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家族④ 九条視点

 


 あー、なんでこいつは次から次へと……マジでダルい。


「ちっ。面倒事増やしやがって、めんっどくせぇ女だな。お前はよ」

「いったいなぁ……そんなこと言ったってしょうがないじゃん!」

「で、あの金受け取ったわけ?」


 どうせあの金で俺のサーバント辞めろって言われたんだろ? お前はそれを受け取ったのか? まあ、そりゃそうか……受け取るに決まってるわな。金さえあれば俺のサーバントで在る必要もなければ、特段メリットもないだろ。お前にとって俺との関係は、金で簡単に切れる関係だもんな。金がありゃ俺と一緒にいる必要ねぇだろ、お前は。


「はあ!? 受け取るわけがないでしょ!?」

「そうかよ……って、は?」

「は? だから、受け取ってないっつーの!!」

「……なんでだよ」

「いや、なんでって……受け取る理由がないじゃん。馬鹿なの?」


 ムスッとしながら立ち上がって、偉そうに腕を組んで俺を睨み付けてくる七瀬。


「理由なんていくらでもあんだろ。あいつに俺のサーバント辞めろって言われたんだろ?」 

「うん、言われた。こっぴどく」

「お前、辞めるって言わなかったわけ?」

「はあ? 言うわけがないでしょ。口が裂けても言ってやんないわ」


 ── 何もかもが覆されていく。


「……お前、あいつに何て言ったわけ?」

「べっつにー? あたしはただ九条のサーバントだから、それ以外の命令に従うつもりはないってニュアンスで物申しただけ~」

「くくっ、マジかお前」


 ── 全てが覆させられる。


「あったりまえでしょ!? あんたの言うことを聞くだけでもストレスだっていうのに、なんっで他の命令も聞かなきゃいけないわけ!? そんなの絶対に嫌! おかしいでしょ、九条家に仕えてるわけじゃないっつーの!!」

「一言余計だけど、ま……上出来だな」


 頭を撫でてやろうとしたら、ベチッと手を払われた。


「今のあたし“取扱注意”だから」


 俺の世界が、お前の色で染まっていく。


「なぁにが『取扱注意だから』だよ。かまってちゃんか? 柄でもねぇだろ」

「うっさいわ!!」


 ・・・思ったより平気そう……だな。どう気を遣おうかとか柄にもなく迷ってたけど無駄だったか。あん時の震えて泣きそうだった七瀬はどこへやら。にしても……なんであんな時間、あんな場所に七瀬がいたんだ?


 ── あの時、微かに聞こえてきた七瀬の声。


『嫌っ、離して!!』


「霧島」

「はい」

「七瀬の声聞こえね?」

「……いいえ、聞こえませんが」

「そっか」


『誰かっ……』


 いや、やっぱ気のせい……なわけがねぇ。俺が聞き間違うはずもねえだろ。こちとら常にあいつの声を聞いてんだよ。サングラスをずらして目を凝らした、絶対にあいつがいる。


 ── “九条” あいつが俺を呼んだ気がした。


「── けた」

「はい?」

「見つけた」

「ちょ……!?」


 男に囲まれて必死に抵抗してる七瀬。そんな七瀬が今にもホテルへ連れ込まれそうになっているのを見て、全身の血液が沸騰して煮えたぎるように熱く、一気に血が上った。


 ・・・殺す、俺のモンに手ぇ出した奴は絶対に殺す。


 背後から七瀬と男を引き離すと、俺だとはまだ認識していないはずの七瀬が、俺だって分かってるかのように俺の腕をギュッと握ってきた。


 そして、俺を見上げる七瀬は安堵の表情を浮かべ、大きな瞳から涙が溢れそうになっていた。ぎゅっと下唇を噛み締めて、その涙が溢れないように耐えている七瀬が無性に愛おしく思える。


 いや、愛おしいって何だ? よく分からん。


 とりあえず頑張ったってことで、頭でも撫でといてやるか……とか、何かしら理由や言い訳を作って七瀬に触れる。このまま俺の腕の中にいればいいのに……そう思った。


 でもまぁ、まずはこいつ等を始末しねえとな。


 霧島に七瀬を預けて、霧島の車が去ったのを確認してから野郎共を裏路地に引きずり込んだ。ま、とりあえず軽くいたぶるか。


「で、テメェらさ。誰のモンに手ぇ出したか分かってんのー?」

「いっ、いやっ、ちょっとした出来心で」

「そ、そうだよ」

「本気でホテルに連れ込もうなんて思ってないって」

「あ? 御託並べてんじゃねえよ、カスが」

「……っ! つか! オメェ誰だよ! ツラ見せろ!!」

「馬鹿っ! おまっ、やめろって!!」

「あ? ああ……見せてやってもいいけど? 死ぬ覚悟があるんならな」

「いや、もう勘弁してくれ……」

「あらそ。んじゃ、もうちょい遊んでやるよ」


 俺のモンにちょっかい出して、俺のモンを勝手に泣かせやがった。二度とそんな気ぃ起こらねえように、みっちりシゴいてやるよ。


「その辺で」

「……おい、なんでお前がここにいる」

「すみません。長谷川さんが保護したと連絡が」


 長谷川っつーことは……七瀬はクソジジイと一緒か? 嫌な予感がすんなぁ。


「おい、霧島。そいつ等この辺で二度とデケぇ面できないようにしとけ」

「承知いたしました」


 ── で、俺の嫌な予感が的中して今に至るってわけ。


「つーか、なんであんな場所にいたんだよお前」


 俺はムシャクシャして適当な女を抱いてた……とはいちいち言わねえけど。そのムシャクシャしてた原因がお前だってこともな。


「……迷子」

「はあ? 迷子?」

「うん」

「いや、意味分からん」

「ごめん」

「なんだよ……お前」


 急に切ない表情を浮かべて、何か思い詰めているような雰囲気の七瀬。はぁぁ、なんでこの俺が女のご機嫌取りなんざしなきゃなんねえんだよ……。


「ごめん……」

「まあ、とりあえず来いよ」


 トボトボ歩く七瀬に合わせて歩く俺。らしくない七瀬に、らしくない俺。普通ならこんな露骨に負のオーラ出されたら居心地悪ぃはずなんだけど、こいつはそうでもないっつーか、こいつが落ち込んでる理由のほうが気になって仕方ないっつーか。


 部屋に着いて真っ先に冷蔵庫から取り出したのは、七瀬弟から聞いた七瀬の好物……いちご。


「食え」

「え?」

「いちご……好きなんだろ?」

「あ、うん……好き」


 なぜか俺の目を真っ直ぐ見つめながらそう言った七瀬に、不覚にもドキッとさせられた……マジで気に入らん。


「全部食え。俺は要らん」

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