表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/150

チャンス② 宗次郎視点

 


 ── 無言で叶さんと図書室へ向かう道中、沈黙を破ったのは叶さんだった。


「ねえ、宗次郎君。やっぱりっ」

「今更やめるとか言わないでくれよ。だいたい、俺にこの話振ってきたの叶さんだよね」

「でも、なんかさ……」

「俺はぶっちゃけそっち側の事情とかどうでもいいんで。あいつさえ滅茶苦茶にできればそれでいい」


 なにを今になってうだうだしてんの? この女。さっさとあの人(九条)を利用して、場を掻き回して乱してくれよ。容姿はそこそこ良いんだし。


 ── 数ヶ月前、叶咲良からこの話を吹っかけられた時こんなチャンスは二度とない……利用すべき、そう思った。


「宗次郎君、君に協力してほしいの」

「は?」

「私、柊弥と結婚しないといけない理由ができたの。好きとか嫌いとかの問題じゃない。“九条の嫁”という立場が必要なの」

「はあ、そうですか」


 あっそ、どうでもいい……としか思えなくて、なんで俺にわざわざそんな話を言ってくるんだ? としか思えなかった。


「七瀬舞、知ってるでしょ?」

「あー、まあ、噂程度には」

「あの柊弥が……」


 この女が言いたいことは何となく分かる。あの人がサーバント……ましてや、庶民の女を連れて歩くとは……ってことだろ? 一般のほうでもかなり話題になって盛り上がってたしな。随分と厚待遇を受けて、あの人のお気に入りだとか何だとか? ま、知ったこっちゃねえけど。


「で?」

「柊弥から七瀬舞を引き離してほしいの。もちろん私も努力はする。でも、一番ベストなのは七瀬舞が“自ら”柊弥のもとを離れてくれること。悪いけど君のことは調べさせてもらった。お兄ちゃんと比べてっ」


 あーー、ハイハイ。お前も恭次郎と比べるパターンのやつね。うぜえーんだよなあ、こういうの。


「あいつと比べんのやめてくんね? 胸糞悪ぃんだけど」

「違うって。お兄ちゃんと比べても君のほうが圧倒的にルックス良いし、女の子の扱いめちゃくちゃ慣れてるでしょ? 女関係で結構名を馳せてるみたいだしね? 君。悪く言えばただの“女たらし”。でも、悪い噂は一切聞かなかったわ。女の子達から不満や愚痴も出てきてない。扱いが上手いのね。そんな君に落とせない女の子なんているかな?」


 あー、なるほどね? こいつ、結構ヤベぇ女だな。ま、俺に落とせない女なんているわけがない。


「ははっ。意外とヤバい性格してんね」

「もう形振り構ってらんないの」


 まあ、よくある話だ。叶家の経営が右肩下がりで、焦った母親の指示だとか何だとか? はっ、くだらねえな。まあでも、あいつ(恭次郎)を滅茶苦茶にするチャンスだと確信した。


 あいつが崇拝してる九条柊弥の弱み、大切なモノは……おそらく七瀬舞だろう。あいつの弟であるこの俺が、あの人のモノにちょっかいを出して、揺れ動く七瀬舞を俺のモノにした……となれば、あいつの全ては確実に終わる。


 ま、チョロいだろうな。


 ・・・当初はそう思ってたし、チョロいはずだった。でも、七瀬舞という女はどうも思い通りにいかない上に、油断するとこっちが掻き乱される。気を張ってないとこっちのペースが乱されて、いつの間にか呑み込まれてる。


 俺なんて所詮はこんなもん。“不出来”には抗えないんだよな。


 ── “上杉家の恥さらし”


 散々浴びせられてきたこの言葉。呪いのようにずっと俺に纏わり付いて離れやしない。周りは都合が悪くなるといなくなり、ほとぼりが冷めた頃に戻って来る。


「あんなこと言うなんて酷いね~」

「私はそんなこと思ってないよ?」

「自信を持って、宗次郎君」


 は? じゃあ、なんでお前らは俺の傍から離れた?


 くだらねえ、所詮はそんなもん。手を差し伸べる奴も、寄り添おうとする奴も居ない。ま、そんな奴……別に要らねぇけど。


「上杉家の恥さらし」


 物陰から聞こえてきた言葉。ああ、ハイハイ。いつものやつね、そりゃどーも。いつも通りスルーするはずだった。すると、俺の隣から聞こえてきたのは──。


「さっきからゴニョゴニョと雑音が聞こえてくるんだけど、言いたいことがあるならもっと近くで喋ってくんないかしらー。陰でボソボソとしか喋れない奴のほうがよっっぽど恥さらしだと思いますけどねー」


 凛として堂々した佇まいに、『何も恥じることなんて一切ないよ』と、七瀬舞が俺に言っているようだった。こんなの初めてだった、この言葉に立ち向かっていく奴が。


 どこかへいなくなるどころか、“かかって来いよ”と言わんばかりな高圧的な態度のこの女に言葉を失ったし、ぶっちゃけ引いた。こいつ、マジでどんな神経してんだ? こんなイカれた女、俺に落とせんのか?


 いや、もう分かってただろ……最初っから。


 あの人が選んだ女だぞ?


 俺があの人に敵うはずもないことも、その人が選んだ“唯一無二”の女に敵うはずがないってことも……端っから分かってただろうが。


 ・・・七瀬舞は言うまでもなく、“別格”だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ