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悪夢②

 えー、正門にいるってことは裏門から逃げれば問題ないってことだよね? 念のため、辺りをキョロキョロ見渡しながら警戒を怠らず、裏門までたどり着いた。人の気配もないし問題はない。


「よし、あたしの勝ちっ」


 ── って、え? ……うえぇえ!?


 裏門から出た瞬間、どこからともなく現れた真っ黒なスーツに身を包んだ大人達がズラリと並ぶ。その姿はまるで某テレビ番組、スーツを着た足の速い男達そのものだった。それに出演してそうな大人達が綺麗に並んでいる。ハンター、いや、SP的な? いや、もはやハンターだろうがSPだろうが、どっちでもいいしどうでもいい。この人達は一体なんなの!?


「こちら裏門、対象者と──」


 インカムで連絡取り合ってるっぽいな。これマジでただ事じゃないし、あの男もただ者ではない気がしてきた。もしかして、あっち系の息子とか孫だったりする? いやいや、そもそもあたしがヤクザに狙われる理由がないじゃん。意味分かんないし。さすがのあたし(ガサツ女)でも、喧嘩とかそんなの無縁で生きてきた……はず。狙われる原因が何一つ浮かんでこない。


 ・・・まさか、あんのクズ(父)が莫大な借金でもしたとか? で、娘のあたしが売り飛ばされる的な? 臓器を売る、もしくは体を売る……とか? ありえる、冗談抜きでありえるから尚更怖い。


 想像するだけで寒気が止まらない。これは何としてでも逃げなくちゃ……とは言うものの、あたしが一歩でも動こうもんなら、スーツ男達も一斉に動き始める。これから逃げるのなんてマジで無理ゲーじゃない? 攻略方法あります?


「あ、あのぉ~。あたし……何かしましたでしょうか……?」


 シーーン。


 誰も反応してくれないし、ジリジリ迫ってくるし、ただただ怖いんですけどー!?


「はは。し、失礼しまぁぁす……」


 頭をペコペコ下げながら走り出そうとした瞬間、スーツ男にガシッと腕を掴まれた。


「……っ、ちょっ、離して! 触んないでよ!」

「七瀬様、どうか落ち着いてください。我々は怪しい者ではありません」

「はあ? 見るからに怪しいですよね!?」


 どっからどう見ても怪しすぎるわ! 『我々は怪しい者ではありません』ってどの口が言ってんのよ! ふざんけなっ!


 ジタバタ暴れまくるあたしを逃がすまいと、あたしをがっしり掴んで離さないスーツ男。嫌、こんなの絶っ対に嫌! こんなところであたしの人生終わるとかマジで嫌だ! 律達のためにも終わらせるわけにはいかないのよ! 


「誰か、誰か助けっ」

「おい」


 ── 聞き覚えのある声。


「誰のモンに触れてんのー? 俺のモンに許可なく触れんなよ」


 その一言でスーツ男達がサッと後ろへ下がって、深々と頭を下げている。そして、あたしの視界に入ったのは綺麗な髪色をした高身長の男。うわぁ、腕と脚ながぁぁ。身長は180……いや、もっとあるな。


 スタイル抜群で適度に制服を着崩して、めちゃくちゃチャラチャラしてるわけでもなく、絶妙な塩梅。ご尊顔は……言うまでもなくかなり良き。


 この男、間違えなく今朝会った男だ。


「よぉ、今朝ぶり~」


 胡散臭い笑みを浮かべながらヘラヘラしてあたしに近寄ってくる無駄にイケメンな男。


「は、はあ……どうも」

「で、なに。逃げようとしてたわけー?」


 ポケットに手を突っ込みながら、あたしの顔を覗き込むように少し屈んで……おい、ちょっと待て。距離感バグってない? 近いって、近すぎるってマジで! 


「……っ。逃げるでしょ、普通は」

「くくっ。逃げたって無駄だよ~? 俺から逃げられるはずがないんだからさぁ。大人しく俺の女になっとけばぁ? 別に損するわけでもねぇんだし」


 損もするも何も、あんたの女にならなきゃいけない理由がないし意味もないしメリットもない。意味不明すぎるとしか言いようがない。ていうか、いきなり絡んできて『俺の女にしてやってもいい』とか理解不能だし怪しすぎるでしょ。初対面だよね? ありえない、どう考えてもナイわ。


「あの、本当に意味が分からないんですけど」

「だーからさぁ、俺の女になれって言ってんの~。分かんねーの?」

「はあ。いきなり『俺の女になれ』とか言うヤバい男の女になるつもりなんて一切ありませんけど。はっきり言って""気持ち悪い""の一言に尽きるわ」


 男を見上げながら睨み付けるようにそう言い放つと、一瞬だけ目を見開いてなぜかニヤニヤし始めた。


「……へえ。いいね、悪くはない」

「は? ……って、ちょっ!?」


 ガシッと腕を掴まれてそのまま引き寄せられると、頬をむぎゅっと掴まれた。強制的に上を向けさせられて、無駄にイケメンな男と目がしっかり合う。そして、視線が絡み合った。


「ま、お前みたいなド庶民の女を相手するのも暇潰しにはなりそうだし、せいぜい俺を楽しませてくれよ。な? 七瀬舞」

「……っ、は? いい加減にして!」


 ドンッと胸元を押して、男から離れた。


「んだよ。何が不満なわけー?」


 なに言ってんの? こちとら不満しかないんですけど。だいたい、あんた女に困ってないよね? なのに、なんであたしなの? 他にもっといるでしょ。それに、おちゃらけてるっていうか、ヘラヘラしてるっていうか……馬鹿にされてるみたいでめちゃくちゃイライラする。


「他当たってください。あたしはあんたみたいな男に微塵も興味ないんで。さようなら」


 背を向けて歩き出そうとした時、後ろから腕を引っ張られてバランスを崩した。


「ちょっ……なに!?」

「お前、俺から逃げられるとでも思ってんの?」


 不機嫌そうな声が聞こえて見上げると、ムッとした顔をしてあたしを見下ろしてる男。なに、その不機嫌そうな顔と声は。不機嫌になりたいのはこっちなんですけど。


 理不尽なことに巻き込まれてる可哀想なあたしの身にもなれっつーの。

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