GW④
たしかに去年は花火やってないなぁ。やろうとする度に雨で結局諦めたんだっけ。
「いいね、花火。花火と言ったら職人に頼んで打ち上げてもらう……くらいしかやったことがないから」
「「「「……レベルが違ぇ」」」」
「ははっ。大袈裟だなぁ」
あたしら庶民の花火は数千円。あなたの花火は数十万から~なんでしょうね、次元が違いますわー。
バーベキューの片付けを済ませ、花火を最寄りのスーパーへ歩いて買いに行こうという話になった……けど、いつの間にやらミニバンに乗り換えてスタンバイしている霧島さん。
・・・この人、マジで何者? マジシャン?
── 某ショッピングセンターにて
「ここ花火に気合い入ってるって聞いたんだよね~」
「わぁ、本当に可愛い花火がたっくさんあるね~」
「うわっ、値段もぴんきり」
「ちょ、舞ちゃん。すぐ値段確認するのやめたらぁ?」
梨花の助言でショッピングセンターまで来たあたし達。少し先で傍から見たらじゃれ合ってるようにしか見えない九条と拓人。
「九条君。距離感バグってるってよく言われない?」
「え? そうかな? ああ……七瀬さんによく叱られてるよ」
「舞にベタベタすんのやめてねー」
「ん~? どうして?」
「嫌がってるでしょ、舞」
「ううん。喜んでるよ?」
あぁん!? だぁぁれが喜んでるってぇ!? ふっざんけなぁぁ!!
「はは。これだからお坊っちゃまは」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに仲良くしようよー」
「馴れ合う気さらさらないのは九条君のほうだよね?」
「ん? いいや? そんなことないよー?」
「だぁから!! 距離!! ちけーよ!!」
「ははー。照れてるー?」
「んなわけねぇだろ!!」
・・・うん、もうほっとこ。
「ふふ、なんだかんだ仲いいね~。拓人君と九条君」
「意外と合うんじゃん? 波長的なもんが」
「えぇ……そうかな?」
「まっ、男子はほっといて可愛い花火買っちゃお~? SNS映えする花火がいいなぁ。彼氏にも送ろ~っと」
「私も送ろうかなー。ちょっとそくばっきー気質なんだよねぇ」
── おいおい、待って。ちょっと待ってちょうだい!
「2人とも……彼氏……できたの?」
「「うん」」
「ええぇぇーー!!」
「ちょ、舞ちゃん声大きすぎ~」
「うるさっ」
「酷いよ! 教えてくんないなんて! ていうか早くない!?」
「ごめんごめ~ん。言うタイミング逃しただけだよ~?」
「ま、そこそこイケメンに告られて、“ま、ありだな”的な感じでオッケーした」
いや、梨花よ……あまりにもフッ軽すぎないか。
「わたしはねぇ……めちゃくちゃ陰キャ彼なの~。なんか可愛くってさぁ? へへ」
マジかっ!? あの美玖が陰キャ彼だとっ!?
はぁ、ダメだ。完っ全に乗り遅れてるよ、あたし。というか、九条のサーバントをやっている時点で青春も恋愛も捨てたじゃないか……あはは。
「へ、へえ、よかったねえー」
パカーッと開いた口から魂が抜けそうになる。
「だいたい舞ちゃんレベルの美少女をさぁ、野放しにしてる男子達の思考がよく分かんないよね~」
「高嶺の花的なやつじゃない? 中学ん時そんな感じだったじゃん」
「いや、誰の話をしてるのよソレ」
「舞ちゃん」
「舞」
・・・いやいや、ナイナイ。こんな女子力もなければ平凡な容姿のあたしがそんなことあるわけがない、そう断言できる。
「へぇ、七瀬さんって中学の時モテてたんだ」
「ぎゃっ!?」
真後ろから突然聞こえた声に、可愛さの欠片もない声を出すあたし。
「ま、拓人が蹴散らしてたけどね」
「番犬君だもんねぇ? 拓人君はさぁ~」
「はは。醜いね~、佐伯君。人の恋路を邪魔するなんて~」
「そんなんで引き下がる男なんざ、ろくな奴じゃないでしょ」
「それ、マジで言えてるね」
「だろ?」
なぜか意気投合し始めた九条と拓人。もうマジでなんなの? あんた達。ていうかさ、あたしがモテてた……みたいな前提で話を進めるのはヤメて、虚しくなるから。
そりゃ彼氏なんてできるはずがない。だって、男がみんっなお父さんみたいだったらどうしよう……そう思うだけで鳥肌が立って無理だった。今はそれにプラスされたのが“九条柊弥”という存在。男がみんっな九条やお父さんみたいだったら……? 彼氏なんていないほうがマシだな、うん。
そんなこんなで花火を買って、拓人ん家に戻ってきた。
「うわっ、佐伯君の火力ないね~。ほら、僕の見てみなよ」
「アタリ、ハズレくらいあんだろ。いちいち張り合ってくんのやめてくんね?」
「はは、僕と張り合うのがコワイー?」
「俺と張り合いたいわけ? お坊っちゃま」
それから九条と拓人の火力勝負が始まった。
「九条君って意外と子供っぽいねぇ」
「ギャップ萌えじゃーん」
「いや、萎えるでしょ」
何だかんだでワイワイガヤガヤしながらする花火はとても楽しかった。九条も庶民の遊びを楽しんだみたいで何より。これで満足したでしょ? 残りのは休みはゆっくり過ごせるといいな~。
── 結果、あたしの連休は全て悪魔の手によって、無いものとされた。