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罠③

 あんなの見せられて、何を信じろって言うの? ていうか、何であたしにわざわざそんなこと言ってくるの?


 言い訳? いや、あたしに言い訳する意味も分かんないし、あたしもあたしで何をムキになっているのかが分かんない。


「あ、あんなの見ちゃったら……そんなの信じらんないでしょ。あんたとこうしてることが咲良ちゃんを傷つけて、裏切る行為になってるのなら、あたしはっ」

「だぁぁから、嵌められたんだよ」

「へ? ……はめられた?」

「そう、咲良にな」


 ・・・えーーっと、どういうこと?


「……ていうか、今はそんなことどうでもいい! あんた手! 早く! 病院! 今すぐっ! 手当て!」

「あぁ、はいはい。分かった分かった~、落ち着けよ」


 学園内にある病院へ九条を連れていく道中、前田先輩に遭遇して前田先輩もついて来てくれることになった。


「出血量が多いですね、ワレモノでも握ったのですか?」

「あーーうん」


『あーーうん』じゃないわぁぁ!! 割れ物を握る馬鹿がどこにいんのよ!! 普通は握らないのよ、握っちゃいけない物なのよ!! そっと触れる物なのよ、ワレモノは!


「七瀬さん」


 前田先輩がベストを貸してくれた。


「インナーではさすがに」

「あ、ありがとうございます」

「ま、そんな可もなく不可もない乳を強調されても反応に困るしな~」

「おいコラてめぇ、どこ見てんだコロスぞ」


 あたしが噛み付く勢いで九条の胸ぐらを掴むと、冷静にあたしを引き離す前田先輩。


「別にお前の平凡な胸が悪いとは言ってなくね~? そうカッカすんなよ~。まっ、俺は巨乳派だけど~」

「てめっ、歯ぁぁ食いしばりやがれーー!!」


 九条に殴りかかろうとするあたしを冷静に止める前田先輩。


「はっ、獣扱いされてやんの~。ウケる~」

「だぁぁーー!! うっざぁぁい!! 前田先輩こいつどうにかしてください!」

「私には貴方達がイチャついているようにしか見えませんけどね」

「「……」」


 スンッと黙りこくる九条とあたしであった──。


「くっ、くっ、九条様ぁぁーー!?」

「ぎゃぁぁーーーー!!!!」


 九条財閥の御曹司 九条柊弥が血を流しているという現実に、院内は引くほど大パニック状態へ。ま、あたしも人のこと言えないくらいテンパってたけども。


「七瀬さん、こちらへ」


 前田先輩に案内された待合室。


「で、何があったんです?」

「いや、あたしにも何が何だか……」

「まぁ、だいたい見当はつきますけど」

「え、それはっ」

「九条様もしくは叶様からご説明があるかと」

「そうですか……」


 九条は咲良ちゃんに『嵌められた』って言ってた。


 ・・・“嵌められた”=“罠”=“ハニートラップ”!? いやいや、咲良ちゃんが九条にハニートラップ仕掛ける意味が分かんないもんな。


「それにしても……ふふっ」

「え、なんですか?」

「貴女の為なら迷うことなく何だってしてしまいそうですね、あのお方は」

「は、はあ……?」

「七瀬さん」

「はい」

「九条様が危なっかしい時、それを止められるのは七瀬さんしかいないということを……肝に銘じてくださいね」


 いや、あんな暴君をあたしが止めるなんて無理ですけど。変な期待を寄せないで、お願いだから。


「ま、まあ……あいつのサーバントとして、やれることはやりますけど……」

「七瀬さん」

「はい」

「ここは学園内です」

「そうですね」

「マスターを“あいつ”“こいつ”呼ばわりはお控えください。プライベートはどうぞご自由に」


 ・・・たしかに。というか、あたしがしっかりしないと前田先輩が上杉先輩にネチネチ言われちゃうもんね。


「すみません、気をつけます」

「気を遣わせてごめんなさいね。私は気にしてないんですけど、あの人が毎日毎日うるさくて」


 あの人とはおそらく上杉先輩のことなんだろうけど……なんだろう、この違和感は。困ったように笑っている前田先輩の顔が……。


 今、あたしの脳内で前田先輩と上杉先輩が交互に浮かび上がって、ガチッとパズルのピースがはまった。


「……え、え? ……うぇえっ!?」

「はい?」

「え、あっ、な、え!?」

「とうとう壊れましたか」

「いや、失礼だな」

「すみません」

「あ、こちらこそすみません」


 いや、ナイナイ。前田先輩と上杉先輩が付き合ってるなんてね……ナイでしょ。


「あ、あの……前田先輩と上杉先輩って……どういうご関係で?」

「俗に言う“カレカノ”ってやつです」

「ブホォッ!!」


 淡々とそう言い放った前田先輩に、ダメージを食らったあたしは吐血して倒れた……というのは冗談で。


「マジっすか」

「マジです」

「あたし、てっきり蓮様と……」

「無いですね。蓮様のことは信用も信頼もしていますし、尊敬もできるお方です。女性関係を除けば……ですが」  

「わ~お」

「九条様とはまた質の違った“クズ”と言えば、ご理解いただけるかと」

「なるほど」


 やっぱ“イケメンにろくな奴はいない”が立証されつつある。ま、蓮様は優しいし、クズはクズでも満遍なく女の子を大切にするタイプだろう。


 ── いや、それはそれで残酷すぎやしないか?


「お金持ちイケメンこわっ」

「その辺、九条様のほうが清々しいほどのクズっぷりで、蓮様より幾分マシなのでは?」

「前田先輩……それ、なんのフォローにもなってないです」

「あら、これは叱られてしまいますね」


 前から思ってたけど、前田先輩って誰に対しても動じないんだよね。怖いもの知らず……と言うわけでも無さそうだし。感情が無い……いや、感情を捨てた説が濃厚。ま、サーバントなんて感情を捨てないとやってらんない感は否めない。


 きっと、あたしには向いていない……というか、九条のサーバントは向いてない……という表現のほうが正しいかもしんない。しばらく前田先輩と雑談をしていると、左手に包帯をグルグル巻き付けた九条が登場。そして、担当医らしき人があたしに物凄い剣幕で迫ってくる。


「貴女が九条様のサーバントですか?」

「え、あ、はい」

「そうですか。くれぐれも……くれぐれも!! 傷口が開くようなことはなきよう」

「は、はい」

「サーバントである貴女が!!!! しっかりサポートとするように」

「がってん承知」

「では、わたくしはこれで」


 九条にペコペコ頭を下げながら去っていく担当医。


「ま、1ヶ月はまともに生活できんわな~」

「そうですね。抜糸に最低でも2週間はかかるでしょうから」


 そして、九条と前田先輩はなぜかあたしを見ている。


「え、なんですか」

「お前、夏季休暇ないと思えよ~」

「致し方ないですね」


 今は7月上旬、夏季休暇は7月下旬から……いや、微妙に抜糸できるかできないかの瀬戸際。


「その頃には大概治ってるんじゃ……? ていうか、霧島さんがいるじゃん!!」

「霧島はああ見えて忙しいんだよ」

「あたしだって忙しいもん!!」

「何にだよ」

「……ま、まあ、色々と?」

「はい、決定~」

「い、いやぁぁぁぁーー!!」


 ── こうしてあたしの夏季休暇前半は、始まる前から悪魔によって無いものされたのであった。

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