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おともだち③

「てかさ、意外だね」

「んあ? 何が~?」

「毎週コンビニで買ってるの? 自分で」

「んなわけ。霧島が……」


『霧島が……』そう言って言葉が止まった九条。チラッと見上げてると“しまったぁ”的な表情をしてる。まあ、だいたい察しはつくけど。何も言わなくても毎週ちゃんと霧島さんが買ってきてくれてたんでしょ?


「霧島さんのこと“名前を呼んではいけないあの人”……みたいな扱いをするのはやめたら?」

「いや、似ても似つかねぇだろ。つーか、別にそんなんじゃねぇし。お前はいちいち首突っ込んでくんな」

「だって、あたしのせいっ」

「さっさと乗れ」

「ちょっ……!?」


 適当に背中を押されて、車内に押し込まれるあたし。


「あんたねぇ……」

「ん? 何~?」


 あたしの隣で何食わぬ顔をしながら少年誌を読み始めた九条。


 ・・・はぁぁ……と大きなため息を吐きながらシートベルトに手を掛けて引き伸ばす……あれ? シートベルトが伸びない、引っ掛かって動かないんだけど。


「あの、榎本さっ」


 爽やかで上品な香水がフワッと香ると共に、距離感バグ男の九条があたしに覆い被さるようにシートベルトを確認している。


 ── あの、一言言ってもいいですか? 近いっ!!


 この人、なんでこうも距離感が掴めないのかな!? おかしくない? お金持ちってもれなく距離感バグ人間しかいないわけ? お金持ちって距離感が狂っちゃうのかな? そうなのかな!?


 カチャッ。


「シートベルトくらい自分でつけろっての~」


 何事も無かったかのようにまた少年誌を読み始めた九条。


「……あ、ありがとう……ございます……」

「ん」


 こいつと一緒にいると心臓が持たない。無駄にイライラさせられたと思いきや、無駄にドキドキさせられるし……本当に厄介すぎる。


「それ読んで車酔いにでもなればいいのに。んで、くたばればいいのに」


 窓の外を眺めながらボソボソッと呟いた。


「あ? 何か言ったー?」

「いえ、何も」


 すると再び頭頂部にゴンッと衝撃が走った。


「いっったぁぁ!!」

「マスターに向かって『くたばればいいのに』はないでしょ~」


 聞こえてんじゃんっ! ていうか、マジで痛いんですけど!? 涙チョチョぎれそうなんですけど!? あたしは涙を浮かべながら九条を睨み付けた。


「これ以上馬鹿になったらどうしてくれんのよ、責任取ってくれるわけ? あんたのせいであたしの脳細胞ほぼ死んだわ、壊滅したわ、間違えなく」

「……責任ねえ」


 なぜかあたしをガン見して、一切目を逸らさずに瞳の奥まで覗き込む勢いで接近してくる九条。


「ちょっ……ちっ、近い」

「七瀬」

「な、なに」

「……やっぱお前、警戒心無さすぎ。つーか、色々と欠如しまくり」

「はい……?」



 “やれやれ”と言わんばかりのため息を吐きながら、元の位置に戻って少年誌に目をやる九条。


「お前は俺のモンなんだから、変な虫につけ込まれたりすんなよー」


『俺のもん』……ね。どーせ道具ですよ、オモチャですよ、暇潰しの。


「ハイハイ、分かってますよ。我がマスター」

「あんま調子に乗るようなら減給するけどー?」

「申し訳ございません」

「ハッ。金の言いなりってか? 無様だねえ」


 ・・・マジでうっっざぁぁ!!


 でも、さっきATMで確認したら本当に20万入ってた。最低ラインの20万。2週間近く病院生活をしていたのにも関わらず、ちゃんと20万貰えちゃったもんな。


 マジで九条はうざいし、本当にうざいし、うざいけど、こんなに稼げる仕事はそうそう無い。それに、どう考えてもあたしは厚待遇を受けてる。本来なら本当に感謝しなければならない。それでも感謝の気持ちが失せてしまうほど、九条がうざすぎるのが問題である。


 ── いつ見ても、どこから見ても規格外な天馬学園。


「ご機嫌よう」

「おはようございます。九条様」

「今日も素敵ですわ」


 などなど、声をかけられるも足を止めることはなく、適当な笑顔を振り撒いて進んでいく九条。あたしは軽く会釈をして当然の如く九条の隣を歩いてる。


「つーかお前、自由時間誰とどこで何をしてるわけ? ぼっちならっ」

「それを九条様に報告する義務はありませんよね。自由時間に誰とどこにいようが何をしてようが、あたしの勝手では? ちなみに“ぼっち”ではないのでご安心を」


 自由時間は前田先輩とランチしたり、胡桃ちゃんや純君とランチして、その後ちんぷんかんぷんな授業の復習をしてる。純君の教え方が上手で、低能なあたしでも微妙に理解できるし、とっても助かってるんだよね。何だかんだで胡桃ちゃんと純君とは友達になれた……とあたしは思ってる。


 あたしのせいで周りから白い目で見られても、2人とも『気にしない気にしない!!』って笑顔で言ってくれて、本当にいい人達すぎて逆に心配になるレベル。


「あらそー。ま、どーでもいいけど」


 どうでもいいなら聞いてこないでくれる? と言いたいけど、無駄に話を広げるのも面倒くさいからヤメた。


「九条様は何をしているんですかー」


 別に興味も無いけど、何となく九条が不機嫌になりそうな予感がするから、“適当に九条の話でも聞こう”作戦を決行することにした。


「あ~? 俺?」

「はい」

「気分次第で適当に女抱いてる」

「そうですか」


 ・・・は? いや、今なんて言った? 流れで普通に返事しちゃったけど今こいつ、とんでもない爆弾発言しちゃってない? あたしはススッと九条から離れた。


「なんだよ」

「とりあえず物理的に距離を取ろうかと」

「はあ?」


 信じらんない。マジでクズじゃん。この敷地内のどこかで……ってことでしょ? ありえなくない?


 そしてあたしはふと思った。男嫌いになりかけている……というわけではないのかもしれない。あたしは“クズ男”が嫌いなだけなんだと。お父さんのちゃらんぽらん具合がまだ可愛いほうだと思えちゃうほど、九条のクズっぷりが大いに上回っている。


 お父さんは無職でフラフラしてるけど、ああ見えてお母さん一筋だし、お母さんのことが好きすぎるのが伝わってきて気持ち悪いくらいだもん。

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