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最高のおもちゃ① 九条視点

 


 俺は九条財閥の御曹司で自他共に認める超絶イケメンの九条柊弥。あ、ナルシスト云々じゃなく、紛れもない“事実”を述べてるまでだから悪しからず~。


 んで、御曹司っつーことは超金持ちってわけ。何不自由なく生きてきたとか言わずもがなでしょ。欲しいと思ったもんは必ず手に入れるし、当たり前のように必ず手に入った。俺が欲しいっと思って、手に入らなかったもんは未だかつてない。物だろうが、女だろうが、何だって俺のもんになった。


 全てに恵まれ、何でも与えられる、何でも手に入る環境下で過ごしていた俺は、徐々に何を得てもつまらなくなっていた。


 ── クソほど“退屈”、この一言に尽きる。


 女は俺のルックスや地位に目が眩んで、似たり寄ったりな奴ばっかしか寄って来ねえし、ちょっとした暇潰しにすらなんない奴なんて数知れず、マジでしょーもない。女なんてどれもこれも変わらんっしょ。リアルにどれもこれも一緒に見えて仕方ねぇしな。


 ベタベタした甘え声、クセェ香水、厚化粧、露出狂。 そんな女ばっかで吐き気がするわ、気持ちわりぃー。 マジで呆れるよねえ、ろくな奴いねーわ。だから俺のそん時の気分次第で適当に遊んでやってるってだけ、女なんてただそんだけの存在にすぎない。ま、この俺に相手してもらえるだけありがたいと思ってほしいよね~ってこと。


 ── そんな俺は今日も今日とて、退屈な時間を適当に過ごしてた。


 ソファーに転がってスマホをいじってると、ガチャッと部屋のドアが開いた。ノックもしないで俺の部屋に入ってくんのは、この屋敷でジジイくらいしかいない。


「あのさぁ、何べん言えば理解できるわけ~? ノックくらいしてくんな~い? ヤってる最中だったらどーすんの? 老いぼれも大概にしとけよ~」


 顔を合わせることなくスマホを見ながらそう言うと、ジジイは舌打ちをして俺に書類を投げてきた。


「クソガキが生意気な口を利くな」

「ハッ。で? なにこれ」


 書類を手に取って、適当にピラピラさせる。


「朗報だ」

「んあ? 朗報?」

「欲しいか、欲しくないかは柊弥……お前自体だ。じゃあな」


 意味不明な言葉を残して去っていったジジイ。『欲しいか、欲しくないか』……? んだよそれ。


 ジジイの言ったこの言葉が妙に引っ掛かる。ようやくソファーから起き上がって書類をジーッと眺めた。ま、見てみるかぁ、一応ね? で、ページを捲るとそこにあったのは身元調査報告書だった。


「あ? 何だこれ」


 視線を少しズラすと視界に入ったのは顔写真。わりと綺麗な顔立ちで、化粧っ気のない素朴な女。


「七瀬舞、か」


 ── “欲しい”。何を思うわけでも、何を考えたわけでもなく、ただ無性に『こいつが欲しい』という強い衝動に駆られた。どうしても欲しい、こいつは俺のモンだ。


 この感情を何かに例えるなら、そうだなぁ。『最高のおもちゃ』を手に入れたい……かな?


 書類を隅々まで確認して大体のことは分かった。こいつは言うまでもなく“クソ貧乏”。俺には到底理解のできないレベルで貧乏っつーことは確かだな。


「くくっ。なんっだこれ、尚更面白くなりそうじゃん」


 こいつの存在が俺のクソつまんなかった日常を面白おかしくしそうな予感がする。あんのジジイ、たまには面白いもん持ってくんじゃん? 最高だわ。自然と顔が緩んで、久々楽しみができたことに、柄にもなくワクワクした。


 ── 翌朝


「行くのか?」

「あ? ああ、まあ暇潰しにはなんだろ?」

「……その小娘、なかなか悪くないぞ」


 ニヤッとしながら、どこかへ去っていったジジイを横目に家を出た。『なかなか悪くないぞ』……か。あのジジイが女を薦めてくるなんざ、何を企んでることら。何がなんだかさっぱり分からんけど、少し高ぶる感情を抑えつつ“七瀬舞”の自宅へ向かった。


 ・・・まあ、お世辞でも綺麗とは言えない外観の家で、俺からしたらこんな家に人間が住めんの? って疑いたくなるレベルの住宅。犬小屋でももっとマシじゃね? 知らんけど。


「柊弥様、いかがなさいますか?」

「んーー、もう時間的に学校に向かってんでしょ。そいつの通学路行ってくんね?」

「承知いたしました」


 俺の指示で七瀬舞の通学路を走らせた。車に揺られながらボケーッと外を眺めていると、俺の視界に入ってきたひとりの女。後ろ姿なのに“あいつ”だ……とすぐに分かる。ゆっくり車を走らせ、横を通過する時にチラッと顔を確認すると……スモークガラス越しに見えた女は、写真なんかで見るよりも随分と整った顔立ちをしていた。


 へえ、やっぱ悪くねぇかもな。


「止めろ」


 キュッと控えめなブレーキ音がすると同時に車が止まった。窓を開けてもこっちに見向きもしないで去って行こうとする七瀬舞。


「おい」


 そう声をかけると、ビクッと少しだけ肩を揺らして俺のほうへ振り向いた。


 ── 目と目が合った瞬間、息が詰まって呼吸を忘れた。ドクンッと胸が高鳴る、これは一体なんなんだ?


 写真なんかで見るよりも、車の窓ガラス越しなんかで見るよりも、何倍も綺麗な顔立ちをしている女。そして、実際に会ってみて疑惑が確信へ変わった。こいつ、無駄に気ぃ強そうなタイプだな。で、案の定強気なタイプだったわけで、逃げられる始末。


「柊弥様、いかがなさいますか? 七瀬様の御校でしたら5分程で行けるかと」

「いや、下校ん時でいいや」

「左様でございますか」

「ん。学園に向かってちょ~」

「承知いたしました」


 ── なんだあれ。クソやべぇな、楽しみで仕方ねえわ。


『最高のおもちゃ』『最高の暇潰し』が手に入る──。



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