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おかえりなさい②

 あたしを中へ招いてくれる霧島さん。一瞬だけ戸惑ったけど、相手はあの霧島さんだしね? 別になんの問題もない。


「お邪魔します」


 ・・・本当に何もない部屋だった。ワンルームでベッドと冷蔵庫が置いてあるだけ。


「すみません。ここへ来ることが年に数回あるかないかなので」

「あ、ああ……ですよね」

「椅子とかもないのでベッドに腰かけてください。立ち話もなんでしょうから」


 あたしはベッドをジーッと見つめた。あの巨乳お姉さんと……その、ここで……そう思ったら座る勇気がない。


「ベッドは使用していないので安心してお座りください」

「あ、そ、そうですか」


 え、ちょっと待って。ベッドを使ってないってことはどこで……? って、いやいや。あたしは一体なにを考えているんだ、けしからん。少しでもエッチなことを考えた自分がめちゃくちゃ恥ずかしくなって、顔が燃えるようにアツい。


「七瀬様」

「はひっ」


 呼ばれただけでビクッと反応した体。しかも最っ悪、めっちゃ噛んじゃったし。すると、少しため息を漏らしながら目頭をギュッと押さえてる霧島さん。


「私だからいいものの……これは少し考えものですね。柊弥様が振り回されるのも頷けます」

「え、なんの話ですか?」

「いえ、こちらの話です。で、なんのご用でしょうか」

「あの、霧島さん。戻って来てくれませんか? 九条には霧島さんが必要なんです。口では強がってるけど、でもっ」

「申し訳ありません。それにはお応えしかねます」

「なんでですか」

「私は柊弥様の命令にしか従う気はありませんので」


 あいつが素直に“戻ってきてほしい”なんて言うわけがないじゃん。霧島さんだってそんなこと分かりきってることでしょ? なのに、どうして……? 霧島さんにとっても、あいつは“特別”な存在なんじゃないの?


 ── でも、そんな2人を引き離してしまったのは紛れもなくこの“あたし”だ。


 九条はあんなんだから素直に言わない。でも、毎日あいつの傍にいるあたしには分かるし、伝わってくるの。九条はいつだって霧島さんを求めてる。きっと九条の中で霧島さんという存在は、ただのお付きではない。友達? いや、もう“家族”そのものなんだと思う。逆もまた然りでしょ。霧島さんにとって九条は、ただの主ってだけじゃないはず。そんなの見ていれば一目瞭然。


 ・・・それにぶっちゃけ、榎本さんは九条に対しておちょくりが過ぎる。九条のご機嫌取りにはもううんっっざりしてんのよ。あたしの為にも帰ってほしい……切実に。


 だからあたしは、今から霧島さんを脅します。


 これは、あたしの存在価値が試されることにもなるけど。まあ、この際なんだっていい。これで簡単に切り捨てられるようなら、あたしの存在はあいつにとって本当に、“ただの使い捨ておもちゃ”に過ぎない……そういうこと。ただ、それだけのことだ。


「ごめんなさい」

「なぜあなたが謝るんですか? 七瀬様は何もっ」

「あたしの存在が霧島さんと九条の関係を壊した。そうでしょ? どう考えても。だったらあたしが消えます。あなた達の前から、もう二度と会わないように」

「え、いや、それだけはマジで勘弁して」

「あたしは九条のサーバントです。マスターから“大切なもの(霧島さん)”を奪うなど言語道断。霧島さんが九条のもとへ戻らないと言うなら、あたしはあなた達のもとから去ります」

「それはマジで困る。本っっ当にやめて」

「だったら戻って来てください」

「それはっ」

「戻ってくれないのなら、今ここで消えます。そこのベランダから飛び降りて」

「いや、分かってるとは思うけどさ。ここ1階ね? ベランダから飛び降りてもワンチャン足挫く程度でしょ」

「あの、空気読んでくれません?」

「あ、ごめんごめん」

「で、どうします? あたしがいなくなってもいいんですか?」

「いやいや、いいわけがないでしょ……困るって、君がいないと」

「だったらあたしの言うことを聞いて」


 一歩も引かないあたしに、もう素が出まくっている霧島さん。煙草を吹かしながら困った表情を浮かべてる。


「……ひとつだけ条件がある」

「条件……ですか?」

「うん」

「なんですか。条件って」


 灰皿に煙草を押し当てて火を消すと、真剣な顔をしながらあたしの目の前まで来た霧島さん。


「柊弥のことよろしくね」

「……へ?」

「これが条件」

「え、あ、え? それは一体どういう意味っ」

「柊弥には君しかいないってこと」


 ・・・いや、満面の笑みでそんなこと言われてもさっぱり分からん。ま、サーバントとしての責務を全うしろ……という意味合いだよね? おそらく。


「が、がんばります」

「はぁー。あと1ヶ月くらい休みたかったわ~」

「あたしが持ちません」

「ははっ。榎本さんクセ強いでしょ」

「というより、“霧島に戻せ! ”って九条に言わせたい感満載でしたよ。あたしがあいつのご機嫌取りをどんだけしてきたことやら……という感じです。いい加減にしてくんないとストレスでハゲる」

「それはそれは……誠に申し訳ございません。では、私は九条家に戻りますのでお送りします」

「いや、1人で帰れますのでお気遣いなく」

「いえ、このタイミングでもし万が一、七瀬様に何かがあったら私が柊弥様に抹消されてしまいます。精神的にも物理的にも」


 死ぬほど真顔な霧島さんに何も言えなくなったのは言うまでもない。


「なら、お願いします」

「表に車を回しますので少々お待ちください」

「はい」


 外で待っていると大きなSUVがあたしの前に停まった。ウィーンッと窓が開くとそこから顔を覗かせたのは、もちろん霧島さん。


「どうぞ。前でも後ろでも」

「じゃあ……」


 後ろのドアノブに手を掛けた、その時だった。


「舞!!」


 名前を呼ばれたほうに振り向くと、そこにいたのは自転車に乗った拓人だった。


「え、拓人?」

「おまっ、何してんの!?」

「何って……車に乗ろうとしてる」

「知らない人について行っては!?」

「いけません」

「よろしい! つか、分かってんなら乗んな!」


 いや、どんなやり取りよ。


 すると、車から降りてきた霧島さん。


「霧島さん、この人はあたしのっ」

「ああ、佐伯君……でしたっけ。どうも初めまして。私は柊弥様のお付きと言えばご理解いただけますかね。決して怪しい者ではございません。ね? 七瀬様」

「あ、はい」

「ああ、そうっすか。俺、今から舞んち行くんで霧島さん……でしたっけ。こいつを送っていく必要ないっすよ」

「そうなのですか? 七瀬様」

「あ、はい」

「行こ、舞」

「え、あ、う、うん。すみません、霧島さん」

「いえ。七瀬様の"ご友人"なら安心してお任せできます。七瀬様のこと、よろしくお願いいたします。"ご友人"の佐伯君」


 なぜか“ご友人”を強調しながら言う霧島さん。なんとなく、この2人がバチバチしている気がしてならない。


「さっさと戻ったほうがいいんじゃないですか? お坊っちゃまがお待ちかと。えっと、九条君……でしたっけ。怒られますよ? 彼、短気そうですし」

「ははっ。それはそれはお心遣いどうも」


 なんとなく……ではない、確実にバチってるわ。


「拓人行こ? 霧島さん、ありがとうございました」

「いえ。では、失礼いたします」


 霧島さんの車が去っていくのを見て、あたしはチラッと拓人を見上げてみた。すると、目を細めてあたしを見てる拓人と目が合う。


「おかえり、拓人。もう部活終わったの? 早くない?」

「ただいま……じゃない!!」

「いてっ」


 軽くチョップを食らった。


「はぁぁ、マジで焦ったわ」

「誘拐とでも思ったの?」

「思うでしょ」

「自ら乗ろうとしてたのに?」

「自ら乗ろうとしてても誘拐とかあんでしょ」

「ま、まあ、たかにある……か」


 ── この後、拓人のガミガミ説教を食らったのは言うまでもない。



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