら、あの受付の奥に座っている女性ですよ」

「……? 受付嬢に『くちば』という人物は……」


 もうピークは過ぎたのか、室内にいる冒険者の人数は潜る前より減っていた。

 あれだけ盛況していた受付も今では数人が並んでいるだけだ。


 故に彼女の姿を見つけることができた。

 よかった、まだ帰ってなかったんだ。前回は定時なのか会えなかったし、嬉しいな。

 迷宮後の朽葉さん……くぅー、キマルぜ!

 なんてクールでミステリアスな雰囲気なんだ。しかも何だかこっちを見ている気がするし。

 

 ……え、いやまじでこっち見てない?

 わ、わ、手を振ってもらえた! きゃー、朽葉さーん、素敵ー!


「ほら、見てくださいよメリアさん! 朽葉さんが手を振ってくれてますよ! わーい、帰ってきましたよー、朽葉しゃぶぁっ!?」

「雨夜様。あれを見てはいけません」

「く、くびが……」

 

 小さく手を振る朽葉さんに対してこちらも手を振り返そうとしたとき、すごい勢いで首を曲げられた。

 お願いだからその止め方はやめてほしい。

 それに……。


「み、見てはいけないって、どういうことですか?」

「……質問に対する回答の前に、一つお答えください」

「は、はい」

「雨夜様はあれと関わって、何日が経過しましたか?」

「……えーと」


 質問の意図がよく分からないな。朽葉さんと出会って、何日が経ったか?

 うーんと、前回のスライム戦が二週間前で、登録したのが更に一週間だから……。


「大体、三週間ぐらいですかね?」

「……となれば、まだ猶予は残されていますか。しかし早急に手を打たねば手遅れに……」

「いやあの、だから何の話です? 猶予とか手遅れとか、話が見えないんですけど」


 急にシリアスモードに入られても困る。

 流れ的に朽葉さんのことを言っているのは分かるけども。それがどうして、そんな物騒な言葉に繋がるんだ?


「……雨夜様、よろしいですか。よくお聞きください」

「あ、はい」

「貴方が現在……『くちは』と呼称している存在についてですが」


 そこで少し、間を開けて。

 普段早口な彼女には珍しいほどゆっくりとした口調で言った。


「悪いことは言いません。あれと金輪際、関わらないことを強く推奨します」

「え、普通に嫌ですけど」

「――」


 彼女の瞼が僅かに開かれる。

 あ、ちょっと口調が厳しかったかもな。でもメリアさんもメリアさんだよ。

 いきなり朽葉さんと関わるなーとか、失礼しちゃう。

 僕のオアシスを奪わないで欲しいもんだね。


「……繰り返します。雨夜様、これは貴方のために――」

「だーかーらー、嫌ですってば。もし本当に僕のためを思うなら、女性に気の利いたプレゼントとかを教えてほしいですねぇ」

「貴方は無知ゆえに愚行を為そうとしています。いいですか、雨夜様。これは警告でございます」


 警告ぅ?


「そりゃ、一体何の警告ですか」

「……もし、今後『あれ』と関わり続けるつもりであれば」


 メリアさんの空色の髪が揺れ、その瞳が僕を真剣に見つめる。

 それは彼女らしからぬ顔色で。

 まるで本当に、僕に対して心配しているような……。



「雨夜様。貴方はおよそ一週間以内に、死ぬことになるでしょう」



 ……なんですと?

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