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罠④ 叶視点

 


 こんな浅はかな罠、柊弥に通用するのかな。柊弥に媚薬を盛るなんて絶対に上手くいかない……いくはずがないって、そう思ってた。


 ガチャ。


 なぜかボーッとしながら戻って来た柊弥を見て、これはチャンスだと思った。もしかしたら……いけるかもしれないって。


「早かったね、柊弥。どうしたの?」

「あ? あーうん」

「何かあった?」

「いや、別に~。シャワー浴びてくるわ」

「そっか。いってらっしゃ~い」


 媚薬入りの水を飲ませるタイミングは、シャワーを浴び終えた後……きっとあの状態の柊弥なら警戒することなく飲んでくれるはず。


 柊弥のことだから、私が急遽帰国したことも何もかも、態度と口に出さないだけで勘繰ってるはずだもん。全てにおいて格が違うの。そもそも人間離れしてるもんな、柊弥って。だから、敵に回すのが恐ろしい。でも、直接的に舞ちゃんを傷つけたりとかしなければ……とか思ってる私って本当に最低だ。


 しばらくすると、未だにボーッとしてる柊弥が戻って来た。


「おかえり~」

「ん」

「さっぱりしたぁ?」

「ん」

「はい。水分補給大切だよ~?」

「どうも~」


 そして、何の疑いもせず媚薬入りの水を全て飲み干した柊弥。宗次郎君曰く、効き目は抜群らしいけど……果たして柊弥にも通用するかどうか。


「みんな頑張ってた~?」

「さぁ? 知らん。興味ね~し」

「舞ちゃんばっか見てたんでしょ~?」


 私がそう言うとピタリと動きが止まる柊弥。どうやら図星だったみたい。柊弥ってこんなにも分かりやすい人だったっけ。


「あいつザコすぎて話になんないから、ちょっと相手してやっただけ~。ちょっくら部屋で休むわ」

「はいは~い」


 遅くても10分以内には効くって言ってたし、10分後に覗きに行こうかな。


 ── 10分後。


 コンコンッ。


「柊弥~? ちょっといい~?」


 返事がない……大丈夫かな? 死んじゃったりとかしてないよね……?


「柊弥? 入るよ?」


 ガチャッと部屋を開けると、ベッドの上で踞ってる柊弥がいた。


「柊弥!?」

「はぁっ、はぁっ……来んな」


 舞ちゃんにそれっぽい雰囲気を見せればいい、そういう作戦ではあるけど、苦しそうな柊弥を見る限りもう理性なんて無くなってしまうだろうと思った。


 だから私は覚悟した、柊弥に抱かれることを。


「ごめん、柊弥……許して」


 自ら制服を乱して柊弥に近づくと、痛いくらいに強く握れた手首。そして、ベッドの上に引きずり込まれた。


「……っ、咲良っ……はぁっ、はぁっ、何しやがった」


 私の上に跨がって、なんとか理性を保っている状態の柊弥。


「お願い……抱いて」

「はぁっ、はぁっ、っ……!!」


 もう完全に理性が飛んだのか、私のカッターシャツに手をかけて引き裂いた柊弥。


 ── その時だった。


 コンコンッ……とノック音が聞こえて、舞ちゃんの声も聞こえた。すると、柊弥の動きがピタリ止まった。


「失礼します。九条様、どうか暗殺だけは勘弁……して……」


 もう理性なんて無くなったはずなのに、舞ちゃんという存在が柊弥をギリギリのところで繋ぎ止めた。


「はぁっ、はぁっ……っ。おい……はぁっ、七瀬」


 舞ちゃんを見て、名前を読んだ柊弥の声がとても辛そうで、何より舞ちゃんにあんな顔をさせてしまったこと、私は抱えきれないほどの罪悪感に襲われている。


 舞ちゃんが部屋から出ていってすぐ柊弥がおもむろにベッド横に置いてあった瓶を手に取った。フラフラしながら立ち上がって瓶を振りかざし、テーブルに叩き付けた。


 ガシャンッ!!


「と、柊弥っ……!?」


 柊弥は躊躇することなく、瓶の破片を左手でギュッと強く握り締めた。


「はぁっ、はぁっ……はぁぁーー。で、何が目的だ」

「ご、ごめんなっ」

「謝罪なんざ聞きたくねえ。言い訳もすんな、簡潔にまとめろ」

「と、柊弥っ……て、手がっ!!」

「何べんも言わせんな。簡潔に理由を述べろっつってんの」

「今、家が……ママが……不安定になって……」

「ああー、そういうことね」


 柊弥が察しがいい、怖いほどに。『ああー、そういうことね』は、これ以上言わなくていいと言われているようなもの。


「今回は許してやる、二度はない」


 そう言うと、血をポタポタと垂らしながら出ていった柊弥。


「ごめんなさいっ……ありがとう……っ」


 柊弥は優しい。心のどこかで、もしかして……と安心していた部分がある。一度仲間だと認めた相手を簡単に切り捨てるような、そんな薄情な人じゃないってことを分かっていたから。そんな優しい柊弥に、私は取り返しのつかないことをしてしまった。舞ちゃんにも。


 私は乱れた制服のまま、割れた瓶を拾って血を拭いた。どう償えばいいのか分からない。


 その後、蓮君と宗次郎君が来て、上杉君と凛ちゃんが来て、今回の経緯を話すことになった。もちろん宗次郎君が絡んでいたことは言えないし言わない。お互いそういう約束だったから──。


「どうしますか?」


 上杉君はサーバントリーダーとして、学園で起きた問題を解決する立場でもある。


「んー、柊弥次第じゃないかな?」

「咲良ママちょっとその辺ヤバそうだなって思ってたけど、結構キテたのね~」

「ごめん、みんな……」

「まあ、でも……結果オーライ……なんてこともあるかもよ? 僕の予想では、きっと柊弥は上機嫌で戻って来るから」

「はぁ? なに言ってるの? 蓮。とんでもなくカオスな状況になるに決まってるじゃない」

「叶様の真ん前でそれを言う貴女もなかなかですけどね」

「は? 何か言ったかしら? 宗次郎」

「いえ」


 ── そして、蓮君の予想は的中していた。


「こいつ、今日から馬車馬のように働くってよ~。俺の為に~」

「はあ!? そんなこと言ってないですけど!? 前田先輩!! 特別手当てちゃんと付きます!?」

「ええ、付きますよ」

「じゃなかったら絶っっ対に無理です!!」

「相変わらず守銭奴なこって~。貧乏人って大変だな~」

「うっさいわ!!」

「貴女という人は、九条様に向かってなんと無礼な! ペナルティを検討しますので覚悟をしておきなさい」

「なっ!? 理不尽にもほどがありませんか! 上杉先輩!」

「ははっ。お前どんだけペナルティ好きなんだよ~。ウケる~」

「ちょっ、重たいんですけど。腕、退けてくれませんか。ていうか、怪我してるほうの手を動かすのやめてくれません!? 1ミリも動かさないでください!」


 嬉しそうに、楽しそうに、肩を組んで舞ちゃんに絡む柊弥。舞ちゃんはめちゃくちゃ嫌がってるけど。正直この雰囲気がありがたい。


 でも、なんで……どうして誰も私を責めないの?


「みんな……ごめんなさい。特に柊弥と舞ちゃん……謝って許されることではないけど、本当にごめんなさい」


 私はただ、頭を下げることしかできない。


「ま、俺はこいつを奴隷として弄ぶという娯楽を手に入れたからね~。別に気にしてねえけど」

「誰もあんたの奴隷になるとは言ってない! ……あの、咲良ちゃん。あたしは何かを言える立場ではないですし、何かをされたわけでもないので、あたしに謝罪をするのは辞めてください。でも……はっきり言っちゃうと、やり方間違えてるよ。あんなことしなくたって九条様は咲良ちゃんのこと、絶対に助けてくれる。だから、自分を犠牲にするようなことしないで、自分を大切にしてほしい……ただそれだけです」


 舞ちゃんは私の手をそっと掬って、優しく包み込んでくれた。


 ── 初めて会った時から分かっていた。あの柊弥が選んだ子だもん。普通の子じゃないことくらい分かってた。舞ちゃんには敵わない。きっとあの柊弥でさえ、舞ちゃんには敵わないかもしれない……とすら思う。


「ありがとう、舞ちゃん」


 みんなが帰った後、宗次郎君に呼び出された。


「どうすんの」

「ごめん……今後、宗次郎君に協力したりはもうできない」

「ま、だろうね。叶さんは怪我とかしてない?」

「え? あ、うん。大丈夫」

「そっか。じゃ、お疲れ」

「あ、あのっ!! 宗次郎君はどうするの?」

「次、タイミングみて仕掛けたやつが不発に終わったら、まあ~やめるわ。時間と労力の無駄でしかないし」

「そっか」


 ・・・宗次郎君は一体、どんな罠を仕掛けるつもりなんだろう。でも、宗次郎君のことだから舞ちゃんを危険に晒したりはしないと思う。その辺は心配しなくていい。


 ていうか、あの2人の関係を崩すのは無理なんじゃないかな。どんな罠を仕掛けたって、あの2人は乗り越えちゃうでしょ? きっと。



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