家族①
あたしの夏期休暇(急遽休みになった1日)が呆気なく終わりを迎えようとしている。
「夕飯食べてくー?」
「いい?」
「いいよいいよ~、迷惑かけちゃったしね。友達と遊んでたのにわざわざ来てくれたんでしょ? 本当にごめん!」
「いや、別にいいってそれは」
律達も出先から戻ってきて、お母さんとあたしと拓人で夕飯の準備をしている。
「ほ~んと拓人君はいい旦那さんになるわね~」
「ははっ。そうっすかね」
「なーんで彼女ができないかね?」
「それ、舞に言われたくないわー」
これが七瀬家ではよくある光景。本当に七瀬家の長男なんじゃないかって錯覚しちゃう時も多々あるよね。
それからみんなで食卓を囲み、拓人は男共を連れて狭いお風呂に入って何から何までやってくれる。やっぱ拓人……七瀬家の長男でしょ。
「舞」
「ん?」
「律達が寝た後にちょっと話がある」
「なに改まって」
「ま、そゆこと~」
「どういうことよ」
・・・お父さんの話ってろくなことがなさそうで嫌だなぁ。 そして、律達が寝た後──。
「んじゃ、俺帰ります」
「拓人。お前も残って話を聞いてけ。お前はもう家族も同然だ。つーか、七瀬家の長男だからな。お前に隠し事はしたくない」
「え、あ、うす」
「で、なんなの? 拓人まで巻き込んでくださらない話とかやめてよ、お父さん」
テーブルを囲うようにお父さん、お母さん、拓人、あたしが座っている。
「単刀直入に言う。2000万の借金ができた」
── は?
「でもね? お父さんは悪くないの」
いや、何が? 何が悪くないの?
「いやぁ、見事に騙されちゃってな~? 運が悪かった! うまい話にはやっぱ裏があるってやつだ! でな、『一括で払え!!』ってヤバい奴にタカられてた時に、たまたま柊弥君に会ってな。柊弥君が話つけてくれたんだよ! で、柊弥君が立て替えてくれるって言ったんだけどよ、舞の裏で俺とコソコソすんのは嫌だからって、ちゃんと舞の了承を得てからにしてくれってよ。本当にいい男だよな~」
「柊弥君に立て替えて貰うって話になれば、立て替えて貰う分はもちろん返済していくわ。お母さんもうちょっとパート増やすから」
「……いや、ちょっと待ってください。それはさすがにどうなんすかね。舞の友達? に金借りるのは……」
「いや、むしろ『僕を頼ってください』って言ってくれてんだよ、柊弥君が。そりゃ俺だって気が引けたぜ? でもよ、2000万なんてどう足掻いたって何ともなんねぇんだよ」
「ま、まぁ……そうっすけど」
「ごめんね? 舞……。でも、お父さんも騙されちゃっただけなの。悪気があったわけじゃないから」
「俺も何か力になれることがあれば、なんだって協力するんで言ってください。できる限りフォローしますんで」
「拓人、お前って奴は。さすが七瀬家の長男だな!!」
バンッ!!!!
気づいたら机を叩いて立ち上がっていた。
「ねえ、いい加減にしてよ……こんな話、普通拓人にする? 九条に助けを求めるなんて、本当にありえない。こんな時までヘラヘラしないでよ……いい加減にして!! お母さんがどれだけ苦労してるか分かってるの!? あたし達がどれだけ罵られてきたか知ってる!?」
── ダメ、これ以上はダメ……止まってよ、あたし。
「いい歳こいて叶いもしない夢を追いかけてさ、家族に迷惑かけて何がしたいわけ!? もうそんな夢諦めて普通に働いてよ!! なんで、どうしてそんなチャランポランでいれるわけ!? おかしいんじゃない!? ……こんな家に、お父さんの娘なんかに生まれて来なければよかった! もっとちゃんとしたっ!?」
バシンッ!!
乾いた音と共に、頬に衝撃が走ってジンジンと痛む。
「おいっ、百々子!?」
「百々子さん!!」
「舞、お父さんに謝りなさい」
「……っ、なんで? あたしは間違ってない」
「いいから謝りなさい!!」
「もういい!!」
あたしは家を飛び出して、がむしゃらに走った。間違ったことを言ったつもりはない。でも、言ってはいけないことを言ってしまったのは分かってる。それでももう、我慢ができなかった。
「……っ、なんでこうなっちゃうの……っ」
涙を流しながら宛もなくただただ走った。
「ハァッハァッ……」
── 気がつくと夜の繁華街……と言うより、ホテル街に迷い込んでいた。なんかもう雰囲気が独特でちょっと気後れする。
「どこ……ここ」
財布はないけどスマホはあるから何とかなる。スマホを取り出そうとした時だった。
「どうしたの? 君」
「あらら、泣いてた?」
「高校生? こんな時間にこんな所うろついてるなんて、イケナイ子だね~」
・・・しまった、今の格好ヤバいかも。短パンにタンクトップとか部屋着すぎるし露出度高めだし……。
「すみません、迷っただけなので」
どうしよう、問題事は避けたい。
「慰めてあげよっか」
「おいで? 悪いようにはしないから」
「イイことたくさんシてあげる」
男3人に囲まれて、1人の男があたしの腕を掴んだ。反射的にその手を振りほどいて間接技をかけてしまった。体術強化訓練してるせいだな、これ。