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オール②

「だぁぁーー!! 鬱陶しいわ!!」


 結局我慢できず九条のほうを向いてしまった……。ニヤッとして嬉しそうにしている九条見て、心底後悔したのは言うまでもないよね。


「短気は損気~。お前、煽られやすいから気をつけろよ~」

「あんたにだけよ! こんなふうになるのは!」

「へぇ? 俺が“トクベツ”って?」

「はあ? 何をどう解釈すればそうなるわけ?」

「普通に解釈すればそうなんじゃん。馬鹿なの? お前。あ、馬鹿か。紛れもなく純度100%の馬鹿だもんな」

「バカバカ言うほうが馬鹿だって知らないの? 馬鹿」

「ププッ、んなこと言う奴初めて見たわ~。天然記念物~」


 あたしは我慢の限界に達して、九条のご尊顔を鷲掴みした。


「ぐっちゃぐちゃにしてやる」

「ヤバいってお前。キャラ定まってなさすぎんだろ」

「もういいわ、どうでも」

「嫌だね~、これだから貧乏人短気は~」


 ガシッと手首を掴まれて、鷲掴みしていた手を剥がされた。


「七瀬」


 急に真剣な声であたしを呼んで、真顔であたしを見てる九条に色んな意味でドキッと胸が弾む。


「な、なによ……」

「お前は俺の隣でギャーギャー言ってればそれでいい」

「……はい?」

「俺のモンでいりゃいいってこと」

「は、はあ……」

「俺が何とかしてやる。何もかも、全部」

「あ、ありがとう……ございます……?」

「だから、俺から逃げんな。ずっと傍にいろ」

「……いや、逃げますけど」

「あ?」

「は?」


 ガシッとあたしの顔を鷲掴みする九条。顔からギチギチとしちゃいけない音が聞こえてくる。


「いっ!! いっ、痛いっ!! 痛い痛い!!」

「マジでないわー、お前」

「痛いって! 暴力反対!」

「お互い様だろ?」

「力のレベルが違うでしょうが!」

「それは関係ないっしょ」

「関係大ありだわ!!」


 ── こんなくだらない言い合いを永遠に続けたあたし達。


「あー、ねーっむ。誰かさんのせいで~」

「あんたでしょ!? 寝かせてくれなかったの!」

「あ? お前がビービー口答えしてくんのが悪いっしょ」

「は? あんたがネチネチうっさいのが悪いでしょ!?」

「ったく、どんな育て方したらこんな野蛮な女になんだよ」

「あんたもどんな育て方したらそんっなクズになるわけ?」


 結局、あたし達はオールで言い合いを続けている。


「柊弥様、七瀬様……もうその辺にっ」

「霧島~。この分からず屋どうにかしてくんねー?」

「霧島さん。このドクズどうかなりません?」

「はぁ、どうでしょうかね」


 そんなこんなで家まで送ってもらった。


「ありがとうございました」

「いえ」


 降りようとするあたしを腕を掴んで引き止めた九条。


「はぁぁ、もうなにっ」

「金のこと、俺がお前の父親に話を持ちかけた。最後まで渋ってたのを俺がゴリ押した。だから、あの人が俺に対して適当こいたわけじゃねーよ。これに関してはあんま責めてやんな。俺が無理矢理そうさせたようなもんだから。金のことはお前が気にすることじゃねぇし。俺の娯楽代と思えばっ」

「ごめん、ありがとう。お金はあたしがちゃんと返済する。それを返済するまで、あたしは九条から離れるつもりないから。迷惑でないなら……だけど」

「……そうかよ」

「じゃ」

「ん」


 車から降りて九条に背を向けた。でも……後ろへ振り向くと窓を開けてこっちを見ていた九条と目が合う。


「九条」

「ん?」

「あの、助けてくれて本当にありがとう」


 ホテル街でのこと……お父さんのこと……なんだかんだ今まででも、助けられてばっかりだなって思う。あたしはあなたを助けることができるのかな、助けられてばかりじゃいられないもんね。


 すると、鼻で笑って優しく微笑む九条。


「だから言ったろ? 黙って守られてろって」


 ── ・・・ハイ? そんなクッサいセリフ言われたっけ?


「そんなこと言われた覚えないんですけど」

「だな。言った覚えねぇわ」

「なによそれ。じゃーね」


 何となく手を振ってしまった。九条にちゃんと手を振るなんて初めてかもしれない。すると、手を振り返すことなくすぐ窓を閉めた九条にイラッとした。


 そして、走り去る車を見届ける。


「ふぅーー。オールきっつ……」


 今にも壊れそうな門扉に手をかけてると、家の中からドタバタと騒音が聞こえる。そして、壊れそうな勢いで玄関のドアが開いた。


「舞!!」


 この数時間で何が起きたの? ってくらいげっそりしたお父さんが涙と鼻水を垂らしながら、あたしに抱きつこうとしてきたから反射的にひょいっと躱して、お父さんはそのままズッ転けた。


「汚いからやめて」

「舞ぃぃ~、ごめんなぁぁ。こんな父親でごめんなぁぁ。お願いだから家出だけは勘弁してくれぇぇ。生きた心地がしねぇからぁぁ」

「……ごめんね、お父さん。あたし酷いこと言った……本当にごめんなさい。あたし、お父さんとお母さんの子に生まれてきて良かったって心の底から思ってるし、そう言える。ぶっちけ勘弁してくれよって思うし、なんでうちだけ? とか思うし、働けよって思うし、いい加減にしろよって思うし、ちゃらんぽらんにもほどがあるでしょって思うしっ」

「舞っ、やめてくれ……っ、言葉のナイフがっ、心臓を貫きそうだ……ぐはぁっ!!」


 ・・・いっそのこと貫かれてくれよ。


「とにかく、本当にごめんなさい。あたしも一緒に借金返すから……お父さんは夢、諦めないでね。あたしの為にも」

「舞……舞ちゃぁぁん」


 抱きついて来ようとするお父さんを再び躱して、あたしはそのまま家の中に入った。


「おかえり、舞」

「ただいま」

「昨日はごめんね? 叩いちゃって」

「ううん。あたしのほうこそごめんなさい」

「これからも苦労かけちゃうね。ごめん」

「いいよ、もう。今に始まったことじゃないし」


 そして、オールが効いたのかこの日はぐっすり眠ってしまい、九条からの連絡をガン無視するあたしであった──。

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