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嘘か本当か③

 ていうか、なんであんたが怒ってんの? 怒りたいのはあたしのほうなんですけど。特別な人がいるくせに熱でおかしくなってたからってあんなキスしてきてさ……マジでふざけんな。誰にでもキスするとか、本当に救いようのないクズ。咲良ちゃんに言いつけちゃっていいかな。“こいつ、めちゃくちゃクズですよ”って。


 いや、咲良ちゃんからするとあたしのほうが邪魔者でクズなのかもしれない。


「ていうか、何だってよくない? いちいち干渉してくるのやめてくれる? で、なに?」

「お前は誰のモンだよ。俺のモンだろ? 自分のモンに干渉して何が悪い。干渉してもらえるだけありがたいと思えよ」


 どこまでいっても“俺様御曹司”ですか。『干渉してもらえるだけありがたいと思えよ』って、誰も頼んでないっつーの。その干渉がうざいって言ってんの!!


 ただのマスターでただのサーバント。ただそれだけの関係性なのに、あれこれ言われる意味が分かんない。


「その思考があたしには到底理解できない。理解したいとも思えないけど」

「あ?」

「あたし達が無駄に干渉し合うのが訳わかんないって言ってるの」

「そんなのただの言い訳だろ」

「は?」

「言いたいことも言えねえ、聞きたいことも聞けねえ奴の言い訳だろ? んなもん。結局は逃げてんのと変わんねぇじゃん、それ」


 ・・・こいつ、何を滅茶苦茶なこと言ってるの? そう思う反面、“一理あるかも”とか思っちゃってる自分もいる。さすが“俺様御曹司”ね、言ってることが本当に偉そうだわ。


「あたしにはあんたの考えてることがよく分かんないし、別に分かりたくもないわ。で、あたしに何の用があんの?」

「お前、なんか勘違いしてね?」

「何が?」

「何もかもだよ」


 その言葉そのままそっくりお返しするわ。宗次郎とはなんっもないのに、無駄にピリピリしてるのあんたじゃん。勘違いも甚だしい。


 ていうか、仮に何かがあったとしても九条には関係無くない? 別に恋愛禁止ってわけでもないし、そもそもあんたには咲良ちゃんがいるでしょうが。サーバントのあたしに構ってる暇があるなら、咲良ちゃんの相手してあげてよ。時間の無駄でしょ、普通に。


「言ったろ。咲良とは何もないって」

「あろうがなかろうが別にどっちでもいいし、あたしには関係無いからマジでどうでもいい」

「なら、なんでさっき俺から目ぇ逸らしたんだよ。つか、見たんだろ? 俺と咲良がキスしてるところ」

「……あんたはさ、何とも思ってない人と平気でキスするわけ?」


 あたしは、何とも思ってない人とキスするなんて絶対に嫌。


 ・・・て、何を聞いちゃってるの? あたし。こんな不毛なこと聞く必要ないじゃん。自分が何を考えてるのかもよく分からなくなってきた。


「あれ、事故だから」

「は?」

「だぁから、お前が見たやつは事故だっつってんの」


 かくかくしかじか──。


 九条の言い分……というか、九条の説明を簡潔にまとめると、あの場所でたまたま咲良ちゃんに遭遇。で、咲良ちゃんが走って九条のもとへ行く。そして、足がもつれた咲良ちゃんがズッ転けそうになりながら九条の胸元を掴んで、その勢いでグイッと不可抗力で引き寄せられた九条は、必然的に屈む形になってゴチッと唇が当たった……というわけらしい。少女漫画かっ!! とツッコミたい気持ちを抑えた。


「つーかお前、なんであんな所通ったわけ?」

「なんでって……近道って言われて」

「誰にだよ」

「……宗次郎君」


 すると、真顔であたしをジリジリと追い詰めて来る九条。もちろん後退りをするあたし。


「あ、あのっ……」


 トンッ……と背中に当たったのは壁。壁にドンッと手を付ける九条。そう、これは紛れもなく壁ドン。


「七瀬」

「は、はいっ」


 あたしを見下ろしてる九条の目が、獲物を狩る肉食動物みたいに鋭い眼光をしてる。あたしはこのまま喰われるのだろうか。


「お前、マジで隙だらけ」

「え、あ……す、すみません」

「あいつに心許しすぎじゃね?」

「いや、別にそういうことじゃっ」

「ダメだっつってんだろ」


 今にも噛み付きそうな勢いの九条。


「ていうかっ、理由もなくそんなこと言われても困る!」

「あ? 逆に聞くけど、俺が理由もなく警戒しろ……とか言うとでも思ってんの?」

「理由を言ってくんなきゃ分かんないじゃん!」

「馬鹿なお前でも薄々勘づいてんだろ。宗次郎は上杉のことを目の敵にしてる。何をしでかすか分からん」


 ── この時、あたしは思ってしまった。咲良ちゃんが一時帰国をしていなければ、そもそも宗次郎がサーバントになることもなかった……ということは、この一連は“たまたま”なのか、“仕組まれた”ことなのか……全てが疑問に変わっていく。


 九条は男である宗次郎を全面的に疑って女である……いや、“許嫁”である咲良ちゃんには一切の疑いの目を向けていない。事の発端はすべて咲良ちゃんなんじゃ……て、いやいや。さすがに深く考えすぎだよね。どう考えても咲良ちゃんが悪い人とは思えない。あたしにも気を遣ってくれて、優しくしてくれるし。


「……多分、宗次郎君があたしに直接何かをしてくることはないと思う」

「は?」


 おそらく宗次郎はそんな人じゃない。じゃなかったら、あんな焦ってあたしを助けたりはしないでしょ。それに、何かをしようと思えばできるタイミングなんて、いくらでもあった。


 九条は“あたし自身の心配”をしてくれているのか、“自分のモノにちょっかいを出されるのが気に入らない”だけなのか……どっちなんだろう。


「いくら目の敵にしてるからって、道を踏み外すような行為はしないでしょ」

「お前さ、ふざけてんの? なんで分かんねぇかな」

「は? なにがっ……!?」


 あたしの両手を九条は片手で掴み、頭上で固定した。


「おら、逃げてみろよ」


 脚がまだある……と思ったら、脚を脚で固定されて動けない。


「なんとかできんだろ?」

「っ!! いい加減にして」

「こうなったらどーするわけ?」

「だから、宗次郎君はっ」

「こういうことしないって? はははっ。お前さ、男ナメすぎ」


 あたしを見下ろす九条の瞳が一切光を通してなくて、酷く冷たいものだった。


「なぁ、早く逃げねえとヤっちゃうよ?」

「……っ、やめて」

「くくっ。お前、痛い目見ないと分かんないタイプっしょ。俺が分からせてやるよ、頭のてっぺんから爪先まで……たっぷりとな」


 何かを咎めるような冷めた視線、冷たい瞳で蔑むようにあたしを見ている九条。怒ってるとか、そういう瞳ではない。そんな九条が“怖い”……そう思ってしまった。


 いつもの軽薄でおちゃらけてヘラヘラしてる九条が嘘なのか、本当なのか。こっちの酷く冷めきった九条が本当なのか、嘘なのか。


 ねえ、どっちが本物で、どっちが偽物なの──?



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