夏期休暇⑤ 佐伯視点
俺が電気を消して少しすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
「即寝かよ……」
俺がいても安心して寝てくれるのは素直に嬉しいし、そんだけ信用されてるってことだから喜ばしいことだけど──。でも、その反面……男として全く意識されてないんだなと実感する……つーか、痛感する。
まあ、それもそうか。
男として意識されるような振る舞いもしてなければ、今の関係が崩れるのが怖くて何もアクションを起こせていない。俺は長年逃げ続けてきた、臆病で情けない男。
そんな俺が長年片想いを拗らせている相手はもちろん舞なんだけど、舞は自分のことを“ただの平凡女”としか思っていない。傍から見たら何が平凡なのかが分からレベルで可愛いし、本当に綺麗な容姿をしてる。
飾り気がなくて、素朴で、本当に優しい。ちょっと荒っぽい部分もあるから、優しさが分かりづらい時もあるけど、他人のためにも頑張れちゃうような“ヒーロー気質”な一面もある。女子らしさが欠落してる部分があるのはぶっちゃけ否めないけど、俺はそういうところも含めて舞が好き。
学校内ではきっぱり意見が分かれていた。
1、家庭の事情(貧乏)で舞を除外するタイプ
2、容姿が良ければ何でもOKタイプ
3、舞を高嶺の花だと崇めるタイプ
厄介なのはもちろん言うまでもなく“2”タイプ。俺はことごとく“2”タイプを蹴散らしてきた。ふとした瞬間に、“何やってんだろ、俺”と思った時は何十回も何百回もあった。俺は所詮、舞に気持ちを伝えることができないチキン野郎ってこと。
でも、なんつーか俺ってちょっと特殊って言うか……んー、説明がムズいんだけど、舞との関係性が濃すぎて狂ったのか、何となく“家族愛”的なのも否定できない感じではあるっちゃある。たまに分かんなくなる時があんだよなぁ、これが何なのかが。ま、圧倒的に恋愛感情が勝ってはいる……はずなんだけど。
まあ、だからって言うか、舞のことは好きだけど今の関係を崩してまでどうのこうのとは正直思っていない。崩して壊してまで“俺の女に”みたいな貪欲さはねぇかな。
舞の中に俺という存在が常にあって、トップであればそれでいい。もうこの際、ラブやライクなんてどうでもいい。舞が俺の傍に今後もいてくれれば、それ以上のことは望まない。今のままでいい、これからも……って。
・・・そう思っていたはずなんだけどな。
── “九条柊弥”という存在が、俺の中のナニかを駆り立て始めた。俺の感情を掻き乱して、今まで通りの思考じゃいられなくなる。冷静に、冷静に……何度もそう言い聞かせた。10年以上築き上げてきた舞との関係をポッと出の奴に崩されてたまるかってんだよ。
でも、舞が本気であいつのことを好きって言うのなら、俺はもうソレを受け入れて、応援するしかなくなるんだろうな……。
結構しんどそうだなマジで。
ま、そう易々とあいつに舞を渡すつもりもないけどねー。
だってあいつ、絶対に女誑しじゃん。あんな奴と付き合っても、舞は必ず辛い思いをするだけ。だったら、付き合う前に……好きになってしまう前に……潰せるもんは潰しておかないと。つっても相手はあの九条柊弥、一筋縄ではいかないよな。
「はぁぁ。どうしたもんか……」
──ていうか、俺はマジでなにをしてんだろうな……今まで。