おともだち②
それに、側にいてくれてた人が急にいなくなって、九条が“霧島さん病”を発症してるのが見てられない。1日に何回“霧島”と言いかけていることやら。そんなにも恋しいのなら素直に“戻ってきてくれ”って言えばいいのにさ。
「霧島さん今頃泣いてるかもよ」
「んなわけ。喜んで女遊びしてんだろ」
「霧島さんをあんたと一緒にしないで」
「ハッ、お前が知らねぇだけだっつーの」
チラッと九条を見上げると、真っ直ぐ前を向いて何を考えているのか分かんない表情をしてる。ほんっと掴めない男。
「おはようございます。柊弥様、七瀬様」
「おはようございます。榎本さん」
当然のように九条は榎本さんをスルー。挨拶無視するとか反抗期のガキか! とツッコミたいけど、機嫌悪くなると後が面倒くさいからヤメた。
「すみません、榎本さん」
「いえ、お気になさらず。私は男に興味などありませんので」
・・・いや、そういうことじゃなくない? ていうか、そういうこと言うから九条が怒るんでしょうが。
「おい、七瀬」
ほらぁ、九条がムスッとしてんじゃん。“さっさと俺んとこに来い”と目で訴えてくる九条にため息しか出てこなかった。
「ハイハイ、すみませっ……!?」
九条のもとへ行くとあたしの腕を掴んで引っ張り、車のドアを開けてあたしを車内にポーイッと放り投げた。
「ちょっ……あんたねぇ!」
「あ? なんだよ」
一切悪びれる様子のない九条に腹が立つ。
「……っ!! あーーもうっ! うっざ!」
「それ、こっちのセリフな?」
「ハッハッハッ。相も変わらず仲がよろしいようで」
薄々思ってたことがある。榎本さん……わざと九条を煽って、苛立たせる言動・行動をしてる? そんなような感じがする。
・・・あ、そういうこと? そういうことなのかな? 榎本さんは霧島さんを九条のお付きに戻してあげたいって、そう考えているのかもしれない。九条のことも霧島さんのことも考えて、このペアがベストだと榎本さんは考えてるのかも。
榎本さんなりのやり方ってやつなのかな? 正直あたしが被害被りすぎてますけどね……はは。
「── せ。おい、貧乏人」
「え? なに?」
「名前には反応しねえのに“貧乏人”には反応すんのな」
しまったぁ……。嬉しそうにニタニタしてる九条は言うまでもなく性格ひねくれてるよね?
「なんですか九条様」
「その棒読みヤメろ。つか、ATMで金下ろすんだろ?」
「あ、うん」
「コンビニでいいっしょ?」
「うん」
コンビニへ行くと、あたしの後ろにベタッとくっついて離れない九条。
「……あの、覗くのやめてくれませんか」
「あ? 別にいいでしょ~。どーせたかが知れてるんだし」
「そういう問題じゃないよね」
「そういう問題っしょ。つーかお前、暗証番号自分の誕生日とかにしてんじゃない?」
ギクッとしたのは言うまでもないよねぇ……はは。
「べっ、別になんだっていいでしょ?」
「くくっ。安直すぎんだよなぁ、お前」
耳元で無駄にイケボを聞かされるあたしの身にもなってほしいもんだ。
「あっ、あの!!」
声がしたほうへあたしと九条は同時に振り向いた。そこにいたのは気の弱そうなコンビニの店員さん。
「か、彼女……嫌がってますよ。しかもATMを覗くのは、その……良くないといいますか」
「あ? なにお前」
九条に怯えてるのかオドオドしてる店員さん。九条って身長高いし、ちょっと雰囲気が怖いのも分かる。きっとあたしが困っているように見えて助けに来てくれたんだろうな、なんていい人なんだろう。
「あ、すみません。この人はえーっと、友達なんですよ~。だから大丈夫です」
「……へえ、""友達""ねえ?」
あぁもうっ! なんだっていいでしょ!? あたしの肩に腕を回して、わざわざ“友達”というワードにツッコんでくる九条が面倒くさい!
『マスターです、サーバントです』って言えばいいの!? この制度を知らない人からしたら、あたし達ヤバい奴だって思われるのがオチですけど!?
「あたしの""おともだち""です」
無の感情でただ笑みを浮かべるあたし。
「……は、はあ……そうなんですね。周りのお客さんの目もありますので距離感は程々に」
「すみません」
「君さぁ、誰に向かってっ……!?」
「あははー!! ごめんなさい、何でもないでーす」
あたしは余計なことを口走りそうだった九条の口を手で必死に押さえた。店員さんは不思議そうな顔をしながら去っていく。で、九条をポイッと捨てて素早くお金を下ろした。
「おい、七瀬。お前っ」
「あんたさ、本当に距離感どうにかなんないの?」
「は? 距離感ってなんだよ」
「バグってんのよ」
「頭がバグってる奴にバグってるって言われてもね~」
「あ、もういいですー」
これは無駄だと判断したあたしは、九条に頭を下げてコンビニから出た。すると、外にいる女子達が九条の話で大盛り上がりしてる。
「ねぇねぇ! あの人、九条柊弥じゃない!?」
「生の九条柊弥はじめて見た!! ヤバぁい!!」
「破壊力半端な!」
「連絡先聞いちゃう!?」
とか騒いでキャッキャしてる。で、あたしの存在に気づくなり、サーッとどこかへ去って行った。おそらくあたしをあいつの彼女か何かと勘違いしたのではなかろうか。めちゃくちゃ迷惑な勘違いだな。そんなことを考えていたら、少年誌を持った九条がやってきた。
「あんた、ちゃんとお金払ってきた? それ」
「……はあ? お前、俺をなんだと思ってんの?」
「一般常識の無いお金持ちのお坊っちゃま」
すると、少年誌の角であたしの頭をゴツンッと叩いてきた九条に殺意しか湧かない。
「いっった!!」
「俺を誰だと思ってんの? お前より遥かに一般常識くらいあるっつーの。馬鹿が」
「ていうか!! 少年誌の角で頭をどつくとかありえないんですけど!!」
「あ? ああ、悪い悪い。手が滑ったわ~」
悪びれる様子もなく、適当にそんなことを言う九条に心底腹が立つわ。いつか、いつか必ず……仕返ししてやる!
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