悪夢③
ま、あんたが不機嫌だろうがなんだろうが、そんなの知ったこっちゃない。何でもかんでも自分の思い通りになると思ったら大間違い、世の中そんなに甘くないの。
「あんたの女になんて、絶っっ対になんないから!!」
そう言うと、あたしの腕を握ってる手にギュッと力が入って、掴まれてる腕が少し痛む。
「ったく、躾がなってねーな」
「……は?」
「お前、口悪すぎでしょ。俺がみっちり躾てやるよ」
いや、これはあんたのせいで悪くなってるだけ。まあ、心の中ではそれなりに悪かったりするけども、誰にでもこんな
感じではない……はず。
「あの、マジでいい加減にしてくれます? 警察呼びますよ」
「ハッ、警察……ねえ。ご勝手にど~ぞ」
勝ち誇ったように余裕そうな笑みを浮かべてヘラヘラしながら笑ってるのが心底うざい……この男、マジで腹立つ。
「舞っ!」
「舞ちゃん!」
後ろからあたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。その声は紛れもなくあたしの親友達の声で──。
「梨花、美玖っ……!」
呆気なくスーツ男に捕まってしまった2人。
「きゃあっ」
「ちょ、離せよ!」
抵抗してる美玖と梨花。きっとこの2人はあたしのことを心配して探しに来てくれたんだと思う。本当に優しい子達なんだよね……美玖と梨花は。そんな2人をこんないざこざに巻き込むわけにはいかない。
「ちょっと! 2人を離して!」
「あ? なぁに甘っちょいこと言ってんだよ。まあ、お前が俺の言うことを何でも聞くってんなら離してやってもいいけど?」
真顔でそう言ってはいるけど、どう考えたってふざけてるようにしか思えない。
「は? ふざけてんの? あんた」
「あ? 大マジなんだけどねえ。で、どーすんの? 大切な""お友達""なんでしょ? 助けてあげなくていいわけ~?」
嫌みったらしい言い方に腹が立つし、なにより梨花と美玖を巻き込んでしまった自分に一番腹が立つ。こいつの言いなりになんてなりたくないけど、背に腹は代えられない。
「……分かった、わかったから2人を離して」
「そ。なら交渉成立ってことで~。おい、ソイツらもう離していいよ~」
梨花と美玖が解放されたと同時にあたしも解放された。
「舞!」
「舞ちゃん!」
「梨花、美玖!!」
あたし達はぎゅっと抱き合った。美玖、小刻みに震えてる。きっと怖かったんだろうな。なのに、あたしのために勇気を出してくれたって……そう思うと胸が痛む。けど、不謹慎ながらその勇気が嬉しかったりもする。
「舞ちゃんがヤバい男達に絡まれてるって聞いて……」
「もぉ、マジで焦ったわ……」
「美玖、梨花……ごめん、ありがとう」
「ええ~? つーか俺、不審者扱いされてる感じ~?」
は? それ以外の何者でもないでしょ。どう考えても“不審者”でしかない、不審者通り越して犯罪者でしょ。
「「ああーー!!!!」」
あたしの耳元で突然大きな声を出した美玖と梨花のせいで、耳がキィーンとして痛い。
「ちょっ、うるさっ!!」
「舞ちゃん舞ちゃんっ!」
「ねぇ! どこで知り合ったわけ!?」
え、なにが? なぜか興奮状態の2人。あたしは何がなんだか分からなくてちんぷんかんぷん状態。
「え、なに? どうしたの急に」
「舞ちゃん知らないの!?」
「……あ、舞スマホ持ってないしテレビもろくに見ないでしょ。そりゃ知らなくてもおかしくはないかも」
「何々、なんのこと?」
そんなことを話していると、笑いながらあたし達に近寄ってきた“見てくれだけはとてつもなく良い”不審者。
「マジか、お前……俺のこと知らねーの?」
「は? 知らないけど」
「ふ~ん。だからそんな態度だったわけね~」
いや、あんたがどこの誰だろうか態度は変わんないと思いますけど?
「俺、九条柊弥。ちなみにお前と同い年ね」
── へえ。『へぇー』以外に何もない。そんなドヤ顔で自己紹介されてもね、そんなの知らん。
「舞ちゃんよかったね! お幸せに!」
「よかったじゃん舞~! 玉の輿成功おめでと~う!」
「は? え、え!? ちょっと、待っ……てよぉぉ……」
美玖と梨花はキャッキャしながら去っていった。無情にも取り残されてしまったあたし。てか『玉の輿成功おめでと~う!』って一体どういう意味なの!? というか、この状況で普通置いていくか!? 酷くない!?
とりあえず自分で状況整理をするしかないか。
えーっとまずは、高級車でしょ? で、この完璧な容姿にムカつくほどの俺様性格に加えてめちゃくちゃ自信家でしょ? そして『柊弥“様”』と呼ぶ謎のスーツ男達……からの美玖と梨花のあの反応──。
嫌でもバラバラだったピースが揃い始めてしまった。こいつ、やっぱりただ者じゃない。だがしかぁし! どこの誰だろうが知ったこっちゃないし、あたしには関係のないこと。ロウソクを買いに一刻も早くホームセンターへ行かねばならないっ!
「えっとー、九条だっけ? あたし、あなたに微塵も興味が無ければ相手をしている時間も無いわけ。ね? 分かるよね、この意味。だから、もういいかな? 急いでんのよ」
「お前さ、マジで女なの?」
「……ハイ?」
「こんっなイケメンに言い寄られたら普通は靡くでしょ。ヤバくない? お前。女として終わってんじゃね?」
“やれやれ”とジェスチャーしながら、呆れ返った顔であたしを見てる九条。あたしは顔面をピクピクひきつらせながら、何とか笑みを浮かべている状態。
「はははー。あたし、クズそうな男には靡かない体質なもんで。ごめんなさいねー?」
「あ? クズって誰に言ってんのー?」
お ま え だ よ !
「あははーー。あなた以外いるー?」
睨み合いが続いて、あたしは確信した。
── 九条柊弥、こいつとは絶っ対に合わない!!
「……くくっ。いいね、お前。やっぱ面白いわ~」
「ちょっ!?」
腕を掴まれて引っ張られると、あれよこれよという間に車へ乗せられてしまった。
・・・えーー、これはれっきとした拉致なのでは?
あぁもう、なんなの? これは夢? 夢だよね? 悪夢すぎない? 悪夢以外の何ものでもないわ……頼む、夢であってくれ。ねえ、夢ならさっさと覚めてよ。お願いだからぁぁー!!
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