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罠②

 コンコンッ。


「失礼します。九条様、どうか暗殺だけは勘弁……して……」


 あたしの視界に入ってきたのは、大きな広いベッドの上で乱れた制服姿の咲良ちゃんと、上半身裸の九条が咲良ちゃんの上に跨がっている絵図。


 なに、この状況。


『キャー!!』とか『ハレンチー!!』とか『恥ずかしいー!!』とか、そんなうぶでもなければ乙女な心を持ち合わせているわけもないあたし。


 普段のあたしなら他人のあれこれを見てしまおうが、“あ、すみませーん。お邪魔しました~”くらいのノリで済む。済むはずなのに……2人のこの光景が受け止めきれなくて、理由は分からないけど血の気がどんどん引いていく。


 胃がムカムカして気持ち悪い。


「はぁっ、はぁっ……っ。おい……っ、七瀬」


 息が上がって、こういう雰囲気特有の色っぽい瞳をしながらあたしを見て名前を呼んだ九条。


 ・・・そんな瞳であたしを見ないで、そんな瞳であたしの名前を呼ばないで──。気づいた時にはVIPルームを飛び出して、ただ宛もなく走っていた。


「── い。おい、舞!!」


 大きな声で名前を呼ばれてハッとすると、宗次郎に腕を掴まれていた。


「顔色悪すぎ、どうした?」

「……い、いや……なんでも……ない」

「医務室行くぞ。血の気無さすぎたって」

「あ、うん。ごめん……ありがとう」


 ボーッとしながら宗次郎に連れて来られた誰もいない医務室。医務室の中には個室が何個かあって、ちゃんと隔離できるようになっている。


「ベッド使えば?」


 言われるがまま個室へ入ってベッドに寝転ぶと、あたしの頭付近に手をついてゆっくりと近づいてくる宗次郎の顔。


「あの人、なんかしてた?」

「え? な、なに」

「見ちゃった? あの人と叶さんのっ……」


 ガチャッ。


「おや、宗次郎に舞ちゃん。どうしたのかな?」


 宗次郎とあたしはビクッと体を跳ね上がらせて、声がしたほうへ視線を向けると、そこにいたのは蓮様と前田先輩だった。


「いや、七瀬さんが体調悪そうだったので今連れてきたところです」

「たしかに顔色が優れないようですね。私が診ておくので蓮様と宗次郎君はお戻りください」

「舞ちゃんのこと頼むね、前田さん。んじゃ、行こうか。宗次郎」

「はい。では、七瀬さんのことよろしくお願いします」


 正直ホッとした。あの時、前田先輩達が来てくれなかったら……何となくヤバかった気がする。宗次郎の雰囲気がいつもとなんか違ったし。


「七瀬さん、大丈夫ですか?」

「あ、はい。すみません」

「どうしたんですか?」


 言えない……かな。


 咲良ちゃんのことを考えると、黙っておいてあげたほうがいいよね。というか、何をしようが本人達の自由だし、あたしが返事を待たずに入っちゃったのがそもそもの原因だし。


「お昼食べた後に体術強化訓練なんて、本当にえげつないですよね。さすがに気持ち悪くなっちゃいました。これからお昼控えめにしないと~! ははっ」

「そうですか。なら、胃薬を用意しますね」

「かたじけない」

「変わった人ですね、本当に」


 そう言うとあたしに優しく微笑む前田先輩。あたしが男だったら絶対に放っておかないな。


「七瀬さん」

「はい」

「すみません。胃薬を切らしているようなので、買ってきますね」

「え、いや、いいです! わざわざそんな」

「すぐそこに薬局があるので」


 ・・・天下の天馬学園、敷地内に無いものは無いと言っても過言ではない。


「すみません……」

「少々お待ちください」


 誰もいない、何の音もしない、不慣れなベッドの上にポツンッと寝ているあたし。それが無性に寂しくて、少し怖い──。しばらくしてバンッ! と医務室のドアが開く音がした。前田先輩にしては随分と荒々しい……ということは他の誰かだろう。で、あろうことかあたしが使ってる個室へ何者かが入ってきた──。


「え、ちょっ、あの、使ってます……よ……」


 ドアのほうに顔を向けると、額にダラダラと汗を流して呼吸が乱れてる九条の姿があった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ああー、しんどっ」


 何かがおかしい。あの九条がこんなにも汗を流して、息切れを起こすほど呼吸が乱れているなんて……普通だったらありえない。


 何気なく視線を落とすと、九条の左手からポタッポタッ……と濃い血が垂れている。あたしはバッ! と勢いよくベッドから飛び起きた。


「くっ、九条……手、手、手っ! なに!? へ!? 手! 手ってば! 血、血! なんで、ちょっ、どうしたのよ、それ!」


 テンパりすぎてカッターシャツをおもむろに脱ぎ、ドタバタしながらベッドから降りて、そのカッターシャツを九条の手に当てた。


「なっ、なによこれ……ど、どうしたの……?」


 人からこんなにも血が出てるところを見たことがない。止まりそうにない出血が怖くて、声も体も情けないくらい震える。


「は、早く病院行こ……く、九条……早く病院にっ」

「ったく、逃げんなよ」

「なに……っ、何言ってるの? は、早くっ」

「何もしてねぇから、あれ」


 なに……もうなんなの!? してようがしてまいが、もうなんだっていい!


「は……? もういいって、そんなのなんでも! 早くしないと死んじゃう!!」

「はぁぁ、この程度で死ぬわけないだろ。大袈裟だっつーの、お前」


 震える手で必死に止血しようとするも、カッターシャツが真っ赤に染まっていくだけ。どうしよう……怖い。


 すると、フワッと優しくあたしを包み込んむ九条。あたたかくて、とても安心する九条の匂い。でも、その中に咲良ちゃんの香水の匂いも混ざっていて、この状況に罪悪感を感じる。


 この人は、咲良ちゃんのもの。人様の彼氏様に抱きしめられてるなんて、本来あってはらないでしょ。


 あたしはそういうの無理──。


「九条……ごめん、あたし……」


 離れようとしても、離してくれない。強くギュッと抱きしめられるだけ。


「……っ。んだよ、逃げんな。面倒くせぇ」

「逃げるとか、逃げないとかじゃなくて」

「お前さ、俺から逃げられるとでも思ってんの? そう思ってんなら、そのおめでたい脳ミソ取り替えて来い」

「だから、そういうことじゃなくてっ」

「はぁっ、咲良とはマジで何もしてねえし咲良とはカレカノ~とかそういうのでもねえわ。見当違いな勘違いすんじゃねぇよ」



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