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夏期休暇リターンズ②

「その人に似合ってるのなら、何でもいいんじゃないですかね? 所詮は見た目ですし、あたしは気にしてません」


 シーン。


 ・・・あれ、なんかミスった?


「ははっ! いやぁ~、いいね! 七瀬ちゃん!!」

「ですよね~。やっぱ舞ちゃんだわ~」

「悪いけど俺、ヤンキーじゃないから」

「うえっ!?」


 思わず変な声が出てしまった。いや、さすがにその見た目でヤンキーじゃないわ……通用しないのでは?


「こういうのが好きってだけ」

「なぁに言ってんだよ。元ヤンのくせに~」


 優希さんにそうツッコまれて否定できない様子の黒川さん。


「お前だってそうだろ」

「私は違~う。あんたと一緒にしないでくれるー?」

「あ? 男みたいなナリしやがって」

「はあ? 犯罪者ヅラの奴に見た目をとやかく言われたくないわ、ブス!!」


 ガヤガヤと前の席の2人が揉め始め、後ろは相変わらずイチャイチャしてるし、かなりカオスな状況ではある。ま、これはこれで平和だな……そう思えるほど、日頃荒波に揉まれているあたしってヤバくないか。


 ── 青い空、白い雲、碧い海、やって参りました! 海! 


 ここの辺じゃあ一番綺麗って噂の海だけど、噂は本当だったみたい。めちゃくちゃ綺麗~、テンション上がる~。


「はい、これ七瀬ちゃんの。で、こっちが小日向ちゃんの。着替えは上の部屋使って~! 階段上がって右の部屋ね! 左は野郎用だから~」

「はぁ~い。行こ? 舞ちゃん」

「うん」


 ビキニに着替えて、エプロンを付けてっと……で、美玖があたしの髪をセットしてくれている。それにしても……美玖のオッパイがけしからん。浅倉君、この刺激に耐えられるのかな。鼻血ブーでブッ倒れないか心配ではある。


「わぁ~、やっぱ舞ちゃん可愛いなぁ~。スタイルいいし、何でも似合っちゃうね~」

「ありがとう。美玖も可愛いよ」

「へへっ。ありがと~う。真広君喜んでくれるかな~」


 はぁぁ~、恋してる女の子ってめちゃくちゃ可愛いな。ていうか、喜ぶどころか昇天しちゃうんじゃないの? 浅倉君。


「あ、九条君に写真送る~? 撮ってあげようか?」

「そんなもの送りません」

「ええ~。じゃあ拓人君に送ろ~っと」


 スマホを向けられたから、とりあえずピースしといた。


「送信っと」

「ていうか、幼なじみの水着姿とか送られても反応に困るでしょ、拓人」

「ふふっ」


 そんなやり取りをしながら部屋を出ると、ちょうど浅倉君と黒川さんが出てきた。


「真広く~ん。どう? 似合う~?」


 クルンッと回転して、ウインクする美玖。


「ブフォッッ!!」


 見事に鼻血を噴射してブッ倒れた浅倉君。


「真広君っ!?」

「先に行こうか、七瀬ちゃん」

「え、あ、はい」


 黒川さんと一緒に下に降りて、浅倉一家に挨拶をして一通り説明を受けた。美玖は2回目らしいから説明は不要とのこと。色々と準備をしていると、ようやく戻ってきた美玖達。


「大丈夫? 浅倉君」

「ごっ、ごめんなさい! すっ、すみません!」

「いや、なんで敬語……」

「見慣れてくれないと困っちゃうよ~? 先に進めないからぁ~。ね、真広君」

「美玖、やめなさい。もうそれ以上はやめなさい、けしからん」


 あたしは浅倉君を守るべく、美玖をひっぺがして優希さんにパスした。


「ごっ、ごめん。僕、ごみ拾い行って来るね!」

「あ、ちょっ!?」


 見事に逃げた浅倉君であった──。


 まあ、刺激が強いのは分かるよ? あたしも何回ダメージを食らったことか、精神的にも物理的にも。チラッと美玖を見るとムスッとして、プンプンしながら準備の手伝いをしている。


 なんっだあの生き物、可愛すぎるでしょ。食べちゃっていいかな……とか、変態じみた思考になってしまう。


 ── そして、海水浴場に続々と人が入り始めた。


「はーーい!! オープンしまーーす!!」

「「「「「「おねしゃーーす!!」」」」」」


 よしっ、働くぞーー!! と気合いを入れた時だった。なぜか身震いするほどの悪寒がする。なんだか……嫌な予感が……ま、気のせいか。


「七瀬ちゃんと小日向ちゃんは呼び込み行ってくれる~?」

「はぁ~い」

「分かりました!」

「あ、結斗。あんたはこの子達の付かず離れずなところで待機!!」

「へいへい」


 浜辺に出ると、眩しいほどの日差しに目がシバシバする。


「浅倉キッチンオープンしましたぁ~♡」

「メニュー豊富でーす」

「バーベキューもできますよぉ~♡」

「SNS映えするメニューもありまーす」

「浅倉キッチンへどうぞぉ~♡」

「今なら空いてまーす」


 呼び掛けを始めてすぐ2人組の男が近寄ってきた。


「へぇ、君達可愛いね」

「バイト?」

「そこの浅倉キッチンでバイトしてるんですぅ~。どうですかぁ? お兄さん達」

「君達が連れてってくれるなら行っちゃおうかな!」

「お、いいね~。君達が連れてってくれるなら行ってやらんこともねぇけど~」

「承知いたしました、ではこちらへ。足元にお気をつけ……て……」


 ・・・あ。


「「「「……」」」」


 この場だけシンッと静まり返った。


 やべ。これ、完っっ全にやらかしてんな。ヤバいヤバいヤバい、冷や汗が止まらない。なんっっも気にしてなかったっていうか、無意識だったっていうか、めちゃくちゃ素だった。ポロッと出た素がこれってヤバすぎやしないか? 汚染されてる、サーバントという職業に汚染されているぞ、七瀬舞!!


 あーーもう、この男が九条みたいなノリの人だったからポロッと出ちゃったんだろうなぁー、マジで無理すぎる。ヤバいって、マジでヤバいってこれ。どう誤魔化そう。


「舞ちゃん……」

「いやっ、あのっ、美玖……これは違くてっ!!」

「「「いいね、それ」」」

「へ?」

「舞ちゃん! それ、いいよ!」

「うんうん。なんかメイドっぽくていい!」

「俺、ドキッとしちゃったわ~!」

「は、はあ……」


 こうして、このスタイルが爆発的にウケて浅倉キッチンは大繁盛。男子のみならず、女子からもこの接客がウケていた──。


「いらっしゃいませ~! ご主人様ぁ~!」


 美玖はもうノリノリ、完っ全にメイドになりきってエンジョイ中。端っこではなんとも言えないオーラを纏った浅倉君が黙々と作業をこなしている。きっと嫉妬してるんだろうなぁ。


 そして、あたしはそんなキャラでもないし、メイドキャラなんて全くもって合うはずもないから、いつも通り“マスター達”への対応をそのまま遂行していた。


 すると、再びブルブルッと身震いするほどの悪寒がする。なんだろう、この悪寒は……嫌な予感しかしないんだが?


「美玖ちゃん」

「ん? なに?」

「ちょっとこっち来て」

「え?」

「いいから」


 浅倉君が美玖を引っ張ってどっか行っちゃった。


 ・・・浅倉君、意外と“男”なのかもしれない。


「あっれー!? 小日向ちゃんと真広は!?」

「あ、えっと……ああ……優希さん、あたしに全振りしてください。捌きます、捌いてみせますとも」

「そう? 悪いね~! もうそろそろお偉いさん来るからお出迎えしてくれるー!?」

「了解でーす!!」


 砂浜に出てチラッと横を見ると、遠くから異質なオーラを放つ集団が。砂浜にスーツって場違いすぎない?


 ・・・ん? あれって……もしかしなくても──。


 待って、待って、待って、待って!!


 スーツ集団の中に見慣れた人達がいるんですけどー!? あれ、絶対に九条と蓮様と凛様じゃない!? なっ、なんでここにいんのよ!!


 ああ、なるほど。あの悪寒の全容は……これだったわけね。あたしは慌てて2階まで行き、なぜか置いてあった金髪のウィッグを被って、ついでにキャップも被った。そして、サングラスを着用。


 全身鏡をチェェック!!


「よしよし、これであたしだって分かんないでしょ」


 あたしはドタバタしながら外へ出た。そして、あたしが出せる最大限の高い声で九条達を出迎えることを決意する。


「いらっしゃいませ~」


 裏返るか裏返らないかギリギリのライン……というか、ほぼ裏返ったけどな。


「お前、何してんの?」


 明らかにあたしを見て『お前、何してんの?』と仰っている九条。いやいや、気づくはずはない……とりあえずニコッと微笑んでみた。


「だからお前、何してんの?」


 ・・・ははは。いや、まさかね……ナイナイ気づいてナイ。


「はて、誰のことでしょう? では、ご案内しますね」


 動きがガッチゴチになっているあたしは、九条達に背を向けてぎこちなく歩き始めた。



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