GW①
皆様、ごきげんよう。あたしは今めちゃくちゃ気分がいいです。え? なぜかって? フフフ、ここで朗報です! 今日からゴールデンウィークという名の連休に突入しましたー! ということは……? はい、そうなんです! 九条と関わることをしなくて済む日々が送れるということです! いやぁ~、数日間でもあのストレスから解放されると思うと、めちゃくちゃ嬉しいよぉ。ありがとう、ありがとう! ゴールデンウィーク最高!
そして今日は、拓人・美玖・梨花とバーベキューするんだ~。だから本当に気分がいいの。こーんなボロボロな家がキラキラ輝いて見えるもんな~。ほーんと不思議だよねえ、はははっ。
「じゃ、いってきまーす!」
「お土産よろしくね、舞」
いや、バーベキューするのにお土産も何もなくない? 律ってやっぱズレてるよね。
「律、慶と煌のことよろしくね」
「うん、任せてよ。役立たずな父さんの面倒も見とくから」
「それが一番苦労するね」
「ですな」
「律」
「ん?」
「ありがとう」
「こちらこそ」
あたし達はなぜかお辞儀をしてクスクス笑った。
笑顔で手を振りながら家の外に出て、壊れそうな門扉を開けると1台の高級車が目の前に停まった。そう、あたしの目の前にね。後部座席の窓がウィーンッと開いて、その向こうにいたのは──。
「何してんの、お前」
いや、それはこっちのセリフなんですけど。
「見て分かんない? 出掛けるの」
「あ?」
「は?」
「どーせ暇だろ、お前」
「いや、耳つんぼなの?」
「あ?」
「だから、今から出掛けるのあたし」
「はあ? 暇だろ、どう考えても」
いや、暇なのはあんたのほうでしょ。
「ていうか、何しに来たのあんた」
「あ?」
「は?」
さっきから何、このやり取り。
「どーせ暇だろ? 相手してやるよ」
「いえ、結構です。では、さようなら」
ビュンッと走って逃げた……けど、そりゃ車に勝てるはずもなく、呆気なく九条に捕まって無理やり車内へ引きずり込まれた。
「お前、俺から逃げられるとでも思ってんの?」
「そもそもなんで追って来るのよ、あんた」
あたしがそう言うとスンッとした顔をして顔を逸らした九条、車内には沈黙が流れていた。いや、マジでなんなの? これ。
「これ、誘拐じゃないですか? 霧島さん」
「さぁ、どうでしょう」
「訴えますよ」
「九条を敵に回す覚悟がおありなら」
・・・だぁぁーー!!
「あの、あたしマジで予定があるんですけど」
「そうですか」
「ねえ、霧島さん」
「はい」
「なんであたしの隣いる男、黙りこくってるんですか」
「ご本人に聞かれてみては?」
無駄に長い脚を組んで無駄に長い腕も組み、無駄に整った横顔をあたしに向けている九条。ずーっと無言で窓の外を眺めてる。
拉致っといて無言とかヤメろ、マジでヤメろ。文句の1つや2つや3つや4つや5つや……言わせろ!
「ちょっと、なんで拉致った張本人のあんたが黙りこくってんのよ。いい加減にしてくれない?」
「なんなの? お前」
いや、だから、それはこっちのセリフだっての!!
「もぉ……なんなの!? あんた!」
「お前さ、この俺を差し置いてドコのダレに会おうとしてるわけ? あ? さっさと答えろよ」
めちゃくちゃ仏頂面を引っ提げて、あたしをジロッと見てくる九条。
「どこの誰って……あんたに関係ある? それ」
「あ? 生意気な口利いてんじゃねぇぞ」
「は? 何をそんな怒ってるわけ?」
「怒ってねぇよ、別に」
「怒ってんじゃん」
「怒ってねえ」
「別にあたしがドコのダレと会おうが何しようが、あんたには関係ないでしょ? 降ろして」
「関係あるから言ってんだろ!!」
その声に驚いてビクンッと肩を上げるあたし。九条の怒鳴り声が車内に響いて、怒鳴った張本人でさえなぜか驚いてる始末。
「……な、なによ急に。ビックリしたぁ……」
「……ああ、悪い。なんつーか、声の出が凄まじくよかったわ」
・・・いや、意味分かん。
「ま、まぁ……何でもいいけど。で、あんたはあたしに何をどう言ってほしいわけ?」
「あ?」
「正直に言えば降ろしてくれるの?」
「は? 内容によりけりでしょ、んなもん」
もう降ろす気ないじゃん、こいつ。
「はぁぁ、友達とバーベキューするの」
「はぁん? 友達ぃ?」
「うん」
「どこのどいつだよ」
「中学の!!」
「……あぁ、あの女2人組か~」
「その言い方やめて」
心なしか九条の機嫌が良くなったような気がする。なんなの、マジで……。
「で、他は?」
「幼なじみ」
「あ?」
また不機嫌になった九条。どんだけ情緒不安定なのよ、あんたは。
「拓人」
「んなこと分かってんだよ。いちいち名前呼ぶな、鬱陶しい。俺、あいつ嫌いなんだよねぇ」
「は、はあ……」
「なんつーか、庶民の分際で俺に楯突くあの感じ。マジで癪に障るよねー」
何様なの、あんた。死ぬほど“俺様御曹司”になってますけど。その性格なんとかなんないの? マジで。
「そうですか。で、降ろしてくれない?」
「送ってってやるよ」
「はい?」
「俺って優しいよなぁ、ほんっと」
「誰も頼んでないんですけど」
「んで、そのバーベキューとやらはどこでやるわけ~?」
貴様、人の話を聞けよ。
「いや、だからっ」
「送ってってやる。何べんも同じこと言わせんな~」
ニコッと笑っているけど、瞳の奥が全く笑ってないパターンのやつね
「あー、はい。もう勝手に送ってってください」
「クソ生意気だな。で、場所は?」
「拓人ん家」
「……は?」
「もうすぐそこ」
「は?」
「あ、霧島さん停めて」
キィッとブレーキ音がして停車した車。
「ここなんでありがとうございました。さようなら」
ドアノブに手を掛けてた瞬間、首襟をガシッと掴まれて後ろにグッと引っ張られた。
「んぐっ……!?」
次の瞬間、首元にチクッとした痛みが走る。
「痛っ!!」
何が起こったのか分かんないけど、たぶん九条が何かをしたに違いない。だって、九条があたしの首元に顔埋めてたもん! 針かなんかを射して、あたしを殺そうとしたんじゃないでしょうね!?
「ちょ、何すんのよ!!」
「あ? 虫除け」
「虫除け……?」
「そう。虫除け」